92. ベタスルール王国
夕方、私達はベタスルール王国コンキスタの街に着いた、魔導列車は音も静かで振動も少ないので快適な旅であった。
ベタスルール王国はサンクリス皇国の従国であり、経済的に依存している。
テルーさんが言うには都市部と田舎の格差が大きく、若者は都会か他国に行ってしまうようだ。
温暖で天気が安定しているので農村が多く、田舎は過疎化が進んでいるという。テルーさんもカーリンさんも田舎を出た人間の1人だからなんとも言えないらしい。
コンキスタの街で、まずは今晩の宿を探す事になった。と言ってもテルーさんの知り合いが宿をやっているのでそこに行くことになった。
その知り合いの宿、「渡り鳥亭」に入る。
とても賑わっており、食堂からスパイスの効いた良い匂いが漂ってくる。カーリンさんはすでに食堂の方に釘つけだ。
「あら、テルーじゃない!帰ってこれたの!?」
番頭の女性がテルーさんを見つけて話しかけてきた、
「お久しぶりですマインおばちゃん、今晩泊まれますか?2人部屋でいいんですが」
マインおばちゃんと呼ばれた女性はテルーさんの姿を見る、
「・・泊まれるけど、なんだいその格好は?」
カーリンさんもこっちに来る、そりゃメイド2人なので不審に思いますよね。
「えっと、色々事情がありまして、友人の貴族のお嬢様に協力してもらって飛行船でここまで乗せてもらったんです」
簡単にこれまでの経緯を説明する、
「飛行船に!?っていうかアンタ貴族と友人になれたのかい!?」
アイネちゃんが特別だからね、普通は平民と貴族は友達にはなれないから。
「ウチのお嬢様はおかしな人だから仕方がありません、気になさらないで下さい」
カーリンさんが主人を貶めるフォローをする。まあ、私も同じ事思ったけどね。
「はぁ〜そんな貴族がいるんだねぇ、この国とは大違いだよ」
ため息まじりに答える、そしてマインおばちゃんは部屋の鍵を渡してくれた。
部屋は中々の広さでベッドが2つ置いてあった。2人はメイド服から普段着に着替えた。
「さぁ!ご飯に行きましょう」
カーリンさんが張り切っているが、食事より先にやる事がある、
「先に明日の馬車の手配をしましょうよ」
ハッとしたようにテルーさんが私の案に合意する、明日の朝イチで出発するには馬車の予約をしないといけない。
「え〜、そんなぁ」
カーリンさん、そこで我儘言わない。
そして渡り鳥亭を出て、門近くの馬車停泊所に向かう。さすがに大都市だけあって賑わっていて非常に活気がある。
「美味い!」
後ろを見るとすでにカーリンさんが肉の串焼きを食べていた。買い食いするなんて羨ましい!
一口食べさせてもらうと確かに美味しい、スパイスが効いてピリ辛味だ。
「帰りにスパイスを沢山買っていきましょう」
カーリンさんは肉を頬張りながら首を縦に何度も振る。そして無事に馬車も予約できた。
「私も学園長にお土産のコーヒーを買っていかないと」
テルーさんもお店の中を物色する、
「でも今回で学園長のイメージが反転しましたよ、あんな面白い方だとは思いませんでした」
そりゃ、いつも猫を被っているからね、
「最初は接点がないから気にして無かったんですが、こういう風に良くしてもらえるとは思いもしませんでした」
気をつけなさい、あの人は必ず対価を請求してくるからね、
「出来るだけ高級なのにしておきなさい、ケチると後で苦情を言われますよ」
苦笑いするテルーさん、お土産をカガミンの中に入れて渡り鳥亭に帰る事にする。
なぜ荷物が鏡の中に入るのを質問されたが笑顔を返しておいた。
そして夕食にありつく、スパイスの効いた魚のスープが美味すぎだ、汗をかきながら全て食べ尽くしてしまった。
「このスパイスを料理長に渡して同じものを作ってもらいましょう!」
高速で首を上下する、私とカーリンさんは結託した。
そして明日が朝早いので寝る事にした。長旅だったので全員すぐに眠りについてしまった。
翌朝、気持ち良い目覚めだった。私は自分で着替えようとするが2人に止められた。結局、服を脱がされて着させられた。そろそろ自分でやらないと自分で服を着れなくなりそうだ。
軽く朝食を食べて出発する。
「アマルフィについたら親父さん達によろしくな」
マインおばちゃんが見送ってくれた。
こうして馬車に乗ること数時間、昼前にはアマルフィに到着した。
「父さん!」
テルーさんが呼ぶと大柄な男性が近づいて来る。
「テルー!?もう来たのか!?」
テルーさんのお父さんはカーリンさんを見る、
「初めまして、私はクリストア王国リントワース伯爵家の使用人のカーリンと申します」
カーリンさんが真面目な顔で挨拶する、いつもとのギャップが激しすぎる。
「クリストア王国の伯爵家!?これは失礼しました。テルーの父のガトリフと申します」
ガトリフさんが畏って礼をする、
「いえ、テルーさんは当家のお嬢様の御学友なので失礼のないように申し使っております」
どうした!?いつものカーリンさんでは無いぞ。
「父さん、母さんの容態は!?」
テルーさんがガトリフさんを急かし自宅の中に入れてもらう。
テルーさんのお母さんは死んでいるように眠っていた。
私はお母さんに触り容態を診る、見覚えのある症状だ、ルーネイアさんより強い呪詛腫だ。
私の姿を見てガトリフさんは唖然としているが、構わずカーリンさんと話す。
「やはり・・・呪詛腫です」
「どういたしましょうか?」
私は考える、治療するには材料も時間も足りないし、もし悪鬼が生まれた場合は戦力も足りない。
「第一に体力の回復、このまま行くと周囲にも悪影響がでます。薬を作るので準備します!」
私はカガミンから飛行船で漁ってきた材料を取り出した。




