94.崩れゆく平穏
私達はガトリフさんの家に戻った。
他の人は大きな怪我も見られないので、カーリンさんにお願いして昨日作っておいた滋養薬を飲ませてもらった。
私は1番大怪我しているテルーさんのお母さんアリーさんの治療をする。
アリーさんはカーリンさんに腕を折られ、私によって腹部をダイツーレンで刺されて重傷だ。
それでもテルーさんによって折れた腕と刺し傷は応急処置が施されていた。
包帯をとってもらい花魔法で傷薬にした花々をすり潰して傷口に塗り込んだ、非常に痛いようで体がビクッと動く、治療を終え再び包帯を巻き直してもらった。
折れた腕は治せないので治癒促進魔法をかけて固定しておく。
一息ついた時にはすでに夕方になっていた。
「お母様はもう大丈夫ですよ。魔導核に損傷もありませんでした、神剣で斬ったのが良かったみたいですね」
暗い顔をしていたテルーさんに声をかけると、大粒の涙をこぼしながら頭を下げる、
「申し訳ありません、私のせいでラヴィリス様を危険に晒してしまいました、なんとお詫びをすればいいのか」
自分の母親の事もあるのに私の事まで気にしている。けしてテルーさんが悪い訳ではないのに、私はやるせない気持ちになる。
私はテルーさんの優しく頬をつたう、涙を拭う。
「テルーさんは何も悪くないから謝らないで下さい。こうして怪我はしても誰かが犠牲になったわけではありません、だから泣かないで下さい」
いけない、私まで涙が出てきた。
落ち着くまで待ってあげると、ようやく顔を上げてくれた。
「失礼いたしますぜ」
1人のドワーフの男性が入ってきた。そして入ってくるなり膝をつく、
「大地母神の神子様でございますな、アマルフィの代表のガンジと申します」
御使いと呼ばれた事はあるが神子は初めてだ。それにいきなりこんな低姿勢なのは初めてだ。
「ガンジさん」
立ち直ったテルーさんが招き入れる、
「テルー、もう大丈夫か?落ち着いたか?」
テルーさんが落ち着くまで待っていてくれたのか、とても優しい人物のようだ。
「我々ドワーフ族としては、ラヴィリス様が現れたとなると宴を開きたいぐらい有難い事なのだが、残念だが今回はそうもいかないようだ」
ドワーフ族はセルリス様の信者が多く、私が現れたのは素晴らしく吉兆らしい。
「悪鬼に取り憑かれた者達は全員無事回復に向かっている、全てラヴィリス様のお陰でございます」
街の代表として謝礼を言われた。
「ところで悪鬼に取り憑かれた人達の共通点に心当たりはありますか?」
私の問いかけに難しい顔をしている、
「それが心当たりが無いのです、あるとしたらシャンティが持ってきたポーションを各地区代表に配布しただけですわい」
ポーション?ガトリフさんを見るとすぐに動いてくれた。
「こんなに沢山のポーションを差し入れしてくれたんですね」
カガミンに鑑定してもらう。
(・・・異物が混入しているのがあります)
どれ?奥にあるやつ?
私はカガミンが指定したポーションの瓶を持つ。
(それです、間違いありません、呪詛種が混入してます)
私はそのポーションをダイツーレンで刺した、すると中身が断末魔をあげながら蒸発した。
全員が言葉を失う。
「すぐにそれらのポーションを使わないように差し押さえて下さい」
私の言葉にガンジさんが血相を変えて出て行った、街の英雄からのプレゼントが原因と知り複雑そうだった。
「ラヴィリス様、貴方様もそろそろお休みになって下さい」
カーリンさんが入ってきて私に休むように言う、そういえば私も結構なダメージを負っていた。
「わかりました、お言葉に甘えます」
そう言うと私はバスケットの中に身を埋めた、全身の痛みが中々引かない、治癒魔法を自分にかけつつ横になっているといつの間にか眠りについてたようだ、目が覚めると朝になっていた。
「おはようございます」
目が覚めて声をかけられる、その主を見るとテルーさんのお母さんのアリーさんであった。そういえば同じ部屋で寝ていた。
「気がつかれましたか、よかった」
まだ横になってないとダメだが意識は取り戻したようだ、
「娘から聞きました、本当にご迷惑をおかけしてしまいました」
アリーさんから丁寧に謝られる。
元凶は例の呪術師だ、あまり気に病まないでほしい、そしてあのポーションが1番の問題だ。
「ところでアリーさんはあのポーションは飲みましたか?」
私は肝心な事を尋ねてみた、
「はい、エルフ族の代表として魔獣の討伐に出る事があってその時に軽い怪我をしたので使用しました」
ガトリフさんもポーションを飲んだのを知らなかったようだ。本来なら普通の日常的な行動だから疑う余地なんてない、だから落ち込まないで欲しい。
そして街代表のガンジさんがポーションの入った箱を持ってきた。カガミンの鑑定であと4つ呪詛の種が入った瓶が見つかった。
「シャンティがこんな事するなんて・・・」
ガンジさん達が落ち込んでいる。
「その判断は気が早いですよ」
一箱24本入のポーションの箱の中にランダムで1、2本の呪詛入り瓶があった、ということは怪しむのはそれを卸した人間かもしれない、
「呪術師は兵隊と言っていた、もしかすると無差別に混入されていた可能性が高いです」
私の推理にみんなの顔が少し明るくなった。決して良い知らせではないが、不幸中の幸い的な安堵だろう。
「そのシャンティさんという方に連絡は取れませんか?そのポーションの入手先を調べないと、非常に危険な事になります」
だが歯切れの悪い顔をしている、
「レアンデル・アークリグナのパーティーはサンクリス皇国を拠点にしているからこの国にはいないと思う、向こうで冒険者ギルドを当たった方がいいかもしれない」
これからサンクリス皇国に戻るからついでに寄ってみるか。とりあえずハズリムさん達と連絡をとっておこう。
私はマーナを呼ぶ、しかし反応がない。
「おかしいな、マーナ?どうしたの?」
エンゲージリングが反応した、
『ラヴィリス様か?』
この声はハズリムさんだ、
「どうしました?これからそちらに行こうと思っているのですが」
『来てはなりません。サンクリスは現在、襲撃されており非常に危険です!』
「え?どういう事ですか!?」
『ブッ・・・』
ここでエンゲージリングでの通信は切れてしまった。




