表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/189

旅と再会(2)……双子

 竜人の郷へは翌々日発つことに決まり、その前日ラズはリンドウの引越しの手伝いとして、彼女と二人、少ない荷物を運んだ。

 ソリティの隣の洞は、シヴィの家の真反対、郷の一番端にある。日当たりがあまりよく無くて、地面からわずかに水分が染み出しており、荒野に珍しく苔が生えていた。


「……ここ?」


 じめじめ、という言葉がふさわしい、あまりパッとしない場所だ。


「そう。この苔、夜になったら光るんだよ」


 リンドウは嬉しそうに言った。まあ、気に入っているなら何よりだ。


 その帰り道、教会の中庭にファナ=ノアの姿があるのに気がついて、ラズは声をかけた。


「ファナってその場所、好きなの?」


 ファナ=ノアは顔を上げて微笑んだ。


「それもあるが、ここは所謂(いわゆる)パワースポット、なんだ」

「?」


 ファナ=ノアが場所を開けて手招きする。

 腕を上げると、肘から先に蔦のような形状の銀と黒の腕輪が袖から垣間見えた。輝石を加工したもののようだ。

 ラズはその場所に立ってみて、驚いた。


「うわ……不思議な感覚」


 術で消費する生命エネルギーに似た何かが足元から溢れ出て、ともすれば身体に入り込んでくる。自分のものではないので少し気持ち悪いが、これを利用して術を使えば何倍か威力が出そうだ。


「ここだと治りも早いし、荒野を広く見渡せる」


 だから以前、体調をおしてタキの郷を『視た』とき、ここにいたのか、とラズは納得した。


(そういや、旅立つ前に聞いておかないと)


 ファナ=ノアとゆっくり話ができるのはこれが最後かもしれない。


「……ところで、変なこと訊いてもいい?」


 ラズがそう言うと、ファナ=ノアはなぜか変な顔をした。少し焦っているような、珍しい表情だ。


「え、あ、うん。なんだ?」

「僕、昔から、ファナがいる方向が、なんとなく分かるんだ。どうしてなのかな」

「ラズ、そんな話、初めて聞いたけど」


 リンドウが怪訝な顔をする。


「さすがに変かなって思ってたから、なんとなく言いづらくて」

「……ああ、その話」


 ファナ=ノアは咳払いした。──何を訊かれると思ったのだろうか。


「私の魂の気配が独特だからだろ。君の気配も変わっているから、すぐ分かる」


 こともなげに答えたので、ラズは目をぱちくりさせた。


「君は私以外の気配は感じないのか?」

「うん。なんのことか全然。……他の()()って例えば何?」

「一番は、世界の中心にいる<虚の王>の気配。それから輝石や荒野の大地、……あの黒竜にも、近づくと同じような気配を感じた。

 あと一瞬だったけど、一週間くらい前に竜人の郷の方にも変な気配を感じたな」


 ファナ=ノアは世間話をするように続けた。


「術の強さとはおそらく関係ない。君の気配は未成熟感があるから、他の気配が分からないのかもな」


 一緒に聞いていたリンドウは、目を丸くしてラズを見た。


「それなのに、私の気配(もの)だけ分かるというのは……」


 ファナ=ノアは言うかどうか、少し迷っているようだった。


「君はこの間、双子の弟がいた、って言っただろう」

「うん」

「多分、それは……私だった」


「────え?」


「記憶があるんだ。虚の王にすぐに魂を拾いあげられて別の子どもの中に入れられた。つまり、双子みたいな存在だから、夢が繋がり、気配に敏感になったんじゃないか」

「……産まれる時に、死んじゃった記憶があるの」


 ファナ=ノアは目を伏せた。


「そんな顔をしなくていい。記憶があるだけで、ほとんど別人だから」


 考え込んでいたリンドウがあっと小さく声をあげた。


「三週間前にラズが急に倒れたのって、双子に時々ある、虫の知らせってこと? ……だからあの時あんなに焦ってたの?」

「──うん。あの後、ファナの気配が分からなくなったから……」


 ふっ、とファナ=ノアが笑った。


「……それで言うなら、五ヶ月前、私も急に気を失って騒ぎになったな」


 ──五ヶ月前。

 記憶を遡って、ラズは少し気まずくなった。


「────あ。あの時はごめん」

「全くだ。死ぬ気だったろ、あの時」


 ファナ=ノアは暗くならないようにわざと悪戯っぽい笑みを浮かべた。それから笑みを収める。


「……私には、どうすることも出来なかった」

「そんなことない。生きる目的をもらったよ」


 少し揺れる赤い瞳を見返して、ラズは努めて明るく言った。


「でも、どうやって助かったんだ?」

「レノが助けてくれたんだ。生命(いのち)を分けたって言ってた」

「────そんな、こと」


 ファナ=ノアは目を見開いた。それから眉根を寄せ、考え込む素振りをした。

 ──それほど驚くことなのか? ラズは困惑してファナ=ノアの顔色を窺う。

 ややあって、ファナ=ノアは口を開いた。


「魂を分け与えられたなら、その記憶も見るんじゃないか?」

「────うん。少しだけど」


 ラズが驚きながら答えると、ファナ=ノアは難しい顔をしていたが、その後ふう、と息を吐いた。


「不思議な人だな……。でも、悪い人じゃない、よな?」

「うん。レノは優しい人だよ」

「レノが優しいのはラズに対してだけだけどね」


 リンドウが少し笑って言った。それはどこか虚しげな口調だった。


「ラズまで──神がかったことに関わってると思わなかった」

「リン姉? どうしたの?」


 ラズはその顔を見上げる。

 ──目が合わない。それがなんだかとても心許なくて、胸が騒ぐ。


「リン。ラズはちゃんと人間だよ」


 リンドウははっとして口に手を当てた。


「ごめん、ごめんね……」

「リン姉! 何暗くなってんの?」


 動揺を取り繕うようにラズは笑いかけた。


「リン姉だって、普通じゃないでしょ~? 毒の森に住む魔女!」

「──! あんたなんでその話知ってんの!? もしかして、レノが言ったの?!」


 焦った表情のリンドウから一歩下がって、悪戯っぽく笑い、ラズは踵を返した。


「違うよ! ちょっとね。──僕そろそろ、シヴィの家にお邪魔してくるよ!」

「あ、こら!」




 † † †




 あっという間に姿が見えなくなったラズを見送ってから、ファナ=ノアは立ち尽くしたリンドウに声をかけた。


「リン、──ラズが怖い?」

「ああ、だめね、私……」


 リンドウは首を振った。彼女の心中は複雑なんだろう。


「でも、そんな特別な子だったなんて」

「ラズはラズだろう。彼は立ち直ったように見えて、まだどこか脆い。リンは彼にとってかけがえのない存在だと思うよ」

「ええ──そうね。ありがとう、ファナ=ノア」

「お節介に、礼はいらない。あと、もしリンが疲れたら、私も彼を支えるし、無理に気負わなくていいからな」

「ファナ=ノアは背負い過ぎじゃない? ──全く。困った子たち」


 リンドウは力なく微笑んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=442401462&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ