51.断罪
※ハロウィンイラストがあります。(みてみんでダメだしされたのでピクシブです)
※拍手を変更しました。
流石にすぐ登校――なんてことはできず、文ちゃんは来週から、そっと人目を忍んで保健室登校をすることにした。
とりあえずその旨を穂乃花たちにメールで伝えると、「よかった」と安心したらしい。
そうして翌日も、翌々日も、私は夏休みも近く内容もあっさりとしてきた授業のノートをまとめては文ちゃんに手渡し、お茶をしつつ文ちゃんに軽く魔術を見せる日々を送った―――というのも、文ちゃんに「自分だけが変ではない」のだということを教えるため、何より文ちゃんに楽しい時間を過ごして欲しいがためである。
文ちゃんはまだ電話の音や派手な音、男の子の声に怯えてしまうけれど、幸いにも心が完全に折れることなく少しずつ外の世界に出ようとしている。
それはきっと、祖父母を心配させないようにと空元気を出しているのだろうけど―――それでもこうして立ち上がろうとすることができるのは、すごいことだ。
文ちゃんは、私が思っているよりも強いのかもしれない。
「じゃーねー!文ちゃんっ」
「うん、気をつけて帰ってね」
手をそっと降る文ちゃんの背後で、彼女のお祖母さんがぺこりと頭を下げた。
私も軽く頭を下げてから背を向け、門を出て――フッと影が差し、吃驚して後ずさると、門前で立っていたのは羽継だった。どうやらずっとここで待機していたらしい。
前回以降、気を使って文ちゃんの家には同行しない羽継は毎度こうして迎えに来てくれる。
だから私も居るだろうなとは分かっていたのだけれど、気配を完璧に消して近寄ってくるもんだからビビる。お前は忍者か。
「は、羽継……気配を消して近寄んないで」
「消してたつもりはないんだが…」
なんでも、本人としては今日の夕飯の献立をボーッと考えながら近寄ったらしい。……そ、そっか…。
「御巫は元気だったか」
「うん。今日なんか勉強教えてもらった」
「……教えた、じゃなくてか」
おいその残念な子を見る目やめろ。やめろ。
―――そう睨みつけると、羽継は不意に私から視線をそらし、背後を振り返った。
そこには買い物帰りの奥様と、お兄ちゃんと一緒に帰る妹ちゃんと、コンビニの袋を手に去っていく男の人しかいない。
「…どうかした?」
「いや……待っている間、ちょっとな」
羽継はチラッと文ちゃんの家を見ると、サッと私の手を引いて歩き出した。
少し私の前を歩いては引っ張る羽継の背中を見ていると、なんだか抱きついてみたい気が湧いてくる。たぶん、私が唐突に抱きついても羽継は簡単に受け止めてくれるだろう。
なんとなくジッと見ていると羽継の首筋に汗が一筋、静かに流れ落ちるのが見えて目が離せなくなった。……なんか、いけないものを見てしまった気分だ。
「―――彩羽」
「うはっ、に!?」
「……俺、この件は――長続きしそうな気がする」
「……え?」
まだ明るい帰り道だというのに、羽継は早足だ。
急に現実に引き戻されて足がもつれそうになりながらも追いかけると、あの子は聞き取り辛い声で言った。
「お前を待っている間、御巫の家に黒い靄がなんとか入り込もうとしているのを見た。あの事件の時、部屋に満ちていたものと恐らく同じものだ」
俺が近づいたら逃げていったけどな、と言って一呼吸置くと、羽継は重々しく告げた。
「間違いない。俺たちが探している魔導書に狙われているのは、御巫だ」
*
金曜日のことだった。
【霊安室】の規則により、未熟者の私が無断では文ちゃんの家の秘密を漁ることもできず、また、事件の内容を文ちゃんにもう一度話してもらうだなんて酷いこともできず。
お父さんが忙しそうに今回の事件に当たるのを見ているだけで、ただ文ちゃんを心配するしかできないでいた日々を過ごしていた私は、穂乃花たちから離れて一人、飲み物を買いに自動販売機の前にいた。
こういう暑い日はカルピスかお茶だなあ、なんて呑気に考えることで自分の無力さから目をそむけていた私は、遠くにいる男子たちのお喋りに自然と耳を傾けていた。
「―――でさ、見ろよこれ。佐嶋の負けっぷり」
「うっわー、痛そうじゃん。これがあれ?御巫の修羅場事件のやつ?」
「そーそー。あいつオタクのくせに頑張っちゃったじゃん?その時の写真だってさー」
「てか水城のやつ、停学処分喰らったのに懲りねーな」
………。
思わず自販機から離れ、男子たちに静かに近寄る。
彼らは私に気づくことなく、こちらに背を向け仲間内で携帯を回していた。
「まあ相手は佐嶋だし。それに肝心の御巫も特に訴えないみたいじゃん?」
「え、そうなの」
「なんかー、大人の事情ってやつ?」
ぎりぎり気づかれないだろう距離を保って立ち止まると、携帯の持ち主が「そうそう、」と帰ってきた携帯を振った。
「あいつ、御巫のおもしれー写真持ってるんだって。御巫が登校してきたら送るってさ」
「ちょっ、なにそれ鬼畜すぎだろ」
「まじ外道だわー」
あっははは、と笑い合っている男子たち。
この野郎、飛び蹴り食らわしたろかと足を一歩引くと、向こうから足音が聞こえてきた。
男子たちに向かうように、静かに一人で近づいてきたのは誰か、私の位置からは分からない。
その人物によって、暑かった廊下は冬でもきたように冷え冷えとし始め、どこまでも静かではあるのに異常なまでの激しい怒りを感じさせる―――距離は確かにあるはずなのに、喉元に刃物を突きつけられたような、そんな緊張感に満たされた。
「や、やぶ、流鏑馬……来てたんだ……」
ぼそっと呟いた男子の一人は、早々に駆け出して逃げた。続くように他の男子が逃げ出し、終には誰もいなくなった。
意外にも彼らを追わなかった流鏑馬はジッと逃げた背を見つめると、不意にこちらに気づいた。―――途端、いつもの無邪気さを感じさせる笑みを浮かべる。
さっきまでの重い空気を消し、太陽に向かって咲く向日葵のように晴れやかな雰囲気を纏い、親しげに「今日も暑いな、彩羽」と言って笑う。
その急な変化は、私が「文ちゃんの友達」だからだろう。
文ちゃんの初めての同性の友達らしい私だから、流鏑馬も彼の女子への態度の中では文ちゃんの次くらいに良い扱いを受けることができるのだ。
その行動は羽継のそれに近いが、彼の地雷を踏み抜いたとき、起こるだろう爆発の規模は、羽継のそれより凶悪なものになりそうだ。
「―――お前のおかげで文も元気になった。ありがとうな」
「うん…」
そう、どこまでも凶悪で、しかしその想いはただただ真っ直ぐなのだ。
そして、真っ直ぐなその想いゆえに、時にそれは刃物のように振り翳されるのだろう。
*
―――彼は、携帯を弄りながら夜道を歩いていた。
最初は父親に殴られたのもあって大人しく部屋に引きこもっていたものの、自分のことで姑に責められて泣いている母親の声を延々聞いているのが嫌になって――雑誌か何か買いに行こうとこっそり家を出てコンビニに向かっていたのである。
(あー、なんであそこでミスったかなー)
遊んでいないでちゃっちゃとやってしまえばよかった。そしたら弱みを握ることができたし、先生に告げ口をされることなく長く楽しめたのに。
…今回の件の提案者である山瀬と違い、彼は御巫 文に(歪んではいるが)惚れ込んでいるわけではなく、ただ彼女が儚げな美少女で、しかも神社の巫女であるということから目を付けただけである。
つまり綺麗な足跡のない雪原を汚く踏み荒らすのが好きな種類の人間である彼からすると、御巫 文という女生徒は彼の好物なのであった。
(ま、なにも楽しみはあれだけじゃねーしな)
実は携帯を二つ持っていた彼の、生き残った方には何枚かあの時の写真が残っている。
そのうちの三枚は彼女の写真で、一発で「ただの喧嘩」ではないことが分かるものだ。
もちろんこれを流したら彼もただでは済まないが、この時の彼はただ「楽しいことがしたい」という子供らしい欲求を持て余していてそこまで考えていない。
そして「楽しいこと」が普通の子供のものとは違って歪んでいる彼のそれは、まるで繊細な硝子細工をわざと床に落とす快感に似ている。
(もういい加減、電話かけて遊ぶの飽きたんだよなー)
最初はまだ楽しかったのにな、と溜息を吐くと、彼は見慣れた電話番号にかけることもなく、誰かにメールでも送ろうかと歩きながら文字を打ち始める。
コンビニの明かりは近く、なんとなく歩調を早めながら『元気か』と打ち終えたところで、不意に足音が一つ、多く聞こえた。
「ん?」
振り返る――否、振り返ろうとした彼は、体が何故か揺れたのを感じ、違和感を感じ――"熱"を感じ。
恐る恐る目線を下げると、自分の腹から鋭利な物が突き出ていた。
「ひっ、い、ぎっ…ああああああああああああああああああああああああ!!!」
躊躇いなく引き抜かれた彼は、腹を抱えて崩れ落ちる。
怯えて見上げた先には大きな満月と、黒い死神がいた。
月を背に彼を見下ろす断罪者は、慣れた様子で―――立派な太刀を、振り上げた。
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今回のハロウィンイラストは容量がデカすぎたためにピクシブさんの所で上げました。
魔女っ子仮装とか色々考えてたけど、めんど……せっかくなので「君好きRPG」の敵役の衣装を着てもらいましたよ。
※作者イラストですのでご注意ください。(URL貼っておきます)
http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=46808663
「××アリス」キャラ的には大人気アニメの衣装というノリでしょうか。
夕方時にやってる健全なファンタジーアニメ「マジカル★少年マ王!」、その(適当な)設定を書いてみます。
*「マジカル★少年マ王!」の設定
⇒創造主である女神さまに仕え、世界を守る役目を負う十三匹の兎―――そのうちの一匹、「黒兎」の手により守護者である兎たちが封印されてしまった!
世界の平和を取り戻すため、女神に愛された御子・恭ちゃんは仲間と共に立ち上がる!!
・兎の封印
⇒食べるとすっごく幸せな気分になる草を口にしてしまったために麻薬中……幻覚に囚われ「幸せの葉っぱ」のある場所から離れられず仕事も手につかない―――という状態の兎たちを結界で閉じ込めた状態のこと。
・兎の開放
⇒物理で結界を壊し、女神の代弁者である恭ちゃんの聖なる呪文と腹パンで「幸せの葉っぱ」の呪縛から解き放たれる。
ただし開放後、三日間は動けない。
・恭ちゃん(衣装着用者:国光)
⇒「マジカル★少年マ王」の主人公。可憐で女神の声を聞く聖なる妖精さん。
普段からひらひらした服を着ているが、変身すると↑のひらっひら衣装になる。
オトメンのせいか格好いい場面が少ない。戦闘ではヒロインが敵をほとんどぶっ殺していくのですることがない。申し訳なさそうに瀕死の的に必殺技を放って戦いを終わらせるスタイル。
聖女がごとき寛容さで、テレビの前のちびっ子に「優しさ(色んな意味で)」を教えた。
・陽乃(衣装着用者:文)
⇒「マジカル★少年マ王」のヒロイン。吸血鬼のお姫様。
しかし初登場から数回は王子様のような男装と尊大な態度によりヒロインと思われていなかった。主人公にデレてからは和ゴス衣装になり、「きゃあん、うふふ」みたいなぶりっ子な姿を見せるが裏では恐喝だろうが拷問だろうが平然とした顔でこなすマジキチっぷり。
その表裏の激しさから、テレビの前のちびっ子に「(ひどすぎる)女」というものを教えた。
・夕凪(衣装着用者:羽継)
⇒陽乃を初めて退かせた敵。……だったひと。
あまり多くを語らず、クールな美青年ということで女性人気が高く、「わたしの王子さま」とまで言っちゃう幼女とかがいたが、登場して十話目くらいで魔女さんにストーカー行為をし始め、ついには「貴女に飼われたい」とまで言ってお茶の間を凍らせた。そのせいでお茶の間ブレイクと呼ばれるように。
さっさと悪役を降りた彼はその後もヤンデレ言動や際どい台詞を言うため、スタッフが偉い人にめっちゃ怒られた。
テレビの前のちびっ子に「イケメン無罪」というものを教えた。
・クローディア(衣装着用者:彩羽)
⇒衣装デザインのせいで初登場時に視聴者に「新たな敵か!」と思わせた魔女さん。
衣装はともかくメンバーの中ですごくまとも。そして被害者。夕凪のせいで何度涙目になったかしれない。しかしそんな泣き顔の可愛さから大きい子供のみんなに大人気。
ちなみに「すごい魔女」とか言われてるのに滅多に戦わない。というか戦う前に全てが終わってる状態のため、戦闘終了後のシーンではすごく居辛そうな顔をしている。
テレビの前のちびっ子に「萌え」というものを教えた。
*「マジカル★少年マ王」問題の最終回
⇒最終回「女神さまのごほうび」にて女神さまが作った茶菓子でお茶会を開くが、女神さまはドジっ子なので間違えて「幸せの葉っぱ」をハーブと間違えてお茶にして出してしまう。
その結果、女神は眠りにつき、恭ちゃんは笑顔でブランコを漕ぎ続け、陽乃はそのそばでうたた寝しクローディアと夕凪は砂浜で「捕まえてごらんなさーい」とじゃれあう衝撃的なオチを迎えた。
*「マジカル★少年勇者」―――「マジカル★少年マ王」の続編
⇒問題のオチから一年後の世界。世界は疲弊し作物が実らなくなってきた。
そんな世紀末な世界を救うべく、勇者クニミッツ(騎士)とフミーヌ(巫女)が立ち上がる!
……しかし世界は深刻な食糧問題に悩まされており、箱入りの二人は早々に食料が尽きた。
さあどうする!?―――と悩むまもなく、巫女のフミーヌはトカゲを焼いて食うという問題行動に出る。
その行動に「ヒッ」とドン引くクニミッツはクズなことによそ様の畑からパクったりするというこれまた問題行動を起こすが、物語中盤では木の根っこをガム代わりに噛んでたりカエルを捕まえると大喜びで丸焼きにしてフミーヌと食べるという進化をみせた。
ついには虫まで食べ始めたところでスタッフが偉い人に怒られるはめになるも、なかなかの人気作になったとさ。
―――と長くなってすいません。実はここまで書いて「"君好きRPG"はこういう話にすればよかった…」と思ってしまったんですはい。
あ、それから拍手変更しました!




