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66.言われるまでもないこと




文ちゃんのお祖母さんは、一度息を整えると、落ち着いた声で先祖の話を始めた。


「本家の保護のもと、私たちの先祖はこの地で始祖を祀って生きてきました。

荒波のような時代も、私たちの祀る神によって守られ……普通なら、代を重ねるにつれ薄くなるはずの力を、無くすことなく」

「…つまり…あなたにも?」

「いえ、稀に私のような無能者が生まれますが、ほとんどの者は力を持つのです。その与えられた力には、かなりの差がありましたが……」



―――お祖母さん曰く、彼女たちの祀る神は今でも子孫を愛しているのか、能力を持たないお祖母さんの「祈祷」にも応えてくれるのだという。

なので、彼女たちのもとには今でも災厄に襲われ助けを求める人間が多く来る。そこらの神社の神主よりも、胡散臭い霊能力者よりも―――下手をすると、並みの術者よりも確実に、厄災を祓うことが出来るからだ。


「でも、あなたたちが持つのはただの巫女としての力だけじゃあない」

「……異能力、ということ?」

「そ」


かつて祟るもの、厄災を引きずり込むものの和霊(にきたま)としての恩恵以外にも、彼女たちが得ていたもの―――「異能力者」としての力。

通常はこの手の一族の能力者の数も力も減っていくものなのだが、御巫家に限ってはその衰えがない。


榎耶の推測では、祟り神の妻こと比売神(ひめがみ)の影響だという。

比売神は生前はとても強力な異能力者で、「(良くも悪くも)与える」力を持っており、御巫一族には主祭神である祟り神ではなく比売神の血が強く出た―――ということなのではないか、と。


「私たちはこの力で、いかなる時代も無事に乗り越えることが出来ました。……けれど、大戦が始まると…私たちは、はしたないことではありますが、お金に困るようになりました」

「お金?」

「…御巫ではね、神に守られるのは女だけなんだ。男児の多くは幼いうちに病死するの」

「……じゃあ、文ちゃんの双子のお兄さんが亡くなったのは―――」

「うん、珍しいことではなかったのさ」


あっさりした言葉である。


「…ですが、やはり可愛い我が子ですから。私たちの先祖も何とか生かそうと手を尽くし、その結果として貧しい生活を送ることになり……戦後になってから特に増えた"移住組"の魔術師の皆様によって、御巫の存在価値すらも失われ始めました」


それはよく聞いた話だ。

戦後、溢れんばかりの怪異の暴走があちこちで起こり、それを鎮めるために「移住組」である西洋魔術師が活躍する一方で、本来その手の暴走などを鎮めていた「先住組」の家々は衰退し途絶えたものが多い。

今でも「先住組」で元気な家はかなりのやり手の腹黒が暗躍したか、「移住組」も恐れる術者を持つ名家か、非常に運の良かった家ぐらいのものだ。あとは皆細々と暮らしている。

そのため、ただでさえ領域を侵されたくなかったのに、この上勝手に活躍の場まで奪われたことで「移住組」はかなり「先住組」に嫌われている…というわけだ。ひどい所だと今でも小競り合いがあるらしい。


しかしこの小競り合いは無意味でもあり、「先住組」の保護のため、そして「移住組」の安全のためにも各名家同士で話し合い―――規則と一般人には秘された、怪異現象専門の機関が作られたというわけである。


それでもまだまだ仲の悪い「先住組」と「移住組」だが、安居院と篠崎のように交流を持ち友好関係を築く家々もあるのだ。……一部だけど。



「―――私たちは、御巫を……一族を守るため、人としてやってはならぬことをしました。愛情深き我が神に縋り―――人を呪うことで、生活を支えたのです」

「………え?」


……人を、呪う。

それは自分を、自らの魂を穢す行為である。だから真っ当な魔術師は呪術というものを学びこそすれ、使おうとする者はいない。


「我が神に頼れば、異国の魔術師たちではどうしようもないことを知っていた私たちは、野心のある者の願いを叶えお金を得ました。……一族のものたちも、最初は批判が多かったのですが……その行為で得たお金で、我が子が少しでも元気になるのを見て、誰も止めなくなりました。むしろ、あらゆるものを誘い込みました。怪しい宗教家だろうが、政治家だろうが―――我が神は私たちの祈りに応え、願い通りに祟りを成しました」


祟られた者は、おそらくどこの術者に助けを求めて駆け込んでも断られたに違いない。

神霊には可能な限り触れない、それはどこの家でも―――特に「移住組」の人間は徹底していることだ。


「誰であろうと祟れるその恐ろしさから、御巫は重要視されるようになり……今では、呪術ならば御巫と言われるまでになりました」


―――ならばきっと、お父さんも「御巫」の恐ろしさを知っていたのだろう。

けれど、この土地の管理者であり「移住組」代表の安居院家の娘である私に、「巫女としての力しかない」と思われていた文ちゃんとの交流は危険ではないと考えて、何も言わなかったのだろう。


「……文ちゃんは、そのことを知っているんですか?」

「いえ……あの子は、我が家の真実など知りません。誰かを祟る恐ろしい家業も継いではいません。天地神明に誓って、何も知らないのです」


お祖母さんは、私の目を見て必死に真実なのだと訴えた。

その様子は確かに嘘もなさそうで、私はお祖母さんの目を見つめ返しながら尋ねた。


「それなら…文ちゃんを虐めていた連中が尽く襲撃されているのは、祟りではなく文ちゃん個人の能力ということですか?」

「……いいえ。それは……祟りです」

「………あなたが、祟ってやった…ということですか?」

「……」


一度目をそらしたお祖母さんは、そのまま自分の膝を見つめながら掠れた声で話した。



「……私は……確かに一度、あの子に大怪我を負わせ反省もしなかった男の子を、祟ったことがあります」

「!」

「私は…あの子が何よりも愛おしんでいた文ちゃんを、遊びのように傷つけたことが許せなくて……祟りました。その結果、あの子の家は不幸が続いて一家離散となり、二度と文ちゃんの前に現れなくなりました……そのことで、文ちゃんもしばらく誰にもいじめられなくなった……」

「―――その代わり、『御巫 文は祟る』なんて言われるようになった」

「ええ…そうです篠崎さま……私は、怒りで目先のことしか考えられず、あの子の将来のことを考えてやれなかった。だから次にいじめられることがあっても、もう二度とこの手段は取らないと心に決めました」


けれど……、と、お祖母さんの声は暗くなる。


「あの方は…私たちの仕える御神は、違いました……。元々、私たち一族の女は御神の声か、姿までも見ることが出来ますが、あの子は御神に触れることができた。

その時点であの子は御神にとって特別な子であったのに、あの子が幼くして両親を亡くしてしまって……哀れんだ御神は、実の親のようにあの子を守ろうとしたのです」

「それが、祟りだと……?」

「ええ。あの子を害すものには祟りを。あの子を愛すものには加護を―――」


―――加護。

その言葉に、ハッとして思い浮かんだのはバスケットボール事件のことだ。

文ちゃんを友達に紹介していた時、恐らくそれを良しとしなかった人間に投げられたボールを、私は()()()()()によって軽傷で済んだ。

図書館で魔導書をかなり安全な状態で発見した時もそうなのかは分からないが……けれどあの日、保健室で私を心配する文ちゃんがこの手に触れたとき、「違和感」が消えたのは巫女である彼女を通して証拠隠滅をはかり、文ちゃんと純粋な関係を築いて欲しかったからなのだろう。


「……あとでお賽銭投げとこ」

「律儀だねえ」


思わず呟くと、呆れたような榎耶がお茶を飲む。お祖母さんも、私の反応に少し安心したようでちょっとだけ笑みを浮かべてくれた。


「……。でも、加護を与えることは少ないのです。あの子に悪意を持つ者は多い―――御神は、そんな存在を許すことが出来ずに徹底的に報復して、その結果あの子を孤独にしてしまう……私が鎮めようにも、御神は私の言葉よりあの子の安全をとってしまうから、私は何もできない……今回の、あの子を辱めようとした者たちへの祟りも、私では止められないのです。御神の怒りが治まるまで、待つしかない……」

「…それか、原因のもとでも突き出して勘弁してもらうしかないね」


お茶を飲みきった榎耶が、項垂れるお祖母さんに代わって代案を一つあげた。


「本来なら勝手に災いを起こす神も、いつものような干渉方法では、悪用されている魔導書の力が発動しているこの土地をかなり悪化させることに気づいている。

だから寄り代―――依巫(よりまし)を使うことで祟りを完遂しようとしている」

「じゃあ、昨日のあれは―――依巫?いったい誰が復讐の代行者なんてしているの?まさか……文ちゃん…?」

「違う。それなら大厄災が起きてる。今、依巫となっているのは……流鏑馬 国光だよ」

「え…」



流鏑馬が、依巫として、復讐の代行をしている。

―――ありえない話ではない。それなら今朝の体調不良だって理由がつく。ただの一般人が力ある神に操られているのだ、そりゃあ体調も悪くなるというものだ。けれど……。


「…でも、どうして流鏑馬なの?効率的にやるなら、もっと力の引き出せる人間がいたのでは?」

「今の御巫家で使える人間は、あの子の祖父母とあの子自身、もしくはあの子の従姉妹くらいなもの。でもお祖母さんは意思に従わないだろうし、お祖父さんは足が悪いときた。従姉妹ちゃんは幼女だし、文ちゃんを使えば【霊安室】の化け物どもが動く騒ぎになる。

……なら、安居院が出張る程度の駒を使うしかないってわけ」

「そりゃ……流鏑馬ぐらいなら、あんまり脅威でも……って十分脅威だったんだけど!」

「神様も、あそこまで流鏑馬が出来る子だと思わなかったんじゃないの。それに、素人のくせに結構同調出来ていたから」



榎耶が言うには、流鏑馬が選ばれた理由は「文ちゃんを誰よりも想っている」「誰よりもこの件で殺意を抱いている」ことだろうと―――神の意思とぴったり一致している為だろうとのことだ。

恐らく選ばれなかったとしても、流鏑馬は必ず一人で復讐を始めただろう。そこまで覚悟を決めた人間だからこそ、神の目に留まったのか。


「でも流鏑馬にも限界がある。このままやって流鏑馬という駒が使えなくなったら、最悪神様自身が乗り込むか、文ちゃんを使いかねない。そしてそのどちらも、文ちゃんにも私たちにとってもバッドエンド、ってこと」

「それを回避するために―――原因を引っ張り出せと?」

「うん。それなら原因の人間一人だけの命で済む。篠崎と安居院―――いや、先住組と移住組の安定した関係が壊れることもなく、死者も少人数で済み、文ちゃんは危険人物として殺されるか座敷牢で飼い殺し、なんて目にも遭わない。最良の方法だと言えるね」


確かに……そうだが。


「でも、魔導書を持っている犯人が見つからないの。女子で同い年ってことは分かるけど……」

「ああ、それなら大丈夫。夕方にでも連絡が来るさ」

「え?」

「それよりも君は、彼女の異能について知らねばね」


そう言って、榎耶は勝手にお茶を注いで飲むと、茶菓子を頬張り始めた。

暗に話す気はないと言われて、私は溜息を吐きそうになるのを堪えて、お祖母さんを見る。


「……えぇっと、文ちゃんの周りの祟りも、私を守ってくれた加護も神様の力であるのは分かりました……けれど、愛されているというだけでそこまで―――常に力を引き出せるのですか?」

「出せます。あの子にはそれだけの力があるし、日々神に供物を捧げていますから」

「え?」

「猫のぬいぐるみを見たことがあるでしょう。あれは、我らが御神の分霊(わけみたま)なのですよ」



―――お祖母さんの説明によると。

本来は、早死にする男児や、力があり過ぎて良くないものに狙われる女子供を守るため、かつて御巫でもかなり力のあった巫女が、受け継いできた着物を使って作り上げた、最高級の「お守り」―――であったのだという。


代々受け継がれてきたその「お守り」を、文ちゃんもまたお母さんから受け取っていた。

家族のように大事にしていたその「お守り」を一度神社に持って行ってからは特に力を持ち、文ちゃんが「家族」として見、「家族」として遇した結果、神が宿り完璧な分霊となったのだろう。

あのお揃いだといったぬいぐるみ用の服も、遊びに行くといつも一つ余計にある菓子や飲み物も―――文ちゃんとしては特別な意味はなくとも、立派な供物だった、ということか。


「あの子は、私たちにも言えない悩みや悲しみも、あのぬいぐるみには全て打ち明けます。その結果、ぬいぐるみはあの子を苦しませるものを排除しようと動くことができる。

……最近は特に心が通うことが多くなって、あの子が激しく怒ったり、憎むことがあればすぐにぬいぐるみ―――いえ、御神が出てくるのです」

「なるほど……じゃあ、異能力者としての力は?」

「……それは……実は、私たちもよくは……けれど、絵に関するものではないかと」

「絵?」


こくり、とお祖母さんは真剣な顔で頷く。


「……昔、あの子がまだ笑っていてくれた頃……私たちに絵を贈ってくれたことがありました。私が体調を崩して行けなかった薔薇庭園を絵にして、娘が自慢げに持ってきて……お祖父さんが褒め称えると、あの子は照れくさそうに笑って、『あげる』と―――そう言って、居間に飾っていたときのことです」


―――最初に気づいたのはお祖父さん。風邪をぶり返したお祖母さんのために体温計やら薬やらを探しに居間に入ったとき。目の前をひらひらした蝶が飛んでいたのだという。

クレヨンで描かれた蝶はどこか呑気で、害するようには思えず―――お祖父さんは蝶をそのままに、まずお祖母さんのためにと必要なものを集めて看病をしているうちに、その怪異現象は消えていたのだという。


やがてお祖父さんも話題に出すことなく、記憶から薄れてきた頃。地震が起きて慌てて居間に逃げ込んだ二人が見たのは、クレヨンの蝶とクレヨンの花弁が舞い遊ぶ光景だった。


「驚きましたが…けれど、描いた物を飛び出させるくらいなら普通(・・)だと思いましたし、娘への確認の電話はせずに次に遊びに来たときにでも話そうと考えていました。

文ちゃんは毎日絵を描いていると聞いていたから、もうすでに知っているかと思って……娘自身も異能力者ですから、狼狽えることはないだろうと思っていたんです」

「…それで?」

「次に来たとき……娘は、どこか様子がおかしく……当時すでに亡くなっていた孫息子が、まるでそこに居るような言動をするのです。娘は勿論、孫息子を亡くしたときはとても悲しんでいましたが、元々はそういう一族だと知っていましたし、『あの子の分、文を愛したい』と言って前向きに育児を頑張っていた娘なんです。でも……」


突然に、文ちゃんのお母さんは亡くした息子を可愛がり始めたのだという。

恐らく、「あの子の分、文を愛したい」という言葉は嘘ではなく、前向きであろうと努力していたのだろうが―――息子を亡くした悲しみも心の傷も癒えてはいなかったのだろう。


後にお祖母さんが知ったことによると、「家族」の絵を描くよう課題を出された文ちゃんが「熱心に」描いた四人家族(・・・・)―――とても褒められたの、といつものように抱きしめて「すごい」と言って欲しくて、母親に見せたそれは、きっと母の心を抉ったのだろう。

抉り、傷心し、しかし子供の前でその姿は見せまいとしたのかもしれない。けれどきっとそれは叶わず、文ちゃんの「絵」にとり憑かれたのだとしたら?


「私たちには見えていませんでした……だから、正しくは描いた絵を、幻として見せたいひとに見せるのでしょう。私たちの時は『あの光景を見せたい』という願いから。娘の時は恐らく無意識―――力の制御が聞かず、娘の悲しみにとり憑いたのだと」

「……その幻は…解けなかったのですか?」

「…ええ。むしろ日に日に幻は強くなり、娘は孫息子が死んだ事実も忘れるようになり……"愛する双子"を育てる、娘だけが幸せな日々を送っていたのです」



―――それはきっと、焦がれるほどに望んだ光景だったのだろう。

可愛い子供たちに囲まれ、賑やかに暮らす―――けれど母親だけに見える幸せだから、周囲は―――特に文ちゃんは、訳が分からぬまま母親が死んだはずの兄を妄想し自分を放っておいて妄想の兄だけを愛しているようにしかみえない。

一番甘えたい年頃に、母親が幻想にとり憑かれ―――きっと、今までの幸せな思い出も霞むほど、悲しい思い出ばかりが今もなお残っているのだろう。

文ちゃんが両親のことでいい顔をしない原因の一つ、なのかもしれない。


「私たちは必死にあの子の幻を消そうと現実を語りました。娘の夫も、泣きながら最後まで娘を説得しようと努力していました。……けれど、私たちは娘を追い込みすぎて、事態は悪化して……ついに、文ちゃんが娘を『嫌い』だと言って泣いてしまって、落ち着くまで我が家で預かることにしたんです。そしたらその夜に―――」


文ちゃんの家は、火事で―――両親ごと、全て亡くしたのだという。

その遺体はあまりにも酷く、当然文ちゃんはご両親の顔も見ることは出来ずに葬式を終えた。……そして、親の死に顔を見なかったがために現実を受け止めることが出来ず、しばらくは文ちゃんも「いつか両親が迎えに来る」と思い込んでいたらしい。


そんな不安定な状態の文ちゃんに、とある男の子は親の聞きかじりを話した。おまえの家は放火で燃えた。おまえが悪い子だから燃えたんだ、と―――。

元々素行の良くない、親から放置されて育った子らしく、前から両親にとても可愛がられていた文ちゃんに目をつけていたらしいその悪ガキは、傷ついて泣き出した文ちゃんを庇う周囲から責めに責められて逆上し、ついには文ちゃんを階段から突き落として大怪我を負わせた。

そのことに大激怒したお祖母さんが、初めて孫の敵に祟りを成した―――という話になる訳だ。


そして、お祖母さんの行動によって文ちゃんは「祟り子」と陰口を言われ、悪ガキや周囲の無神経な発言により、「自分が悪い子だから両親が帰ってこない」「自分が悪い子だから親が死んでしまった」「そんな自分はきっと両親に許されない―――」……と幼い頃から思い込んでしまったのだという。


………くっそ、誰だ文ちゃんにそんな最低なことを喋った悪ガキども。目の前にいたら私の攻撃魔術の的にしてやるのに……っ。



「たかが幻―――けれど幻のひとつで簡単に人を殺すことができ、その心も殺すことができる……それほどの危険性がありながら、幻視の能力者というのは見つかりにくく、発見次第厳重な監視下に置かれる……。私は…あの子が、いずれ恐ろしい能力者になると分かっていながら―――まだ若く、どんな些細なことすら輝いて見える時間を奪い、薄暗い牢に繋いで一生を潰すことが出来ず……こうして見つかってしまうまで、ずっと黙っていることにしました。

そのためにも、あの子には怒りや悲しみの感情は捨て、日々穏やかな心で生きるようにと説き……その甲斐あって、あの子がどんな絵を描いても、もう何も起こらなくなりました」

「だから―――文ちゃんの件は、黙っていてほしいと?」

「あの子は何もしておりません。今回、被害を悪化させたのは我が御神のせいではありますが、元を正せばあの子に危害を加えようとした者共のせいでもあるのです。そして、あの者共が暴れたのは―――」

「……うちの管理と対応がダメダメだったから、と……まあ、それは確かだけれども。

…それでも、文ちゃんの異能のことは報告しなければなりませんよ。

今は抑えられていても―――この先どうなるかは分からない。むしろ今、正直に報告すれば後に何か騒ぎを起こしても私…安居院が庇い切ることが出来ます。

こんな小娘のことを信じられないのは分かりますが、それでも安居院と―――篠崎は信じてください。この両家が保護と監視をすると言えば、殺人を犯さない限りは【霊安室】も誰も手出し出来ません。……ね?」

「まあね。僕も文ちゃんのことは結構気に入っているし、神様に喧嘩も売りたくないし―――何より、君の願いだからね。勿論、篠崎は文ちゃんを保護するさ」

「監視―――というか、指導は私がするから、榎耶たちはちょくちょくその様子見をしてくれれば、お父さんたちもOKを出すと思う。文ちゃんも、『抑える』術なら意欲的に学んでくれるだろうし……」


だから、とお祖母さんを見つめれば、お祖母さんは不安と、少しの安堵が見える表情で息を小さく吐き、「…分かりました」と深々と頭を下げた。


「あの子は、私と…娘の、愛しい子供なのです。娘の代わりに、私があの子を幸せにするのだと墓前に誓ったのです……。ですからどうか、あの子を守ってやってください。あの子の―――あの子の、友達でいてあげて、ください……!」



震える声に、何かが畳の上を落ちる音が微かに聞こえる。

私はそっとお祖母さんの顔を上げさせ、文ちゃんと同じ目に微笑みを映させて、その手を握った。



「むしろ、私がお願いしたいくらいです。……これからも、羽継共々仲良くさせてください。―――特にこの夏休みは、結構お世話になりますよ?」



ショッピングとか、お出かけとかお泊りとか。目まぐるしいくらいに予定が詰まってますからね!






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