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精霊女王と呼ばれた私の異世界譚  作者: 屋津摩崎
五章 サンクリス皇国編
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96.怪盗ラヴィリスの華麗なる手口

「あなたは一体・・・」

 シャンティさんが尋ねてきた、そう言えば自己紹介をしてなかった。

「私は地の女神セルリス様の直系眷属ラヴィリスと申します。よろしくお願いします」

 私の正体を明かした、風の女神フィオル様の眷属であるアリエッタさんを知っているので私に対する抵抗はないようだ。


「他にもいるとは思わなかった」

 私をまじまじ見ながら言う。

「一応、私の事は内緒でお願いしますよ」

 存在がバレると面倒臭いことになるからね、そう言えば例の呪術師に私の事を知られたのは失敗だったな。


「あの、ポーションの件はどうなったんですか?」

 テルーさんが先程聞けなかった答えを知りたがっている、

「そうね、まずは謝罪しなきゃね。迷惑をかけてゴメンなさい。実はあのポーションはサンクリス皇国の皇子付きの側近が用意したものなの」

 皇子付きの側近?アイツらってさっき言ってたのは、そいつらの事か?

「私達にアリエッタを捕まえてこいと命令したのはサンクリス皇太子ディルメス・サン・クリストよ。胡散臭い男とは思っていたけど」


・・・ディルメス?先日の呪術師バルデン・フェローがその名前を言っていた気がする。


「もしかしてですが、その皇太子と呪術師バルデンが裏で繋がっているかもしれません」

「えっ!?バルデン?奴は呪術師なのですか?」

 シャンティさんが驚く、どうやら皇太子の側近がバルデンらしい、とても面倒くさい事になった。

 側近の名前はバルデン・アーヴァント。他者か本人か分からないが、れっきとしたサンクリス皇国の貴族らしい、数年前からディルメス皇太子の右腕として頭角を現してきた新進気鋭の才人と呼ばれている。

 商人としても優秀で独自ブランドの商品を売って富を得ているようで、今回のポーションもそこの物を格安で買わされたらしい。

 つまり、そこの商品で呪詛が入っている物が国内に出回っている可能性があるということだ。

 事態は思ったより深刻だ、例え証拠が手に入ったとしても貴族で皇太子の側近ならば簡単に握り潰せる。それにランダムに混入しているから呪詛入りが判別出来ないし、すでに飲んでいる人も多いはずだ。


(アリーさんが昏睡したのは呪詛に対する抵抗反応ですね、他の方々は魔力の抵抗値が低かったから昏睡症状が出なかったようです)


 カガミンの分析が入る。なる程、アリーさんが昏睡した理由がわかった。

「まずは何とかサンクリス皇国に行きましょう」



 私は皆と別れ深夜まで駅に隠れていた。皆さんには先に出発してもらい離れた場所で待っていてもらう。


(動力部の魔石にラヴィリス様の魔力を流せば動かす事は可能です)


 深夜まで時間があるので色々確認する、本体に付けられているブレーキは付近のレバーで解除可能のようだ。

 駅舎の扉も魔法による開閉式で魔石回路に魔力を流せば開くようになっていた、警報ブザーも開くと同時に解除される仕組みだ。


(私にかかればこの程度の回路の解析は問題ありません)

 カガミンが調子に乗って来た。


 問題はレバーを私が動かせるかどうかだ、後は魔力の負担軽減のために車輌を減らして軽くしたい。

 レバーは私では動かせないので魔法を使うしかない、車輌の接合部の解除も私では無理なので魔法頼りだ、どちらにせよ練習は出来ないのでぶっつけ本番だ。



 深夜、ついに怪盗ラヴィリスの出番だ。


 まずは接合部の切り離しを行おう、昼間に見ていたが普通なら専用の大きな工具でフックを外すようだ、だけど私にはそれが使えないので、

「ストーンマグナム!」


 ガシャン!!


 フックの根本から壊れてしまった。

・・・なんてモロいんだ!お客様を乗せているんだぞ!安全性をどう思っているんだ!!


 私は怒りを堪えてブレーキレバーの方へ向かった。

 4箇所レバーが有りレールにしっかり固定されている。

 今度は手加減して、

「ストーンマグナム」


 ガシャン!


・・・貫通してしまった。レバーが寂しく転がっている。

 そうか、貫通力がありすぎるのか。

「ストーンショット!」


 ゴキ!


・・・折れてしまった。


「もっと頑丈に作ってよぉ!!」

 私は怒り狂い、悶え苦しんだ。


(言おうと思いましたが、それらのレバーはテコの原理で動かすため普通に魔法耐性のない鉄製です、ラヴィリス様の魔法では威力が強すぎると思います)


「ガッデム!早く言ってよ!!」

 じゃあ物理殴りだ!私はカガミンを勢いよく振りかぶった。


「チェストォォ!!」


 思いっきりカガミンでレバーを殴ったらレバーはへし折れてしまった。

・・・どうしよう。


(枕木の木材を利用できませんか?)

 カガミン最高神!

「神樹魔法!上に押し出してブレーキを乗り越えさせろ!脱線させるなよ〜」


 ドン!


 上手く車体を宙に浮かせてブレーキを乗り越えた!

 だけど勢いがついてしまって止まらない!

(これでは扉に激突します!)

「させるかぁ!アースランス装甲弾!!」

 もう全力で扉を破壊するしかない!


 ズガン!!


『ビビビビビビビビ!!』


 派手な音がして扉が弾け飛ぶ!

 非常ベルがけたたましく音を鳴らしている。

「もう嫌ぁだぁー!」

 列車に乗り込み魔石に全力で魔力を流し込む。

 私は逃げ足には定評があるんだ!スピードに乗った暴走列車はもう誰にも止められない。誰にも影を踏ませることなくコンキスタの街を脱出した。


(・・・もうこの街には来れませんね)


・・・分かってます、お願いだから何も言わないで下さい。


 〜〜〜〜


 関係のない話だが、翌日の新聞でこの事件は一面を飾った。

 姿を見せない()()「ファントム」の誕生であった。


 〜〜〜〜



 しばらく進むと魔力を流すのを緩めた、列車はゆっくりとスピードを落としていく。なんとかこれで制御できそうだ。

 集合場所の橋が見える、ちゃんと3人共揃っていたので列車に乗せる。

「流石ラヴィリス様です、見事な手腕です」

 カーリンさんが私を絶賛する。


「ソンナコトナイデスヨ」


 作った笑顔で応答する、とても不思議な顔をされてしまった。


 私達はサンクリス皇国に向かって出発した。



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