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精霊女王と呼ばれた私の異世界譚  作者: 屋津摩崎
五章 サンクリス皇国編
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93. 呪術師バルデン・フィロー

 テルーさんのお母さんのために滋養薬を作ることに。

 錬金釜を出して食料と花魔法で薬草にした花々を中に入れ、錬金釜に魔力を流して溶かしていく。


「あなた様はいったい?」

 お父さんのガトリフさんが恐る恐る聞いてくる。

「私は地の女神セルリス様の直系眷属ラヴィリスと申します。縁あってテルーさんに助力させて頂きます」

 錬金釜の中をかき混ぜながら答える。

「地の女神セルリス様の!?まさか御使様なのですか?」

 いきなり膝をつくが、今はそんなのはいらないから!


「それより、奥様はいったい何があったのですか?ここまで強い呪詛はあり得ません!」

 しかし、ガトリフさんは首を傾げる、全く心当たりがないようだ。

「直接聞けばわかるかな?」

 私は溶かした薬液を花薬瓶に入れてシェイクする。


 シャカ、シャカ、シャカ、シャカ、シャカ、


 リズムよくシェイクしていく、それを小一時間ほど繰り返してある程度の量を作る。作り終えた頃には私はすでに肩で息をしていた。

 作った滋養薬はテルーさんとカーリンさんに手分けして小瓶に分けてもらった。

 すべて出来上がった時間はすでに夜になっていた、翌日から投与させる事にしてその日は泊めてもらう事にした。


 その夜、何かこのアマルフィの街で何か変わった事はないか聞いてみた。

 行商が来たとか、斜向かいのドワーフ夫婦に子供が生まれたとか何気ない変化しかないようだ。

「そういえば、この街で生まれた英雄シャンティが多大な寄付金を持ってきたと町長が言っていた」

・・・シャンティとは誰だ?


「S級冒険者レアンデル・アークリグナってご存知ですか?そのパーティーメンバーの1人です。実はこの街出身なんですよ」

 テルーさんが自慢げに話す、S級冒険者?レアンデル・アークリグナ?どこかで聞いた事ある名前だが思い出せない。

「ラヴィリス様、以前ウォルベル王国の新聞で読んだ天宮城シャングリアを発見した話題となった冒険者です」

 カーリンさんが思い出したようだ、私はカガミンから前にウォルベル王国で買った新聞を取り出す。


「天空に浮かぶ巨大迷宮を発見、その中でアーティファクトを手に入れ凱旋した」と書いてある。そのパーティーメンバーの中に回復師シャンティという名前があった、その功績で莫大な富を得て故郷に寄付したのか。


「その時にエルフ族の代表であり、面識のあった妻が礼と挨拶をしたと行った言っていた。だがこの街の英雄を疑いたくはないが」

 ガトリフさんの顔がとても辛そうだ、

「その時に何かを頂いたとか食べたと聞きましたか?」

 思い当たる事はないようで首を横に振る。

 とりあえずは明日だ、しっかり解析してから対策を練ろう。


 翌日、私は滋養薬を薄めてテルーさんのお母さんに飲ませた。

 口に含んで飲み込んだ、つまり生きる意思はあるということだ。


 私は治癒魔法をかけながら状態を確認する。



 その時、私は不意をつかれた。


 テルーさんのお母さんが私を鷲掴みにした!

「うぐぅっ」

 凄い力で締め付けられる、身体中から軋む音がする、

『なんだコレ、妖精?』

 テルーさんのお母さんが私を見て奇異な声を発する、


 ガッ!

 ボキッ!!


 カーリンさんが割り込み、私を掴んでいた腕をへし折った。

 私は解放されすぐに息を吸い込む、身体が痛い、一体何が起きた!?息が上手く出来ない、これは肋骨が折れている!?


『酷いな壊れちゃったよ』


 折れてプラーンとなっている腕を見せつけて戯けている。

「なんなんだ貴様は!妻に何をした!!」

 ガトリフさんが大声で叫ぶ、私は今のうちに解析する、


 アリー

 種族:ハーフエルフ(エルフ族)

 所属: 呪術師バルデン・フィローの支配下


 バルデン・フィロー?どこかで聞いた名前だ、そうだ呪術師だ!ハズリムさんが戦ったという死霊使いの弟子だ。

 状況を打破するために周囲を窺う、テルーさんの様子がおかしい、不味いな今のショックで動けなくなっている。


「あなたは呪術師バルデン・フィローですね」


 ここは痛くても我慢だ!

『おや?僕のことを知っているのかい?・・・・君はもしかしてスプライトかい!?凄い!2体目だ!ディルメスが大喜びしそうだ!』

 バルデンは再び私を掴もうとする、私はカガミンから勢いよくダイツーレンを出した。

 一種の賭けだった、破邪の力を持つ神剣なら呪術に勝てるのではないかと思った。


 上手くダイツーレンが彼女の腹部に刺さった、


『ぎゃあああああああああああ』


 凄まじい奇声を放つ、刺さった部分から異形の鬼が顔を出す。

「逃がさない!」

 第二の刃、ソハヤを放つが避けられるてしまった。

 異形の鬼は窓を突き破り家の外に出てしまった、

「テルーさん、お母様の治療をして!カーリンさんその剣を持って下さい、追いかけます!」

 カーリンさんは私を優しく抱くと窓から飛び降りた。


 何事かと街の人が出てくる。異形の鬼を見てそこら中から悲鳴が上がる、

 絶対に逃がしちゃダメだ!私は影魔法シャドウジャンプで先回りして異形の鬼の前に立ちはだかる、後ろからカーリンさんが追ってくる。このまま挟み撃ちにしてやる!


 ガンっ!


 突然、私は後ろから大きな衝撃を受けた!?


 どうやら私は後ろから殴られたみたいだ、激痛で動けない。そんな中、顔を上げるとそこには悪鬼が顕現した女性達がいた。


『危なかった〜、折角の兵隊が壊されるところだったよ』


 ヘラヘラしながら近づいて来る、そこにソハヤを持ったカーリンさんが割って入り、悪鬼達を斬りつける。


『ぐぎゃあああ』


 神剣は悪鬼に非常に有効のようだ、次々と悪鬼を斬り伏せていく、だけどカーリンさんにも異変が見える。ソハヤを使ったために魔力が枯渇しているのだ!

 悪鬼は女性達の体から分離し、1箇所に集まり一体の大鬼になった。

 絶望的な状況だ、カーリンさんは気力を振り絞って立ち上がる。


 ここは死に体でも私がやらなきゃダメだ!

「ジオグラフィックバトン!」


「蛇王!」


「ダッハーカ!!」


 無我夢中でジオグラフィックバトンを放つ!巨大な大蛇が大鬼を襲うが、大鬼は身を翻して距離を保ち始める。


『なんだコレは?・・・悪いけど何か緊急事態が起こったようだから、失礼するよ』


 大鬼が似合わない爽やかポーズをとる、

「ふざけるな!!」

 私はダッハーカに命じるが時遅く、距離を離されていたので難なく逃げられてしまった。

 ダッハーカをキャストに記憶する、そして倒れている女性達を見る、まだ息がある。神剣で斬ったのが良かったようだ、

「すいません、治療するのでこの人達をガトリフさんのお宅に運んで下さい」

 周囲の人々が集まり出した、そして呪詛に侵されていた人達を運び始める。どうやら皆さん協力してくれるようだ。


「カーリンさん、大丈夫ですか?」

「・・・死にそうです」

 まだ生きているようだ。


 私はソハヤをカガミンに収納し、回復魔法をカーリンさんにかける。なんとか動けるようにはなったので私達もガトリフさんの家に戻る事にした。


 その最中、バルデンの言葉を思い出した、そう言えば私の事を2体目と言っていたな。



 とてつもなく嫌な予感がする。






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