31.愛しい君のために
本日最後の「七不思議」は北校舎2階の女子トイレだ。
さっきの中庭の七不思議「おうち」を視察した時と違って、羽継はちょっと行きたくなさそう。
別にあまり使用されない場所だし、外で待ってるだけなのになぁ…。
「…そんなに嫌?あそこ行くの」
「………お前は男子トイレの前にずっといられるか?」
「えっ、平気だけど」
「えっ!?」
えっ。
*
◆◇Das Herz von ……… ◆◇
「―――北校舎二回の女子トイレ。奥から二番目の個室にノックをしてから入ると二つの色紙が壁に貼られている」
「というのも、昔、苛められていた女生徒がずっと持っていた物だとか――時間があれば、その生徒は折り紙をしていたらしい」
「なんでかって言うと、その女生徒は日々の恨みを折り紙に書き込んでは憎しみを込めて折っていたんだ。きっちり綺麗に……。オカルト趣味を持っていたらしい女生徒は、適当なやり方じゃあダメだって思ってたんだろうな」
「………」
「…―――そしてある日、女生徒はこの女子トイレで自殺した」
「女生徒の全てのポケットから溢れて床中に散らばった呪いの折り紙は、気味悪がられて焼却処分された。
そう、焼き捨てられた、はずなのに―――……加害者の生徒の元に、届いた」
「"それ"は靴箱の中に。ロッカーの中に。机の中に。
片付けようとしたゴミ箱に。部活道具の中に。帰り道に。玄関に。居間に。ベッドの下に。枕元に。教科書の合間に。彼氏と繋いだ手の中に。―――自分の吐瀉物の中に」
「……加害者の生徒はこれを見て怯え、折り紙から逃げ回る――その最中、」
「加害者の生徒は…車に轢かれてしまった」
「娘との早すぎる別れに涙しながら、加害者生徒の親は火葬場に向かった」
「そして、」
「焼き終わり、骨が散らばっているはずのそこには」
「黒い折り紙ばかりが溢れていた」
「――――さて。この学校では女子生徒が自殺した個室でお呪いすることで起きる七不思議がある」
「まずこれに普段使っているペンで"お願い"を書く」
「だけど注意すべきことがあって、"お願い"を書くときは、一字でも書き順を間違えたり、汚く書いてはならない。書き間違いなんてもってのほか。これは呪いを成功させるための、そして身の安全のための大事なルール」
「…………」
「次に、思いを込めて色紙を折る」
「これも綺麗に折る。だって今あやかろうとしているチカラの元は、真面目だった女子生徒なんだから……――よし、と」
「…これ、失敗すると女子生徒に祟られて加害者の女子生徒みたいな目に遭うらしい。
もしくは女子生徒の霊に追いかけられたり閉じ込められたりとか……だからこの七不思議で遊ぼうって奴は皆、"わざとルール違反をする"ことで女子生徒の霊が現れるか、祟られるか試してみようとする。…度胸試しってやつだな」
「ちなみにこれも噂だけど、この個室を荒らして貼られていた折り紙を破いてトイレに流した女子がいたらしいけど、すぐに不登校になったとか」
「だから気をつけて折らないと……ああ、丁寧に折られていたならどんなモノでもいいっていうのは助かるな。だって折り紙はツルくらいしか出来ないし……」
「…………」
「―――うん、出来た」
「最後にこれを口に含んで、願い事を言えば完成」
「―――俺の文に汚い手で触ろうとした梁川と、俺の文を貶めようとした坂井が事故に遭って死にますように。」
「……もちろん、ぐっちゃぐちゃでな!」
「―――あれ。あんた何で北校舎に居るの?」
「ああ、彩羽と嘉神か。…お前らこそどうしてこんなところに?」
「女子トイレ狩りに。…じゃなかった、借りに」
「……流鏑馬、お前、部活は?」
「いや、その……。……"呼び出し"」
「ほぉー?律儀に応えるんだねえ。どうせ可愛い子ちゃんからの告白だったら文ちゃんに黙って浮気しちゃうんでしょー!」
「しないしっ!…これは…その、行かないと、文が嫌な目に遭わされるから…」
「……お前も大変だな」
「―――じゃ、部活頑張って」
「ありがと!」
「水分ちゃんと摂れよ」
「おう!」
「――――わっ!今の音なに!?」
「校門の方から聞こえたような…」
「ひどい音……野次馬しに行こ!」
「なんでそうなるんだ…ってオイ、こらっ!」
……玄関の方へ行こうと、来た道を戻っていった二人は、その背後で天井から落下した「紙」には当然ながら気づきませんでした。
国光は床に落ちた鶴の折り紙を拾うと、角を曲がる二人を見送ります。
そして大切な友人たちの姿どころか声も聞こえなくなると、窓を開けて――ふっ、と折り紙に息を吹きかけて、空に飛ばしました。
「いやあ、良い天気だなあ」
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