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悲しみを乗り越えて ~マルカの親の物語~  作者: 眼鏡ぐま


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11

 

 それから2年の月日が過ぎ、マシュハットは17、モニカは15の年になった。

 マシュハットは優しさに凛々しさが加わり、端正な容貌の青年へと成長を遂げていた。

 モニカも少女らしい可愛らしさを残しつつも蝶が羽化する如く、美しい大人の女性となる片鱗を見せていた。


「まーたあんたたちに見合い話が来てるってよ。みんな諦めの悪い奴らだねえ」


 キルシュはジムロから聞いた話を二人に聞かせる。

 立派に成長した二人は、この山間の村での暮らしも長くなっているにもかかわらず、上品さを損なわずどこか都会的で、この辺りではそうそう見かけない美男美女になっていた。

 二人がすでに結婚の約束を交わしていると言っても、諦めがつかず何度も打診してくる者もいるほどだった。


「結婚するまでは分からないだろうってさ。馬鹿な奴らだよ。あんたたちを見てたら絶対ありえないって分かるもんなのにね」


 キルシュは呆れたように言う。


「モニカが16になったらさっさと結婚しちまいな。夢見るのは勝手だけど、どうせ叶わない夢ならさっさと諦めさせてやるのも優しさってもんさ」


 その言葉にマシュハットたちは苦笑いだ。

 この国では女性は16歳から結婚が可能だ。

 キルシュに言われる前から二人はモニカがその年齢になるのを心待ちにしていた。


「私もその時が楽しみよ、キルシュおば様。早く1年経ってしまわないかしらね」

「その前にモニカは魔力測定を受けなくちゃね」


 今年15になるモニカはもうじき魔力測定を受けに行く。

 もちろんマシュハットは付いて行くつもりだが、もしもモニカの魔力が高かった場合は村を出て王立学園のある王都へ行くことも考えていた。

 けれど、肝心のモニカは絶対そんなことにはならないと謎の自信を持っている。

 モニカ曰く「父様も母様も兄様もみんなそんなに魔力は高くなかったと思うの。だからきっと大丈夫よ」とのことだ。

 こうして悲しみだけでなく家族のことを思い出せるようになったのは良いことだと思うが、このモニカの予測が外れた時のことを考えるとマシュハットは落ち着かない日々を過ごしていた。


 そして、マシュハットの時と同じようにジムロが街に行くのに合わせてモニカの魔力測定を受けに行く日がやって来た。


「ジムロおじ様、よろしくお願いします」

「ジムロ、マシュハット。モニカのことしっかり頼んだよ」

「おう、任せとけ!つってもモニカのことはマシュハットに任せておけば問題無いだろうがよ」


 そう言ってジムロは豪快に笑う。


「キルシュおば様、私ももう子供ではないのだからそんなに心配いらないわ」

「子供じゃないからこそあぶないことだってあるんだよ。やっぱり心配だねえ。マシュハット、モニカから目を放すんじゃないよ」

「はい」


 キルシュの言いたいことが分かっているであろうマシュハットの返事を聞いて、キルシュは少し安心した。

 元よりこの二人が別々に行動することなど想像もつかないが、念には念を入れることに超したことは無い。


「では行ってきます。きっとすぐに帰って来るわ!」

「はいはい。気を付けて行っておいで」


 キルシュに見送られてモニカたちは街へと発った。

 以前と同じように宿を取り、ジムロは取引先へ、モニカたちは魔法省支部へと向かった。

 街を歩いていても二人はとても目立っていた。

 ちらちらと男女の視線を感じ、モニカはマシュハットの手をぎゅっと握る。


「マシュハット、なんだかみんながこちらを見ているようではない?何故かしら?」


 マシュハットは困ったように笑った。

 この国に来てから初めて人の多い街に来て多少なりとも緊張しているモニカにどう伝えるべきか。

 みんなモニカの可愛さに目を引かれていると言って怖がらせたりしないだろうかとマシュハットは考えていたが、多少の危機感は持ってもらったほうが良いかもしれないと、マシュハットはそれをそのまま伝えることにした。


「みんなモニカが可愛いから目で追ってしまうんだよ。キルシュさんの言っている意味分かっただろう?モニカは可愛くて綺麗だから変な男に声を掛けられないように気を付けないと」


 モニカはマシュハットの言葉にきょとんとした後、頬を赤く染めた。

 何度可愛いと言ってもその度に初々しい反応をするモニカをマシュハトは心の底から愛しいと思う。

 自分の言葉にこんなに可愛らしく頬を染める恋人を見てそう思わない男はいないだろう。

 そんな可愛い恋人はマシュハットから手を離すと代わりに腕にぎゅっと抱きついてきた。


「モニカ?」

「……だったら、こちらを見ている女性はみんなマシュハットを見ているということよね?だってマシュハットはこんなにも素敵なんだもの。貴方には私がいるっていうことをアピールしておかなくちゃ」


 珍しく見せたモニカの独占欲に今度はマシュハットが頬を染めた。


「マシュハット?」

「いや、うん、そうだね。でも僕は君しか見ていないし、僕の隣には君しか望まないよ」


 幸か不幸か二人の甘ったるい会話は誰かの耳に届くことは無く、遠巻きに視線を感じながら魔法省支部への道を進んだ。


 魔法省支部に着き、受付にいる職員に声を掛ける。

 2年前にいた職員ではなくマシュハットは少しだけ残念に思った。


(2年も経てばあの時の人たちが全員ここに居るとは限らないよな)


 職員に魔力測定を受けに来たことを告げて、モニカは名前と出身地を手渡された用紙に記入した。

 マシュハットは何も言わなかったが、モニカもマシュハットと同じように“モニカ/カタタナ村”と書いた。

 準備が整ったと言われ魔力測定の部屋に入ると、そこには懐かしい顔があった。

 マシュハットの魔力測定を担当した者と、ブラックス・ブルームの姿がそこにはあった。


「やあ!ひさしぶりだね、マシュハット君。元気にしていたかい?」

「お久しぶりです。ブルームさんもお変わりなく」

「君は大人っぽくなったね。隣にいるのが例の君の恋人かい?」


 にこにこと楽しげに笑うブルームの言葉を受けて、モニカは両手でスカートの裾を軽く持ち上げて挨拶をする。


「初めまして、ブルーム様。モニカと申します。2年前はマシュハットに良くしてくださったそうでありがとうございました。今回は私が15の年になりましたので魔力測定を受けに参りました」

「これはこれは、ご丁寧に。ブラックス・ブルームです。様など付けず気軽にブルームと呼んでほしい。話し方ももっと楽にして良いんだよ」

「まあ!せっかく大きな猫を被りましたのに。もうよろしいのですか?」

「……モニカ」

「はっはっは!しっかりしたお嬢さんじゃないか、マシュハット君」


 しばらく3人が楽しく話していると、一人それを静観していた担当者が「そろそろ肝心の魔力測定しませんかね?」と言ってきたのでようやくモニカの魔力測定を行うことになった。


「では、目の前の水晶の上に手を置いてください」


 流石のモニカも少し緊張した面持ちで、言われた通りに水晶に手を置く。

 モニカが身体から何かが吸い取られたような感覚になると、目の前の水晶がぱあっと光って色を変えた。


「……薄青色、やったわマシュハット!薄青色よ!」

「はは……本当だ。良かった……」

「ね?だから言ったでしょう?きっと大丈夫だって」


 手を取り合って喜ぶ二人に担当者とブルームは苦笑いだ。

 通常なら黄色以上を望む魔力測定において、薄青以下で喜ぶ者はなかなかいない。


「一応、君たちにとってはおめでとうで良いのかな?」

「ええ、ええ!だってこれでマシュハットと離れずに済むんですもの。私にとってはこれが最善の結果なんです」


 嬉しそうなモニカを見て担当者がぼそっと呟く。


「やっぱりマシュハットさんも、モニカさんも変わってますね」

「そうだねえ。でもあの二人はちょっと事情が特殊だから、二人でいることが何よりも大切なんじゃないかな。お似合いの二人だよね」


 2年前ここに居た時よりも表情の柔らかいマシュハットを見て、ブルームはモニカの隣こそがマシュハットの安心できる場所なのだろうと思えた。


「そうだ、マシュハット君。このあと時間はあるかい?少し話がしたいのだけど」

「大丈夫ですが、モニカも一緒で構いませんか?」

「構わないけれど、例の事件の話も出て来るけれど……」

「それなら大丈夫です。モニカもちゃんと知っていますから」

「……そうか。なら問題無いよ。じゃあちょっと付いて来て」


 ブルームに付いて一室に案内されると、紅茶とお菓子が振舞われた。

 この国に来てからはなかなか口にすることが出来ないお洒落なお菓子に目を輝かせるモニカを愛でながら、始めはここ最近の生活などの他愛のない話をしていた。

 そして、その話に一区切りつくと、ブルームは少し話辛そうに話題を変えた。


「2年前のマシュハット君の話を信じないわけではなかったのだけど――」


 そこから話された内容は別に不快に思うことではなかったし、まあ当然のことだろうと言えるものだった。

 2年前、確かにマシュハットの胸には魔道具が埋め込まれていたし、話された内容も疑わしいところは無かったが、一応その後詳しく調べられたということだった。

 ただし、小国の生き残りは殆どおらず、なかなか裏を取るのが難しかったらしい。

 しかも、小国は襲撃を受けた際に街ごと焼かれた場所も多く、書物などを探し出すのも一苦労だったそうだ。

 ようやく貴族名鑑らしきものを見つけ、その中にダルトイ伯爵家の名を見つけたのはマシュハットが村に帰ってから暫くしてのことだったらしい。


「いつの時代の者かは分からなかったが、確かにダルトイ伯爵家と書いてあった。当主の名はマリウス・ダルトイと記されていた」

「マリウスおじ様……マシュハット」

「……父の、父の名です」

「……そうか。それとは別に王宮に残る書物に、かつてこの国の王族が小国と会談した際に傍に控えていた筆頭魔術師の名もダルトイであったと記されていた」


 以上のことからマシュハットが小国のダルトイ伯爵家の者であったと認めるということになったらしい。

 偉そうに認めると言うのもなんだかねとブルームは言ったが、マシュハットは特に気にならなかった。

 ただ、自分という者を証明できるのがモニカだけではなくなったことにどこかほっとしたのと同時に、モニカに対する気持ちがそれ故の依存だけではないということが確認出来た気がしたのだ。


「モニカさんも貴族の出だとマシュハット君から聞いているのだけれど、家名を聞いても良いかな?」


 ブルームが遠慮がちに聞いてきた。

 言いたくなければ無理にとは言わないがという思いが見て取れた。


「私はモニカ・ヘングレース。ヘングレース子爵家の者です。父は、父の名はモルガロ。モルガロ・ヘングレースです」

「ありがとう。一応調べて結果は手紙で送るから」

「よろしくお願いします」


 ブルームは必要無いかもしれないが、と前置きした上で、もしも村を出て身元の詳しい証明が必要な場で働くことになったとしたら連絡を寄こすように二人に言った。

 今の時点ではそんな予定は全く無いが、今後の人生どうなるかは分からない。

 モニカとマシュハットは礼を言い、魔法省支部を後にした。



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初めて書いたお話です。
― 新着の感想 ―
[一言] ああ…このままハッピーに終わればいいのに… 結果が分かってるだけに…(´・ω・`)
[一言] マルカちゃんの性格はどうやらお母さん似のようですね。
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