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第140話 ユーキ・イルミナvs二体のロックワーム

「「GGRIOOuuuu!!」」

「イルミナ、回避だッ!」

「りょ、了解!」


 祠の最奥の間で、俺とイルミナはそれぞれ、ロックワームにつけ狙われていた。

 呼吸が制限され、大きな魔力を運用できない現状では、ロックワームのような巨大な魔物へダメージを与える攻撃が出しにくい。


 そのため、スキルで身体・五感を強化し、回避に集中する。


 ただ、身体を動かし続けるせいで、どうしても息が切れてくる。そのせいで、呼吸をせざるを得なくなる。

 息を吸うと、妙な匂いのするお香の煙が鼻孔を刺激し、若干気分が悪くなった。


 これがザイルイルの仕掛けた罠の一つなのだとすると、いったいどのような悪影響が出るのか。ただまだ、意識が混濁したり興奮作用のようなものは出ていない。


「大丈夫か、イルミナ!?」

「あ、ああ! ただヤツらを退けなければヒロカ様を奪還することもできないぞ! どうする!?」

「「GRuuuu!!」」

「!? 今はひとまず回避だ!」


 俺とイルミナは回避行動を繰り返しつつも、一度張り付くように背中合わせになって会話する。


 ロックワームは、サンドワームの身体が岩石に変化したような見た目をしている。そして頭が一際大きくなっており、岩に入ったヒビのような口には無数の牙が生えていた。


 眼球のようなものは存在せず、おそらくは聴覚か嗅覚のような器官で行動をしていると推測できた。

 だとすれば、ヤツに効果的なのは『魔眼』よりも『魔声』だろうが……今は呼吸を制限している影響で、あまり大きな魔力を生成することができない。


「く! これじゃ防戦一方だぞ!?」

「しかし、ヤツの体表は生半可な攻撃じゃ破れない。下手な攻撃を仕掛ければ、こっちに隙ができて終わりだ!」


 イルミナと共に洞窟内を飛び跳ねつつ、俺はロックワームへの対抗策を考える。

 右脚も先ほどからズキズキと痛みが増しているうえ、大きく魔力を練ることもできないこの状況、なにか打破する手は……?


「GuuRIuuuu!!」

「っ!? イルミナ、距離を取れ!」

「うぉ!?」


 片方のロックワームが、全身を震わせてから咆哮した。

 あれは、消化液を吐く予備動作だ!


「GUGORRoooo!!」

「あぶねっ!?」


 案の定、ヤツの口から消化液が噴き出される。

 ドロリとした液がかかった場所が、瞬く間に溶けてクレーターのようになった。


 あんなものを二匹同時にぶちまけられたら、ひとたまりもないぞ……!

 ……いや、待てよ。


「イルミナ、俺に考えがある!」

「なんだ!?」

「とにかく、今は回避に集中してくれ! 合図したら、また俺のところに飛んできてくれ!」

「わ、わかった! 大丈夫なんだな!?」

「ああ! タイミングを見て合図する!」


 俺は目で合図し、イルミナにさらに動き回るよう促した。

 両足が万全なイルミナは、俺の動きなど目じゃないほどの疾駆を見せる。


「GORRoooo!!」


 よし、予想通りロックワームの一体がイルミナを追跡していく。

 俺は自分を追うワームにも注意しながら、少量の魔力運用でなんとか回避していく。


 視野を広く持ち、上手く立ち回るんだ、ユーキ・ブラックロックよ。


「うぉぉ!? ユーキィィ、いつまで逃げればいいのだぁぁ!?」

「GUUORuuuu!!」

「もう少し耐えてくれ!」


 イルミナは予想以上の躍動感を見せ、ワームを翻弄する。

 俺の意図した通りに、事が進んでいく。


「ぬほほはは、いつまでそうやって逃げ続けることができるのでしょうなぁぁ!?」


 スキルで強化された聴覚が、ザイルイルの醜く高い声を聞かせてくる。

 ふん、余裕ぶってられるのも今のうちだ。


 ヒロカちゃんの肌を穢した報いを、必ず味わわせてやる……!


「GuuRIuuuu!!」


 そこで、俺をつけ狙っている方のロックワームが、長大な全身を立ち上がらせるようにしてから、全体を身震いさせた。


「ッ! イルミナ、今だ! こっちに来い!! 俺に抱き着くぐらいの勢いでッ!!」

「い、いいのか!? いい、いいんだな!?」

「ああ! いいから早くしろッ!!」


 お互い叫ぶように言いながら、俺は態勢を整える。

 イルミナが飛び、駆け、突っ込んでくる。そしてそれを執拗に追う、もう一方のロックワーム。


 来い、イルミナ! そのまま、こっちに来い!!


「GURRoooo!!」

「GIIUUOuuuu!!」

「うぉぉぉぉ!?」

「お、おいイルミナ、ちょ、止まれぇぇ!?」


 勢い余ったイルミナを、俺は強化した全身で、なんとか受け止める。

 そして――次の瞬間。


 彼女を抱き留めたまま、俺はその場から跳ぶ。


「GUGIIRRoooo!?」

「GYUROoouuuu?!」


 すると、ロックワーム同士が、正面から鉢合わせる形になり、刹那。

 ――両者の間に、消化液がぶちまけられた。


「GIIRGGRoooouuuu!?」

「GYUIIRuRuOoouu?!」


 片方のロックワームから噴射された溶解液が、一体へぶつかるように浴びせられる。そしてそいつが暴れまわるせいで溶解が伝播する。


「イルミナ、魔法で畳みかけるぞ!」

「こ、心得た!」

「「うおおぉぉぉぉッ!」」


 俺とイルミナは身体を寄せ合ったまま、ファイアボールやサンダーボルトを乱発し、苦しむ二匹を燃やし尽くさんと押し潰す。


 遠目に見える祭壇のザイルイルの顔が、苦虫を噛み潰したように変わる。


 ――二匹のロックワームが、燃え溶けるように消えていく。


「……次はお前だ、ザイルイル」


 俺は大きく息を吐きながら、ザイルイルを睨みつけた。



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