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第131話 嫌な夢を見た

「…………んん」


 まどろみの中から、徐々に意識が覚醒していく。


 そうだ、二日酔いになっていたんだった。

 俺は自分の体調の悪さを思い出し、ゆっくりと頭を起こしてみた。


 頭痛というほどでもないが、少し頭が重い感じがする。

 だが……うん、吐き気はだいぶ収まったみたいだ。


 フィズの薬草を飲んで眠ったおかげだろう。


「うぅ……」


 隣で呻き声がし、視線を向ける。

 そこにはイルミナが苦しそうな顔で横になっていた。

 あれ、こいつは少し離れた場所で寝ていたはずだけど……まぁ細かいことはいいか。


「おい、イルミナ。大丈夫か?」

「だ、大丈夫……」


 揺すったりすると寝ゲ〇したりしちゃうから、顔色を見つつ声だけかける。

 とりあえず具合を診てみないといけないよな。


「イルミナ、ほら、身体起せるか? ゆっくりいくぞ」

「ぐぅ……頭が、ちょっと重いな……うぅ」


 イルミナの背中に手を添え、上半身をゆっくりと起こしてやる。頭が揺れたせいで若干辛いのか、涙目でうぐうぐとべそをかく。


「ほら、水飲め」

「あぁ……んぐ……んぐ……あー水うまい」


 ヒロカちゃんが枕元に置いていってくれた水瓶を、直接口元に持っていってやる。

 イルミナは一気に水を飲み干すと、身体中の毒素が出きったみたいな顔をして、大きく息を吐いた。


 うん、少し顔色がよくなったな。

 楽になればと思い、背中をさすってやる。


「あぁー、もう一杯水をくれ、ユーキ……」

「今汲んでくるからちょっと待ってろ。ほら、ここんとこに寄りかかれ」

「んー」


 水を所望したイルミナを壁に寄りかからせて、俺はよっこらしょっと立ち上がる。

 うん、普通に立ち上がれるぞ。俺自身はもうだいぶ良いみたいだ。


 水を持って戻ると、イルミナは少し放心したような顔をしていた。


「ほら、汲んできたぞ」

「ユーキ……すまん」

「いいから飲め」


 背中を支えてやり、また水を飲ませる。

 三杯目を飲み終えたぐらいで、イルミナの顔に生気が戻ってきた。


「よし……もう大丈夫だ。ユーキ、私たちも祠とやらに行こう」

「え? いや、お前絶対無理してるだろ」


 深呼吸したイルミナがヨロヨロと立ち上がり、気合十分な感じで言った。

 しかしどう見ても虚勢を張っているように見える。


「無理などしていない。私は自分の責務を遂行できない、愚かで不甲斐ない人間だ。しかしだからこそ、今ここで汚名を返上したい。それはユーキ、お前もだろう?」

「……ああ。それはそうだ」

「ヒロカ様に見限られたままでは、ダイトラスには帰れぬからな」


 もう一つ実は、個人的に心配なことがあった。

 眠っているとき、嫌な夢を見たのだ。端的に言えば、ヒロカちゃんと離れることになるといった内容だった。


 おそらく眠る前、彼女たちだけで祠に行くと言われて抱いた心配が、心象風景として夢の中で映像になったのかもしれない。


 ただの取り越し苦労でしかないかもしれないが、不安は不安だ。


「じゃあ支度するか。イルミナ、一人でいけるか?」

「うっ……ユーキ、着替えさせてくれぇ」

「馬鹿言うな。いい大人が甘え過ぎだろ」

「私のナイスバディを味わう、またとないチャンスだぞぉ」

「い、いらんわ!」


 ダル絡みしてくるイルミナをいなして、各自別々の部屋で身支度を整えた。

 ……ちょっとだけでも手伝えばよかったなぁとか、決して思ってませんからね?


◇◇◇


「勇んで飛び出したはいいけど……」

「どうしたものだろうな……」


 関所の待機所から聖魔樹海側の出口を出た俺たちは、数歩進んだところで立ち往生していた。

 そう、どこに祠があるのかわからないのだ。


 あぁ、こんなことなら寝ちまう前に地図とかもらっておくんだった!

 大司教以上じゃないとどうのこうの言っていたけど、別に樹教の信者でもなんでもない俺達には、本質的には関係ない話だしな。


 あーもう、どうしたもんか。

 ここは聖魔樹海だ、周囲を手当たり次第に探すなんてことしてたら、命がいくつあっても足りんぞ。


「ユーキさん、イルミナさん。いかがされましたか?」

「あっ」


 と、背後から声がかかる。

 振り向くとそこには、よくザイルイル大司教の隣にいた従者の男性。

 確か、会談のときに司会役をやっていた人だ。名前は……ディンゼルさん、だったか。


 俺たちの動きを察知して、待機所から追ってきてくれたのだろうか?


「遅ればせながら俺たちも、祠に行かなければと思ったんですが、道を把握していなくて。できれば、道を知っている方に案内を頼みたいのですが」


 階級が高くないと場所は知らない、というようなことをザイルイル大司教が話していたが、いつも側にいる彼なら知っているのでは?と思い、聞いてみる。


 もし立場がどうとか決まりがどうとかで断られたら、そもそも俺たちには関係ないの一点張りでいくしかないな。


「……わかりました。わたしが案内しましょう」

「ありがとうございます」

「では、さっそくですが行きましょうか。あまり悠長にもしていられませんから」


 思っていたよりすんなりと、彼は道案内を承諾してくれた。


 というより、よく見たらやけに用意周到な感じで旅支度を整えていたようだった。あれか、ザイルイル大司教を迎えに行くつもりだったとかかな?


 とにもかくにも俺たちは、ディンゼルさんを案内人とし、『樹教の祠』とやらへ出発した。


 妙な胸騒ぎが、俺の胸に広がっていた。



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