89.王女様の悩み
リプリス姫自らアイネちゃんに会いに来た。王女様でもこの船の中なら自由に行動しても良いようだ。
私は小声でアイネちゃんに別室で滋養薬を作っていると提案するとガシッとスカートを掴まれた、私は姿を消しているのに!?見えるの?
((お、お願いします、一緒にいて下さい))
・・・巻き込まれた!?
「じゃあ、俺はこれで」
ゼル君が逃げようとするが、アイネちゃんがゼル君の手をがっしり握る。
「ゼル様もお時間よろしいですわよね!」
ヤバイ、この子全員巻き込むつもりだ!ゼル君もその意図に気がついてドン引きしている。
「えっ、2人は仲が悪いと聞きましたが」
うふふ、情報が遅いなぁ。
「そそそ、そんな事ありませんわよ、ね!ね!」
「えっ、ああ、まあ」
こうして3人と私は部屋の中に入って行った。
「ところで先程の食べ物とお花は?」
まあ、普通は気になるよね。
「はい、栄養満点の滋養薬を作ろうと思ってまして」
リプリス姫は少し考え込むように俯く、何を考えているのだろう。ハッと顔を上げる、
「いえ、アイネのお師匠様って本当に何者なのかと思って、つい」
アイネちゃんは親しい人に対して嘘が下手なので顔にすぐ出てしまう。
「例の放浪の錬金術師だろ、忘れた頃にやって来ると言ってた」
この嘘は皆で共有しているもので、ゼル君がフォローをする。アイネちゃんは首を縦に何度も振ってそれを肯定する。
リプリス姫は納得してないようだがそれ以上は追求しなかった。
「実は話というのは兄達の事です」
やはりか、アイネちゃんとゼル君も顔に出ている。
「仲が拗れているとは聞いたがそこまでなのですか?」
ゼル君は今まで第1王子派だった、御輿のエルヴィン王子とは少なからず交流があったようだ。
「昔は優しい兄貴肌の方だったのに、ここ最近は特におかしいとは思っていたんだ」
なんとエルヴィン王子、昔は優しい兄貴肌の人でしたか。
「ええ、例の新興勢力のカリスト伯爵が側近になってからどうもおかしくなってしまって」
「・・・カリスト伯爵って大公様の派閥ですよね」
ゼル君の問いかけにリプリス姫は苦々しい描写になる。私はさっぱりなので小さな声でアイネちゃんに質問する。
((あの・・・大公様とは王弟のことです))
王弟?国王の弟ということか。ドロドロの権力争いの様相になって来てないか?
「アリアス兄様も最近は妙な人と接近しているとの噂が出てまして、例の憂国の志士という集まりと接触があるとの噂が流れてまして」
謁見の最後で言い合っていたな、噂は所詮は噂だから信用してはいけないけど、
「私は、あの憂国の志士という人達は好きではありません!」
アイネちゃんがバッサリと切り捨てた、
「先人達の思いを踏みにじってまで理想を追いかけるなんて思い上がりも甚だしいです。自分の正義の為なら何しても良いという考えは大嫌いです!」
思った以上に嫌悪感を抱いているようだ、リプリス姫とゼル君も驚いている。
「アリアス殿下の噂の元凶は、以前問題を起こした錬金術師と薬師のせいだろ」
ゼル君が続ける、
「あの2人をアリアス殿下が贔屓にしていた事、その後の調査で憂国の志士のメンバーという疑いが出てきた事からその噂が出てきたんだ。あの2人が変死してたのも口封じのために殺したという噂までたっていたんだ」
そうか、あの2人は亡くなったのか、私達はその後はノータッチだったから知らなかったよ。
「はい、私としては噂は噂なので信じたくないのです。今の2人は中立の立場なので良かったら意見を聞きたくて」
リプリス姫の問いかけにアイネちゃん達は難しい顔をしている。
先にゼル君が口を開く。
「実はアリアス殿下はウチが第1王子の派閥を抜けたら普通に話しかけてくるようになったんだ」
アリアス王子のゼル君への敵視はきつかったからね、
「一応エルヴィン殿下には恩と義理があるからアリアス殿下とは距離を置いている。ただエルヴィン殿下には昔のように戻って欲しいという気持ちはある」
ゼル君の気持ちはよく分かる、エルヴィン王子を小さい頃から兄のように慕っていたらしいからね、アリアス王子の手の平返しも微妙なところだろう。
今度はアイネちゃんが続く。
「まず、リントワースは派閥を抜けてからは中立を守らないと潰される可能性があるので、どちらにも肩入れしてません」
アイネちゃんがあくまで自分の立場を強調してから言う、
「アリアス殿下の考えは素晴らしいと思ってます、才能のある人に身分は関係ないとおっしゃってました。なので最初はアリアス殿下が次期候補ならよかったのにと思っていました。ただ先日のお姿を見て、どうも様子がおかしくて」
慎重に言葉を選んでいる、不憫に思ったのかリプリス姫が途中で止めた。
「ごめんなさい、辛い思いさせてしまったよね。私も出来れば昔みたいに仲良くしてくれたらと思っているんだけど」
年齢はアイネちゃん達の一つ下だよね、彼女も不憫に思えて仕方がないよ。
「・・・それにしてもゼルは雰囲気がすっごい変わったよね。なんで?」
唐突に質問を変えてきた、リプリス姫の視線はアイネちゃんに向く。
「なっ、何を突然に!?」
何を焦っているんだ、バレバレだぞ。さすがに鈍いアイネちゃんでも気がつく。
「なななな、ゼル様とは最近ようやく打ち解けたのでそそそんな関係ではありません!」
アイネちゃんの動揺が激しすぎる。
「ぷっ、うふ、あははははは」
リプリス姫が我慢が出来ずに王女とは思えない下品な笑い声をだす、
「あはははは、もお、何よそれ〜、もう、久しぶりにこんなに笑ったわ!」
大笑いするリプリス姫、きっとこれがこの子の素なのだろう。
笑いおさまると唐突に頭を下げる、
「ありがとうね、貴方達が同行してくれて本当に嬉しいし心強いわ」
よほど宮内がギスギスしていたのだろう、非公式の場なのと、気のおける関係から普通に頭を下げてきた、2人は相変わらず下手な言い訳をしていたが。
その時、船内に大きな警戒音が鳴り響く、驚いて何があったのか急いで外に出る。
「巨大なドラゴンだ!!」
誰かの声が聞こえた。
私達は窓を見る、遠くに数体の巨大な翼竜の姿が見えた。
あれは、もしかして恐竜のプテラノドンじゃないか?
巨大な翼竜は進路を変えて飛び去っていった。




