87.空の旅
出発の日が来た、何故か王都に集合であった。
「王都から出発なのですか?」
アイネちゃんに聞いてみると、
「はい、飛行船に乗って行くんです」
・・・空路でしたか、この世界にそんな物があったんですね。
この世界では数少ないが飛行船が存在し、所有している国は大国の象徴であった。
クリストア王国にも2艇ある。全て王家が所有しており、有事の時や今回のような王家の外遊の時に使用される。
ほとんどの人間が飛行船に初めて乗るので興奮している。
するとグランドル家の面々もやって来た。言われた通りゼル君もいた。使用人含めて7人来ていた。ちなみにリントワース家は私は含まずに総員6人だ。
次々と派遣に向かう人が集まる、ベルリアル公爵家は夫婦2人と使用人で総勢5人だ。
「しまった、ウチも孫連れてくれば良かった!」
ゼル君を見てゴメスさんが喚き出した。しょうもない爺さんばかりだ。
リプリス王女と近衛騎士小隊と使用人で10人、総勢28人の大所帯の旅となったが、この飛行船は大型なので100人以上乗っても楽勝らしい。
「王女専属近衛隊の隊長ベリーサ・ウィリアムです。此度の警護隊長も務めさせていただきます、よろしくお願いします」
身長の高い格好いい女性騎士が私達の元に挨拶に来た。
「凄い、白薔薇様だ・・・」
アイネちゃんが呟く、どうやら凄い人のようだ。私には分からないが他の方々も壮々たるメンバーらしい。
簡単な自己紹介をしてから乗船した、外国の要人を連れてくる際にも使用される為、船の中はとても豪華であった。
私はとりあえずアイネちゃんの部屋に失礼する。個室でとても豪華だ、リマさん達が荷物を運び入れる。
「さぁ!早く船内の探検にいきましょう!」
アイネちゃんの目が輝いている、本当に困った女の子だ。
「お嬢様、離陸するまで自室に待機ですよ」
最初に言われた注意事項をもう忘れたらしい。
「私が部屋から出て行かないように見ておきますよ」
リマさんにそう告げるとお願いされ、みんな出て行った。
2人きりになったので色々聞いてみた、
「白薔薇様のベリーサさんはそんなに凄い方なのですか?」
女性陣の目が輝いていた、確かに格好いい女性だったけど。
「はい、全ての女性の憧れの騎士様です、剣の腕もクリストアでも5指に入ると言われてます」
「えっと、ハズリムさんより上ですか?」
・・・するとアイネちゃんは沈黙する、どうやら比較してはダメらしい。
「その・・ハズリム様はすでに人外の域と言われてますから」
その言い方はよくないな〜彼はまだ半分くらいは人間ですから!
「クリストアには三色の薔薇様がいるんです。先程の白薔薇さま、大魔法使いの紅薔薇様、百計の青薔薇様です。全員女性で家柄も凄い方なんですよ!」
興奮気味にアイネちゃんが熱弁する。
「家柄という事は3人とも貴族なのですか?」
確かにベリーサさんは見た目もオーラも高貴な人っぽいけど。
「はい、お三方ともに高位貴族です。ベリーサ様はウィリアム公爵家の方で、リプリス様の叔母様になります」
『当船ルクスフェルト号は出立時刻になりました、乗船者は各室に入り座席に座って待機して下さい。5分後に離陸いたします』
話の途中でアナウンスが入る、私はアイネちゃんの膝の上に座り待機する。
「私も初めてですからドキドキします」
そしてベルの音と共に離陸のアナウンスが入る。浮遊感がして暫く経つと再びアナウンスが入る。
『当船は無事航路に入りました、それでは良き船旅をご堪能下さい』
私達は窓から外を見る、雲が自分より下にある!いけない、私まで楽しくなってきた!!
私達は待ちきれないと立ち上がる。
「さあ!探検の時間です!」
私達は意気揚々と部屋から飛び出した。
ーー???ーー
「おかえりレアン」
長い銀髪の男が笑顔で迎え入れた。
「例のモノは手に入ったかい?」
グラスに酒を入れながら聞いて来た。
「ああ、伝承通り天宮城シャングリアにいた。無事捕獲してきたが相当弱っているようだ」
「頼むから死なせないでおくれよ〜、こっちからしたら死活問題なんだから」
・・・こっちも死にそうになっているんだ、何を言っているんだコイツは。
「仲間に診させているが妖精なんて専門外だと嘆いていたぞ」
仲間のヒーラーに診させているがどうなる事やら。
「妖精じゃないよ、妖精の上位種のスプライトさ、風の女神の御使いだよ?めちゃくちゃ貴重で高貴なんだからね!」
・・・俺にはどこが違うのかわからない。
「万が一ウォルベル王国にバレたら大変だから内緒だよ?」
悪戯っ子ぽく笑うが全然可愛げはない、
「ブラックコア集めは難航しているけど、それを制御する器をようやく手に入れたんだ。それの鍵なんだから本当に大事にしてくれよ」
一体コイツは何をするつもりなんだ?まあ、ロクでもない事だと思うがな。
「しかし天宮城シャングリアにいた怪物共がその妖精を執拗に狙っていた、もしかしたら追いかけて来るかもしれないぞ?」
命辛々逃げてきたが相当しつこかった。
「ははは、それをなんとかするのが君達冒険者の仕事でしょ?僕はもうすぐクリストア王国からお客さんが来るから自由が効かなくなるし」
そう言えば、こんなクソみたいな奴でもこの国の皇子だったな、
「なんか、めちゃくちゃ失礼な事考えているでしょ?」
お前は人の心を読めるのか?
「とりあえずそっちは任せるよ」
男はそう言うと出て行けのジェスチャーをして俺を退室させた、あんなのでも俺のパトロンだ言うことは聞いておこう。
「しっかし、あんな小っこくてガクガク震えているのが世界を変える重要な鍵ねぇ」
ポリポリ頭を掻きながら帰路についた。




