95. 冒険者シャンティ
いったい何が起きているんだ?
サンクリス皇国が襲撃されている?
事態が全く掴めない、
「・・・ここは焦ってはいけない、カーリンさんどう思いますか」
私1人なら焦って飛んでいってしまいそうだ。
「・・・そうですね、何とも言えませんがコンキスタに行けば何らかの情報が入るかもしれません」
カーリンさんが的確な判断をしてくれた、こういう時にマイペースな人は冷静で助かる。
「すぐに馬車を用意します!」
テルーさんが家を飛び出した。
こうして私達はコンキスタに向かった。
テルーさんも同行を願い出てくれた、
「父さんや母さんに一緒に行かないと一生後悔すると言われました、私もそう思ってます。少しでも役に立ちますのでどうかついて行かせて下さい」
決意を持ってお願いされ、断ることが出来なかった。
そして今回も私は怪我を負ってしまった。なので過保護モードが発動しました、移動中もバスケットの中で待機となりました。
馬車に乗り昼過ぎにはコンキスタの街に着いた。その足ですぐに魔導列車の駅に向かった。
「列車が動かない!?やはり何かあったんですか?」
テルーさんが駅員さんに尋ねる、
「何が起きているかは不明です、突然サンクリス側との連絡が途絶えてしまって」
やはりこちらでもパニックになっているようだ。
「お願いです!途中迄で良いので出して下さい!」
隣でも必死に列車を出すようにお願いしている。
「えっ?あの人は・・・」
テルーさんが懇願している女性を注意深く見ている。
「知り合いですか?」
バスケットから顔を出して尋ねる、
「えっ?はい、昔会ったことがあるので、あの人が冒険者のシャンティさんです」
いきなり自分の名前を呼ばれビクッとこっちを見る、ショートカットが印象的な小柄で可愛い女性であった。
「冒険者のシャンティ様ですね、少しお話しをよろしいでしょうか?」
カーリンさんが丁寧にお願いする、
「あっ、貴女達は?」
そりゃ突然話しかけてきたから警戒するよね、
「あっあの覚えていますか?アマルフィの街のガトリフとアリーの娘テルーです」
その名前を出してようやく思い出したようだ、
「分かりました。ただ急いでいるので出来るだけ早くお願いね」
私達は空いている部屋を借りる事ができた、カーリンさんが手慣れた手付きでお茶を入れる、
「美味しい」
カーリンさんの淹れたお茶に驚いている。
「あの、アマルフィの街に寄付して頂いたポーションの件なのですが」
テルーさんが言い方を選んでいる、
「ええ、確かに地区ごとに配られるように寄付したけど」
・・・この様子は、何も知らないっぽいな。
「そのポーションの中に呪詛種という呪術のかかった物が混在していたんです。それが原因で事件が起きてしまいまして」
信じられないような話に顔面蒼白で言葉を失うシャンティさん、本当に彼女は何も知らなかったようだ。
「あいつら」
何かを思い出したように怒りの表情で拳を握る、心当たりが見つかったようだ、
「急いがないと!早くアリエッタを助け出さないといけない!」
話の途中で席を立とうとする、しかしカーリンさんが即座にそれを止める。
「落ち着きましょう」
流石にカーリンさん、とても強い!回復師だとしても上位の冒険者の肩を押さえて立たせない。
「離して!あいつらがアリエッタを何かに使う前に助けないと大変なことになるわ!」
・・・アリエッタとは誰だ?話が見えない。
私はふとあの時の新聞記事を思い出す。
[天空に浮かぶ巨大迷宮]
[SS級冒険者レアンデル・アークリグナ]
[天宮城シャングリアを発見]
[アーティファクトを手に入れ凱旋した]
私は咄嗟にバスケットから顔を出した、シャンティさんと目が合う、
「そのアリエッタさんという人は私みたいな姿をしてましたか!?」
唖然として私を見る、そして小さく頷いた。そして落ち着きを取り戻したシャンティさんが語り出した。
サンクリス皇国の皇子の密命で伝説の天宮城シャングリアを探すことに、そして古い伝承を見つけて実際に発見に成功した。
その中で羽のない高位の妖精を見つけて連れて来た。
巨大な怪物や翼竜に襲われながらも命辛々逃げて来たが妖精はすでに衰弱していた。
とりあえず回復師のシャンティさんが治療する事になりコンキスタの拠点でのんびり治療していた。
元気になりつつあり安心していた、妖精は風の女神の御使いで名をアリエッタといった。
次第に打ち解けて、仲良くなってしまった。
だが、昨日突然皇国の兵が来てアリエッタを連れて行ってしまった、
さらにはリーダーのレアンデルによりパーティーを解雇されてしまった、そしてすぐに国から離れる様に言われたらしい。
納得できる訳なく問い詰めるとアリエッタの力で世界を守ると言われた。
嫌な想像が浮かぶ、
「・・・サンクリス皇国が襲撃を受けているという情報は?」
顔を上げる、真っ青だ、
「向こうで古代竜が飛来してきたのですね?」
私は小さく頷く、
「地下にある何かを動かすのにアリエッタが必要だと言っていた、あいつら何かをするつもりだ!アリエッタを守らないと!」
悔しそうに涙を堪えている、地下にあるものが何か知らないがロクでもなさそうだ。
私はしばらく考えこむ。
「魔導列車を拝借しましょう」
全員がギョッとする、
「私が姿を消して魔導列車の魔石に干渉して操作します。皆さんには先に行ってもらい途中で拾います」
私のとんでも発言に賛成も反対もない。
「では今日の深夜決行します、皆さんもすぐに準備して下さい」
有無を言わせず決定する。
私の姿は隠蔽魔法と阻害魔法のコンボで誰の目にも映らないはず、上手く魔石の暴走という事故で納得してくれないかな?
なんて風に都合よく考えてみた。




