99.アリエッタ
ーーレアンデル・アークリグナーー
「どうなっているんだ」
皇都に飛来した怪物共は嬉々として破壊活動をしている。
「・・・やっぱり私を追ってきたんじゃ」
鳥籠の中に閉じ込められている風の妖精アリエッタが小さく震えている。
・・・いや、違う。
そもそも俺達が天宮城シャングリアを見つけたのがいけなかった、ここまで逃げれば大丈夫だという認識の甘さがいけなかったんだ。
「どうやら父上達は一足先に脱出したらしいな、同盟国のゲストがいるのに真っ先に逃げるなんて王様の風上にも置けないよね」
皇太子ディルメスがこんな状況でも無邪気に笑っている。
・・・底知らぬ恐怖を感じた、どうしてこの状況で笑っていられるんだ?
「やあディルメス、これは凄い事になったね。面白い報告があるんだけど、どうしようか?」
異様に長い前髪で顔が隠れた小柄な男が入って来た。
この男はアーヴァント侯爵家の若当主バルデンだったか?コイツも頭のネジが一本外れている。
「何だい?勿体ぶらずに教えてよ」
「実はね、もう1匹スプライトを見つけたんだよ」
・・・もう1匹!?
アリエッタの顔を見ると驚いているようだ、本人も自分以外に同族いるとは思っていなかったようだ。
「凄い!この子を駄目にしても保険が効くじゃないか、よくやってくれた!」
無邪気に笑うディルメス。いけない、こいつはアリエッタを使い捨てる気だな。
「ただし、ソイツはめちゃくちゃ強いからね、捕まえるのはちょっと困難かもしれないよ」
「ははは、それは怖いね。まあこの子達はとても脆くて簡単に壊れるからからね。大丈夫だ、何とかなるよ」
・・・アリエッタを何とか逃さないといけない、俺はとんでもない化け物に協力していたようだ。
ガシャン!
突然大きな音と衝撃が走った!怪物が魔導列車を掴んで上空から落としたのだ。
魔導列車の窓は赤く染まっており中にいた人間は絶望的だろう。
「あの列車ってトンズラしたバカ達が乗っていたやつだよね!なんてこった僕が手を下さなくても勝手に死んでくれたよ!」
狂っている、自分の父親が死んで笑い転げている。
「でもどうするの?アイツら誰も逃さないつもりだよ」
同じようにヘラヘラとバルデンも笑っている。
「地下に行こう、そこに面白いものがあるんだ。そこにいるスプライトがいれば何とかなるはずさ」
地下?そこに何かあるのか、
「その前にマルス皇子を回収しておこう、大切な研究成果なんだから」
第5皇子のマルス?本当に何を企んでいるんだ。
「あー、そう言えばさ、クリストア王国から来たゲストの中に「薬聖の姫君」って呼ばれている女の子がいてさ。その子マルスの事を見破っていたっぽいよ」
ディルメスが思い出したように笑う、
「それは凄い、とても興味深い!」
バルデンも笑っている、どうしてコイツらは笑っていられるんだ。
『お前らいつまで遊んでいる』
禍々しい異形の声がする、そちらを向くとマルス皇子が立っていた。
「おや先生、もう目覚められましたか、これから迎えに行こうと思ってましたよ」
バルデンが先生と呼ぶ。いったい何を言っている、マルス皇子は16歳の少年だぞ?
『ふん、私に感づいた者がいたから前倒しで覚醒したわ』
・・・マルス皇子ではない?中身が全くの別人だ。
「凄いな、マルスに本当に別の魂が着床するなんて!」
『初めましてかなディルメス殿、元はネビルスと言うものだ、よろしく頼む』
戦慄が走る、厄災の死霊使いネビルスなのか?俺でも知っている名前だ、死者の魂が人の体を乗っ取った言うことか?
『さてと、とりあえずその辺の死体を集めて兵力を蓄えておこうか』
死体が集まり肉の塊になる、そして異形の悪魔の姿になる。
「じゃあ、地下にある我々の切り札、古の神兵を起こしに行こうか」
俺はヤバいと思った、アリエッタを奪うと一目散に走り出した。
「ありゃりゃ、やっぱり彼は器じゃなかったかな?」
『彼は強そうだから私の兵にしよう』
先程の悪魔が凄まじいスピードで追いかけてくる。
俺はアリエッタを籠から出す。
「お前だけでも逃げろ!」
アリエッタが戸惑っている。しかし、僅かな時間で悪魔に追いつかれてしまった。
「エアロシェルター!」
アリエッタの魔法か?いつも手放さない小さな扇を開くと強力な魔法結界が展開されて俺を守る、
「もう、誰も傷つくのは嫌なの!」
小さく震えている、アリエッタはずっと恐怖で怯えていた。臆病で泣き虫な小さな妖精だった。そんなアリエッタが勇気を振り絞ってあらがっている。
そんな姿に俺も勇気をもらえる!
腰の双剣を握ると悪魔に向かって斬りかかる、
「ステイルアップ!」
アリエッタが補助魔法っぽいのを俺にかけた、いつもより剣戟が速い!身体が物凄く軽く感じた。
圧倒的なスピードで悪魔を斬りつけた、ダメージを与えているはずだがあまり効いていないのか?
すると嫌なものが目に入った、悪魔とは別に巨大な鬼が俺達の前に立ちはだかった。
「アリエッタ、逃げてくれ。お前が捕まったら全てが終わりだ」
しかしアリエッタは動こうとしない、
「絶対にヤダ!」
頼むから我儘を言わないでくれ、
「レアンが死んだらシャンティもダイスもサティも皆が悲しむ!ずっと1人だった私に優しくしてくれた人が悲しむなんて絶対イヤ!」
言っているお前が泣いてどうするんだよ、この絶体絶命の状態をどうするんだ!
「まったく、女神の御使様はどなたも似たようなものなのだな」
一陣の風が俺の前に現れた。いい年した俺の目に涙が溢れた。
そこには剣を握る者なら誰もが憧れる男の姿があった、この世界で唯一「剣聖」を名乗る事を許された男。
「剣聖ハズリム、加勢する」




