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第124話 二度目の聖魔樹海へ

 デムナアザレムとダイトラス派遣団の合同聖魔樹海遠征、当日。

 出発前の時間を利用し、俺は馬車に詰め込んだ装備などの確認を入念に行っていた。


 まずは食料……おっけー。

 次に装備類も……おっけー。

 そんでもっていざというときに役立つ魔石や道具類……おい、なんかワイン置いてあるぞ。絶対イルミナだろこれ。


「ほほ、ではそろそろ出発するといたしましょう」

「はい、よろしくお願いいたします」


 俺がイルミナが忍ばせたであろうワインを見つけたタイミングで、最終調整として兵舎で話していたザイルイル大司教とヒロカちゃんが、それぞれの隊へと戻った。


 それが出発の合図となり、俺たちは隊列を組み、デムナアザレムの高い城壁を出た。イルミナのワインは、ひとまず見なかったことにしてやろう。


 隊列としては、まず俺たちダイトラス隊が先頭をゆく。

 俺とヒロカちゃんが横並びになり、その後ろに馬車が続く。そしてその後方を守るようにして、イルミナがしんがりを務める形だ。


 一方、デムナアザレム隊は、大仰な装飾が散りばめられた神輿のようなものを、八名ほどの従者が支え、それこそ神輿を担ぐようにして行進している。神輿の上には大きな椅子が置かれ、当然のようにザイルイル大司教が座している。


 神輿の周囲を取り囲むようにして、従者と同数程度の武装した兵士らが護衛として同行するようだ。

 んー……なんというかザイルイル大司教、あれで居心地が悪くなったりしないのだろうか?


 もしかしたら権威を示す意味もあるのかもしれないが、自分が楽をするためにああして近しい人たちに苦労を押し付けるとなると、俺だったら居心地が悪くなってたまったもんじゃない。


 そんなことを考えつつ少し視線を前に戻していくと、デムナアザレム隊を導くような前の位置に、小さな馬に乗ったフィズがいた。もうすっかり馬にも慣れた様子だ。


 全体としては、なかなかの大所帯である。

 こういった場合の遠征では、先頭である俺の索敵能力がかなり重要になってくる。気を引き締めてかからねば。


 デムナアザレムから最寄りの聖魔樹海の入口へは、日数としては二日程度。


 今回は聖魔樹海で、一日野営を敢行する予定だ。

 これはなにより、大聖堂建設にあたって、聖魔樹海の現在の安全性を確認したいというデムナアザレム側の意向によるもの。


 俺個人としては正直、一日もいたくないのが本音だけれど。


「先生、今回は私の判断を尊重してくれてありがとうございます」


 と、そこで隣のヒロカちゃんが、恐縮した感じで言った。


「いや、気にしないで。今も危険を冒してまで聖魔樹海に行く必要はないって思ってはいるけど、ヒロカちゃんが選択した理由も、理解はできるからさ」

「……ありがとうございます。前までの私とは違いますから、先生は大船に乗ったつもりでいてください!」

「こらこら。ヒロカちゃんは確かに段違いに強くたくましくなってるけど、油断は禁物だよ」

「むー、それはそうですけど。たまには先生に頼られたいです」

「何言ってんの、いつもめっちゃ頼りにしてるよ」


 そんな会話を交わしながら、俺たちは長い道のりのスタートを切った。


◇◇◇


「見えてきた」


 デムナアザレムを出立してから、一日半。

 隊は何事もなく、無事に関所が見える地点まで進んでいた。


 大陸と聖魔樹海の境界の在り様は、世界各地で様々だが、ここは関所が建てられているようだ。

 関所の先に見える聖魔樹海の空は、相変わらず紫色のおどろおどろしいまだら模様。見ているだけで気分が悪くなる。


「後続にもしらせてきますね」

「うん、お願い」


 俺が指示を出す前に、ヒロカちゃんが先んじて、後方へと伝達へ向かった。

 一人、俺は関所へと馬を走らせ、その先の状況を一足先に確認することにした。


 聖魔樹海の関所は、基本的には無人だ。だいたいは山と山の間に立つダムのような形で設置され、高い石壁と簡素な待機所がセットになっている。


 関所前の馬屋に馬を止め、俺は入り口へと向かう。


「よっと」


 あまり使われることがないため、埃をかぶることも多い関所内の待機所。

 今日はおそらくここを使って夜を越えることになるだろう。


 荷物を置き、簡単な掃除を済ませる。


「先生、手伝います」

「ありがとう」


 いくつかの備蓄品を移動させたところで、ヒロカちゃんが戻ってきた。

 二人で待機所を片付け、一息つく。


「ふぅ。明日以降、本格的に聖魔樹海に入るね」

「そうですね。ここまでの道中みたいに、向こうの状況も落ち着いているといいですけど……あ、ちょっと見てみますか?」


 ヒロカちゃんがポニーテールを触りながら、何気なく言った。


「え?」

「あれです」


 待機所には、石壁を繰り抜くような形で作られた、聖魔樹海側を確認する小窓があった。そこを指さすヒロカちゃん。


 あそこから、聖魔樹海の様子を確認しようということだ。


「だね、ちょっと見てみようか」

「あ、先生ずるい! 私も!」


 俺が先んじて覗き込もうとすると、ヒロカちゃんも身を乗り出して顔を近づけてきた。

 おいおい、近いってば。おじさんJKに接近されると体臭が気になっちゃうんだから…………ってうお!?


「び、びっくりした……」

「おいおいおいおい……」


 俺とヒロカちゃんは、同時に驚き小窓から離れる。


 なんと、小窓から目視できるすぐそこに――地竜。

 聖魔樹海の門番、グラウンドドラゴンがいたのだった。


 聖魔樹海側から、石壁を震わせるほどの咆哮が鳴り響いていた。



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