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45.四人の能力者



※拍手文を変更して「七夕」にちなんだものにしました。







どうやら、流鏑馬はタカ君から報告を受けて部活から飛び出してきたらしい。


ただ、部活を見学中の女子の壁に阻まれタカ君は思うように進めず、叫ぼうにも女子の黄色い声に邪魔をされ、なんとか流鏑馬に伝え終わるも彼が行く先々で物が倒れてくるわ、女子にやたらと話しかけられるわで――まあ色々と邪魔をされたせいで、駆け付けるのが遅れたのだという。


そして全てが終わってしょっ引かれていく最中の加害者一同に出会い、問答無用で殴殺してやろうと襲いかかったら体育の先生に必死に止められ、よせばいいのに加害者の一人が余計な挑発をするもんだから、ぶち切れてその怒りを窓ガラスに向けたのだという。


それで少しばかり冷静さを取り戻した流鏑馬は現在、文ちゃんを大事そうに抱きしめると、私たちに頭を下げた。


「佐嶋もだが……嘉神たちもありがとう、本当に…ありがとうな」

「…いや、俺たちは役に立てなかった…もっと早く気付けてたら…すまない」

「そんなことはない、十分だ。…ありがとう」


文ちゃんも弱々しい声で「ありがとう…」と言うと、目をゴシゴシと擦る。

そっと手を触れて止めさせた流鏑馬は、「この後のことなんだけど…」と文ちゃんの移動について尋ねた。


「何故か、いつもより玄関に生徒が溜まっててな…どうやって文を連れ出せばいいのか―――」

「流鏑馬が囮になってくれれば、ちゃんと病院に着けるようにするよ」

「俺が?」

「そ。あんたが玄関でボーッと立って、で文ちゃんは保健室から外に出てすぐに先生の車に入るの。その途中であんたを回収して病院に行くと」

「………分かった。じゃあ、文のことよろしくな」


心配そうな顔をしながら文ちゃんを放すと、流鏑馬はもう一度「よろしく」と念押しして駆け出していった。

そして、私は流鏑馬が階段を下りていく音が聞こえなくなるのを待ってから、文ちゃんに「姿隠し」の魔術をかける―――。


「文ちゃん、今から車の中に入るまで、絶対に喋っちゃダメだよ?喋らなければ、文ちゃんの姿は私と先生にしか見えなくなって、安全に移動できるからね」

「……彩羽さん……それって―――」

「後で教えてあげる。だから口を閉じて…」


おでことおでこをくっつけて、ミスが起こらないよう細心の注意を払って魔術を起動する。

その際に溢れる私の魔力がまるで黄金色の波のようにざわめいて、私たちを囲む。そんな幻想に文ちゃんは目を見開いたが、ちゃんと口はしっかり閉じていた。



「―――さあ、これでもう大丈夫」


私から見ると半透明な文ちゃんは不安そうな表情で頷くと、先生に連れられて部屋を出ていった。






「―――さて……いい加減、出てきたらどう?」


さっきまでは荷物が積み置かれていたのだろう机に、私は声をかけた。

すると机の影からそっと手が出てきて、ゆっくりと隠していた体を曝け出す。


無言で現れたその男子生徒の名は「宮野みやの 弓季ゆき」―――プールで私を救助してくれた人であり、……前科ありの【異能力者】だ。


「……僕、何もしてないんだけど」


ひらり、と両手を上げた彼は、羽継と同じくらい、とても顔が整っている。

しかし羽継は寡黙そうというか、柔らかな表情をすることが少ないけどもそれなりに感情が顔に出ているのに対し、彼には一切それがない。目も死んでる。

羽継以下流鏑馬以上の身長に体つきは流鏑馬よりも細く、なんというか華奢なイケメンというか美人な男の子だ。


そんな彼の両親は連れ子同士の再婚をした人で、どうやら継子いじめに遭っていたらしい。

彼は一年の頃、複雑な家庭のストレスと学校でのいじめのストレスで【異能力】を使ってしまい、問題となったために私と羽継が事態の解決に乗り出した。

―――が、さすがに中学一年生に他所様の家庭の面倒は見れないので、なんとか学校での立場を良くした、というくらいしか出来ていない。


信頼の穂乃花情報によると、どうやら私が再起不能状態になっている間に吉野さんと仲が良くなったらしい。なんでも、二人は幼馴染なのだとか。


そんな関係の二人が揃って今回の件に関わっているということは―――



「し、失礼するわよ…」


私の思考を中断するように声をかけてきた女生徒――吉野さんは、汗だくでひゅーっひゅーと息を乱しながらフラフラと部屋に入ってきた。


羽継は警戒するように私の傍に寄ると、「お前ら二人の目的は何だ?」と尋ねる。


「どうして御巫を助けた?」

紗季さきちゃんに頼まれたから」


黙り込む吉野さんに対し、宮野は早々にゲロったが―――いや、あの「紗季ちゃん」って誰?もしかして吉野さん?


「…そうなの、紗季ちゃん?」

「紗季ちゃんって呼ばないで!」


どうやらさっきの沈黙は息を整えるためのものだったらしく、紗季ちゃんこと吉野さんは張り付いた髪を払うと、今更だけど澄ました顔で説明をした。


「…私の占いで、近々御巫さんに何かしらの不幸が起こると出たのよ。そして引き起こされる事件に私も巻き込まれるらしいから、ちょっと注意を払っただけ」

「占いねえ……()()()()じゃなくて?」

「……なるほど、分かっているのね」


不機嫌そうな顔の吉野さんは、フンと鼻を鳴らすと髪を一房弄る。


「まあ当然か。あなたはここら辺を仕切ってる魔法使いとやらですものね」

「残念。私は"魔法使い"だなんて上級の者じゃあない。駆け出しの西洋魔術師です」

「どっちでもいいわ。……それで、私の母方の実家で気づいたわけ?」

「それもあるね。あなたの母親は正しくは【能力者】ではないから、登録されていないけど――でも、あなたは【能力者】よね?ただの占いの天才ってだけじゃああのプール事件の予告はできない。……まあ、あの事件にあなたが関与したっていうなら別だけど?」

「あんな悪寒のする怪奇現象に絡むわけないでしょ。……私はあなたの予想通り、"先が見える"だけのつまらない女よ」


―――そう言って髪弄りをやめた吉野さんは、自らの能力を教えてくれた。

「(不確定の)未来を視る」というその能力は、普段はふとした時にテレビのチャンネルが切り変わるように(雑な映像ではあるが)短い間視え、意識すればそこそこ精度も良くなり視れる時間も長くなる――その能力を、吉野さんは有効活用して生きてきたらしい。


勿論その能力を「登録」しなければならないのは母親からの話で聞いていたが、もしこの力が母方祖母の家に知られたら本家の力を受け継ぐ者として家族と引き離されるかもしれない――それが嫌で、家族には黙っていたらしい。


本や知識でなる「ただの占い師」ならば登録は不要のため、誤魔化すためと興味からその道のお勉強もしているため、基本的には故意に異能力を使うことはないのだそう。



「…なるほどね。まあ能力が能力だし、吉野さんが悪用して問題を起こさなければ"登録"も成人後でかまわないよ―――ただし勧告はしたし、お父…当主には報告させてもらう」

「それでかまわないわ。ありがとう」

「いえいえ……で、本題に戻るけど、吉野さんが視た未来は何?それと宮野くんに手伝ってもらった理由は?」

「…」


吉野さんは一度深呼吸すると、私の問いに低い声で答えた。



「……御巫さんが…黒い男子生徒たちに……強姦される未来」

「―――」


……分かっていたこととはいえ言葉が出ないでいると、代わりに羽継が私の疑問を口にしてくれた。


「…黒いって、なんだ?」

「たぶん…この部屋に残ってる、気味の悪い残りカスの元だと思う。何度もよく視ようとするんだけど、まるで誰か分からないようにしたみたいに顔が黒く塗り潰されていて…部屋もぼんやりしてて。…怖い映像みらいだったわ。

でももっと怖いのはその先―――散々乱暴された御巫さんから、大きな化け物が飛び出て男子たちを惨殺して、それでも怒りが収まらないとばかりに学校中に――私も含め、その時校内に居た生徒たちは皆化物に殺されて……ぶつん、て未来が終わるの。ここ最近、そんな未来ばかりを視て……」


吉野さんは、自分の体をぎゅっと抱きしめると、俯いて黙り込んでしまう。

そんな彼女の傍に近寄って背中を撫でながら、代わりに宮野が話を続けてくれた。


「―――それで、日が経って…だんだんと細部まで視えるようになった紗季ちゃんは、御巫を監視したんだ。

基本的に彼女は君の傍で守られていたけど……でも、放課後だけは庇ってくれる人間がいない中で過ごしているからね。あの未来的に犯行時刻は放課後だろうから、しばらく張っていたんだけど――今日に限って誰かに掃除用具入れの中に閉じ込められたみたいでね。まあ携帯は持っていたから紗季ちゃんに頼まれて急いで僕が付いていった」


そしたら、ちょうど彼らがこの部屋に入ろうとする所だったと。

上手く【能力】を使って紛れ込み、早々に隠れてこの事態をギリギリまで見守っていたらしい。


「……さっくんを見習って飛び出して止めなさいよ」

「僕、喧嘩は弱いし。第一、この力があるのに肉弾戦なんてしたくないよ」



宮野の【異能力】は、「人を騙す」というもの。


今回みたいにこっそり仲間に入っても誰も気づかないし、人の意表を突いて「幻」を見せることもできる。

たったそれだけだけども、彼の能力を知らない一般人が彼のターゲットになった場合、かなりの威力を発揮する。……というのも、彼が見せる「幻」というのはその人が無自覚に恐れているモノの姿をとっているわけで――今回のような人数で密室となれば上手くいけば、ついさっきの混乱を起こせるのだ。


ちなみに私が彼と対峙した時は羽継の能力を全開にして無効化したあと、私がボコって勝利しました。



「それに、これでも早く動こうとしたけど佐嶋が来るし。それ以降はあいつらも他の奴が来ることを恐れて隙がなかったし。ギリギリまでどうしようもなかった…から、とりあえずさっきまでの暴行を録画しといた」

「…なるほど」


うん、それならしょうがないか。……後で一応録画貰おう。

そう頼もうと思ったら、吉野さんが珍しく控えめに声をかけてきた。


「ねえ、安居院さん……私、今回の事件は彼ら以外にも関わっている子がいると思う…ううん、関わっただろう人たちを少しは把握しているの。

…ただ、関わった人全てが望んでやったわけじゃないというか…上からの圧力で関わってしまった子もいると思う」

「ふむ…」

「その子たちは私が問いただすから、……女子の犯人に関しては流鏑馬にだけ黙ってて欲しい」

「流鏑馬にだけ?」

「彼、女子でも躊躇なく殴り続けるから。流石にしょうがなく手を貸してしまったいじめられっ子まで殴られるのは……下手したらまた御巫さんが逆恨みされるかもしれないし…とりあえず、彼女たちの事情は私自身が問い質して、結果をあなたに伝えるというのはダメかしら?」


えっ、流鏑馬ってそんな危険人物なの?

……いや、もしかしてそんな危険人物だから文ちゃんが「監視してくれ」って羽継に頼ったのか……身内にそこまで言われるレベルとなると、確かに流鏑馬には黙っているべきか?男子同士ならまだしも女子相手にボコ殴りなんてなったらえらいことになるし…。


それに、確かに関わった女子の動機や境遇によっては下手に公表して流鏑馬に襲われたりなんだりしたら、彼女たちの親兄弟、友人から逆恨みされるかも…でも、私にそこまで権力ないしな……。


「……先生に頼んではみるよ。ただ、やっぱりこういうのは被害者の意思に任せるべきだと思う。希望に添えないかもしれない」

「……かまわないわ。その通りだし」


溜息を吐くと、吉野さんは散らばった辞書やらテキストやらを避けながら私の元に近寄る。

しかし羽継がずいっと私の前に立ちはだかるものだから、今度は怒りと呆れの含まれた息を長く吐いた。


「…ちょっと、私は安居院さんとアドレス交換したいだけなんだけど。それともなあに、あなたを経由しないと連絡取れないわけ?」


マネージャーさん、と言われて、羽継は少しだけ退いた。

羽継が退いて広がった視界には、隅でぼんやり辞書を積んでいる宮野と、目の前で不機嫌そうな顔で携帯を操作している吉野さんが現れた。


「はい、交換するからちょっと貸して……―――ん、はい」

「どうもどうも……あ、名前のところ紗季ちゃんでいい?」

「いいわけないでしょっ!!」


威嚇する子猫みたいに怒った吉野さんは、宮野と共に部屋を去っていった。


最後に残った私たちは、やっとゆっくりと現場検証が出来ると頷き合い、一緒に背後を振り返った。




「妹子゛ォ――、妹子゛ォォォ―――……」




……………。

手鞠の口から、びくんびくんと痙攣を起こす、黒い魚の尾みたいなものが飛び出ていた。






.





*登場人物プチ紹介


吉野よしの 紗季さき

⇒「(不確定の)未来を視る」という能力者。

集中しないと細部まで見れず、視れる時間も短い。無登録能力者。

ニ学年三大美少女の一人で信者のたくさんいる女子グループのリーダーでもあり、普段から化粧をしっかり決めて華やかな女生徒ぶっているが、化粧をしないとちょっと儚げな黒髪美少女になる。

ちなみに勉強は出来るけど運動は出来ない。そして実はツンデレ。


宮野みやの 弓季ゆき

⇒「人を騙す」能力者。

主に逃亡や潜入、パニックを起こすのが得意だけどそれだけ。喧嘩とかできない。

常に死んだ目をした美人系男子。たくさん食べても痩せるタイプで、時々ダイエット中の吉野に頬を抓られる。

案外なんでも食べる子。遠足とかで食べられる雑草を見ると摘んじゃう。そして吉野に叩き落される。

RPGシリーズの先輩勇者みたいな子ですはい。


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