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27.だって、大好きだから




◆◇Das Herz von Alice◆◇




彼女が教室に戻って一分も経たないうちに、二人の男子生徒――国光と羽継が騒がしくやって来て、「大丈夫か!?」と同時に尋ねてきました。


「あの、」

「文!大丈夫か!?あの汚らしい梁川のクズはどこだ!?」

「国光くん…落ち着いて、箒置いて…」

「御巫!彩羽は!?あいつ溺死しかけたって聞いたんだが今どこだ!?」

「えっと…」

「文!もうこんなとこに居るのはやめよう!俺と帰ろう!」

「えっ」

「帰りたけりゃ帰れ!――なあ彩羽は!?なんで鞄がないんだ!?」


どんどん二人に迫られて、彼女はじりじりと後退します。

ちゃんと答えようにもどちらか片方がせっかちに自分の言いたいことを口にするものですから、彼女はまずなんて答えればこの二人は落ち着くのだろう――と悩み、とりあえず国光が持っていた撲殺道具こと箒を取り上げてみます。


「あの、あのね、二人とも――」

「たかが溺れかけただけなのに一々大騒ぎしすぎなんだよ!文はもっと辛いんだ、配慮しろ配慮!」

「お前こそ一々騒ぎすぎなんだよっ、少しは御巫の気持ちも考えて静かに行動できないのか!」

「あの、」

「静かに…だと……―――思えばそうだな」


オロオロしていると、急に国光は彼女から一歩離れてポケットに手を突っ込みます。


「あの時も、静かに殺れば……上手くいけたのかも……」


両手で刃を出したポケットナイフを握ると、ちょっとヤバイ目で光を受ける刃を見つめる――その姿に、急いで羽継はナイフを奪うと刃をしまってポケットに隠してしまいました。


「何すんだよ!」

「お前アホだろ!?」

「ち、ちがうのっ、国光くんはちょっと天然さんなの」

「いや天然ってもっと純真無垢なものに使うべき言葉だろ!」

「いいから返せよ!それ落し物だから最終的に先生に届けないといけないんだ」

「お前そんなもので意趣斬りしようとしてたの!?」


すぐさま羽継が距離をとると、国光はむぅ、と頬を膨らませ、


「しょうがないだろ…俺はお前みたいに、大人っぽく見えないし怖くも見えないから、黙って傍にいるだけで文を守れないんだから……」

「国光くん…」

「俺は文のおかげで、こうして幸せに過ごせてる…けど俺、不器用だから文に何も恩返しができない……だから、せめて文を…」

「国光くん……そんな、気にしないで。私――」


頬を染める彼女と、しょんぼりした国光。

なんだか甘酸っぱい空気が満たされつつある――けれど、羽継の声はとても冷たいものでした。


「その考えは素晴らしいと思うが、だからといって暴行事件を起こしても良いということにはならん」


そう言われて、国光はじっと羽継を見つめてみましたが、むしろ堂々と見つめ返されてしまい、渋々と視線を逸らして彼女の隣の席に着きました。


つまり彩羽の席を奪ったのですが、羽継は咎めるような一瞥を国光にくれた後、咳払いをしてから改めて彼女に尋ねます。


「…ええっと、御巫。災難だったな。大丈夫か」

「うん…穂乃花さんたちが庇ってくれて…嬉しかった」

「か、庇ってもらえたのか?」


国光の中では、穂乃花たちと彼女の関係は「友人の友人」よりも薄っぺらいものではないかと思っていただけに、彼女の言葉に吃驚して思わず腰を浮かしてしまいます。

羽継は今までの付き合いから穂乃花たちの行動に特に驚くこともなく、「それはよかった」と頷いた後、聞きたくてしょうがないことを尋ねます。


「で、彩羽のことなんだが……さっき溺れたことを聞いたもんでな。今はアレのせいで保健室使えないって言うし――あいつはどこでどうしてるんだ?」

「……ん、と……その、プールで溺れたと言っても意識もしっかりあって、すぐに落ち着いたものだから見学って形になって――まあ、あんなことが起きちゃって。次の授業は図書室で自習になったの」

「うん」

「それで……彩羽さん、みんなが読書している中で急に何か叫んで…図書室から飛び出していってしまったの」

「……!?」


サーっと顔が青褪める羽継に、彼女は恐る恐るともう一つ報告しました。


「あの…羽継くん。他にもね、私のせいで彩羽さん、"面倒な人たち"に目をつけられたみたいで、悪口だとか足を引っ掛けられたりとか…酷い目に遭ってしまって…」


今度は真っ赤になった羽継は、彩羽を追って早退しました。













【×××の初恋】





「文!買い食いをしよう!」

「……?」



―――放課後。


私のだいすきなひとは、根暗なあの女を連れて行く。


メモをチラチラ見ながら向かった先は可愛いクレープ屋さんで、鈍間な女に付き合って時間をかけてメニューの看板を見つめている。


「えーっと、ここのオススメは"アリスセット"なんだって」

「アリスセット…ああ、赤と白の違いがあるんだね」

「赤は苺、白は林檎がメインらしいぞ。…で、えーっと、白の方が美味しいって」

「………」

「文?」


わざわざそう教えてくれた彼をジッと見つめた女は、また俯いて、


「……どうして…そんなことを知ってるの…?」

「えっ」

「国光くん、こんな可愛いお店に興味ない方なのに…どうしてそんなに詳しいの…?……――その、だ、誰かと…行ったことがあるの…?」

「えっ!?」


わざとらしい態度でそう尋ねた女に、純粋な彼はわたわたしながら、


「い、行ってない!友達が教えてくれたんだ!…男の方の!」

「……」

「あ、あいつ甘党で、こういう店とかよく知ってるんだ。ほら、証拠!」

「…あ、本当だ。これは田室くんの字だね」


ホッとした顔でメモを返した女。

けれど今度は、彼がさっきの女と同じ表情をする。


「……文は田室の字を見慣れてるのか?」

「えっ」

「男の字なんてみんな汚いのに、なんで田室って分かったんだ…?」


ぎゅう、とメモを握り締めた彼に、女は少したじろいで、


「……だって、国光くんとよく日直一緒になるでしょ?」

「…あっ」

「何度か二人の日誌を読んだもの、あと特徴もあるから覚えちゃっただけだよ…?」

「………そ、そっか!」


「変なこと言ってごめんな」と謝るあの人に、女は首を振って気にしてないと言う。

その後の長い間が過ぎると彼はどうしてか笑って、女は不思議そうな顔をして、やがて釣られるように笑った。



「―――ねえねえ、あのカップル初々しくてカワイイねー!」

「あれってあの私立の制服だよね?いいなあ」


他校の人間の声がうるさい。

注目を浴びているのに互いしか見えていない、あの二人の声が聞き取りづらい。


「……じゃ、私は白にしようかな」

「ん、なら俺は赤!」

「どんな味だろうねえ」

「そうだなあ…あ、文、俺が持ってくから席とってくれ」

「え…でも、」

「いいからいいから」


注文を終えた二人。

あの女は良い子ぶって彼の分も払おうとして、結局彼に自分の分まで払われていた。

申し訳なさそうにするあの女に爽やかな微笑みを見せた彼は、女の背を押して席を選ばせる。


そして、二人分のクレープを手にして、あの女の待つ席に駆け寄り。

仲良く食べたり、食べさせあったりして、幸せそうにしていた―――











「―――うそよ。嘘よ嘘よ嘘よッッ!!

なんでその女なの!?なんでそんな良い子ぶった、何でも持ってるくせに哀れを誘おうと媚びるブスを選ぶの!?なんでそんな根暗が好きなの!?なんでこんなに悪評だらけの女を守ろうと思えるのッ!?

私にはあなたしかいないわ!あなたしか優しくしてくれる人がいないわ!あなたが私に生きる気力を分け与えてくれたのよ!あの地獄のような日々を助けてくれたあなたは私の王子様なんでしょう!?ねえ。ねえねえねえねえ!!

あああああああああああああああああああああ消えればいいのに!あの両親と一緒に焼け死んでしまえばよかったのに!死ね!死んじまえッ!!一番酷い死に方をしちまえ!!

猿みたいにヤることしか考えてない男子たちに犯されて病んで自殺してしまえばいいんだ!車に轢かれてバラバラのグチャグチャにされればいいんだ!!通り魔に刺されて見るに堪えない死体にされちまえ!!

死ね死ね死ね死ねッ死んじまえええええええええええええええええええええええ!!!」






▽魔導書 「私は/貴方を/肯定します」 を 使用 しますか ?


⇒はい/いいえ







▼××× が起動しました。


      は   死にます。





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