第15話 友情の証
皇帝への貢ぎ物を無事に渡したニコラ達は、まだジゼルに会っていなかったので彼女にも会うために礼拝堂に足を運ぶ。
二人はいつものように礼拝堂に行くと、ジゼルが床を磨いていた。二人に気付いた彼女は一旦作業を止めて駆け寄った。
「久しぶりージゼルちゃん。無事でよかった」
「こちらこそ、お久しぶりですセレンさん。ニコラさんも御壮健ですか?」
「いつも通りだよ。掃除手伝う?」
「いえ、これは私の職務ですからそれには及びません」
「ん?ちょっと、何でジゼルちゃんはいつの間にニコラ呼びなの?あたしが居ない間に何してたのよ!」
セレンは頬を膨らませてニコラに抗議する。自分というモノがありながら何日も放って置いて、その間に別の女性と距離を縮めていたのだから女としては面白くない。ここでジゼルに怒らないのはセレンが友人として彼女を信じているからだろう。
反対にニコラには毎日のように自分を弄っていた前科がある。身近にいて仲の良いジゼルに手を出しているのではないかと疑った。
やましい事など何もしていないのに疑われたニコラは腹が立って、ちょっと傷付いた。だから釈明を兼ねてセレンを後ろから抱き抱えて耳や首筋を口で撫で回して、空いている手で身体をまさぐる。
いきなり男女の痴れ事が始まり、ジゼルはあまりの衝撃にモップを取り落として放心した。セレンもまた訳も分からず、ただただ散々に教え込まれた快楽に身を委ねそうになっていた。
「俺がこんな事するのはお前だけだからな。変な事疑ってジゼルさんに失礼な事言うなよ」
「ひゃん!ちょ、こんなところで止めてってばっ!分かったから、疑ったのはあたしが悪かったって!ひぃぅん!」
「―――はっ!?二人ともやめてくださいっ!ここは神聖な礼拝堂ですよ!そんな事は自分の家に帰ってなさってください!」
「でも、ジュノー神って結婚と豊穣を司る女神なんだから、こういう行為って推奨するものじゃないの?それに俺とセレンがどれだけ深い仲で潔白なのか女神様に見てもらって証明しないと」
「何を尤もらしい屁理屈を捏ね繰り回しているのですかっ!!そもそも公衆の面前でするような行為でもありません!!」
ジゼルが本気で怒っているのを察したニコラはこれ以上セレンの身体を弄るのを止めて真面目に謝罪した。
謝り倒して何とか許してもらった二人。正確には九割方ニコラが原因である。セレンの方はジゼルが従軍中にあった事を教えて誤解を解いておいた。
そしてニコラは罰としてジゼルの代わりに床磨きをさせられていた。これはジゼルが言い出した事ではなくセレンの発案だ。
ニコラを働かせている間、二人はお喋りに興じ、久しぶりに会えた友人と心行くまで楽しい時を過ごした。
「あっそうだ。ジゼルちゃんに渡す物があったんだ」
セレンはそう言って尻のポケットから包みを取り出してジゼルに渡した。包みを開くと、そこには親指より小さな紐の付いた原石に近い黄水晶が鎮座している。
「これは村で採掘した水晶ですか?」
「そうだよ、村で試しに作ってみた奴。まだまだ人の作った物には勝てないけど、一番良い出来のをジゼルちゃんに渡そうってニコラと話し合ったの」
「そんな、私などが受け取れませんわ」
「いいのいいの。友達に贈るんだったら誰も駄目だって言わないよ。それに、村でジゼルちゃんにお世話になったエルフは沢山居るんだから、そのお礼って事で受け取ってよ」
打算も功利も、まして媚びへつらいも無い、純粋で無邪気なセレンの好意に触れたジゼルは喜びから思わず泣きだしてしまう。
ようやく泣き止んだジゼルは眼を腫らしながらも二人に礼を言って、首から水晶を下げた。紐も水晶も粗削りで優美さに欠けるが、却って漆黒の尼僧服には似合っており、まるで夜空に輝く月のよう見えた。
気に入ってもらえて機嫌の良いセレンは今度時間が出来たら、また三人で街に遊びに行く約束をした。勿論以前ニコラに買ってもらった服を着て、黄水晶も身に着けてだ。
そして、もう少し話していたかったが、残念ながら皇帝との面会の時間になったので、二人はジゼルに謝りつつ礼拝堂を辞した。
一人礼拝堂に残されたジゼルはじっと貰ったばかりの水晶を眺め、その透き通る美しさを楽しんでいた。
第三章はこれで終わりです。第四章はまだ完成していないので暫くお待ちください。
それではお読みくださってありがとうございました。




