85. 集まれ旅の仲間達
「先程はすまなかった」
帰り際にアイネちゃんにアリアス王子が謝ってきた。
正直いって私はアリアス王子に関しては測りかねていた、裏がありそうなのだが、さっきみたいに安い挑発に乗って喧嘩腰になったりと年相応な行動を見せる時もある。
なんにせよ注意はしておかないといけない気がする。
領邸に着くと2人は余程疲れたのかグッタリしている。
「お疲れ様です」
リマさんがお茶を入れてくれた、2人は優雅には程遠い姿で一気飲みした、そういう所は似ない方がいいのにそっくりだ。
「想像以上でしたね、王子2人の仲の悪さ」
私は率直な感想を漏らす。
「確かにあのままではいかんな、下手したら国が分断してしまうぞ」
ホランドさんはアゴを手でさすりながら考え込む。
「陛下は子供達に甘いからな、今日はよく叱った方だと思う。ベルリアル様はさぞ苦労なさっているようだな」
2人とも年長者の言うことに耳を貸さなさそうだからな、早く引退したい気持ちは分かるかもしれない。
「グランドル様のもとに行こう。今回の派遣の詳細と宮内の状況を知りたい」
執事のラルズさんを呼ぶ、グランドル邸にアポをとり明日訪問することになった。
翌日、私達はグランドル邸にうかがった。ほぼ顔パスで屋敷の中に入っていく。
『ラヴィー!』
マーナがフリフリドレスを着ている、私も経験あるが困ったことにどんどん衣装がエスカレートして豪華になっていく。
マーナに抱きつかれながら席につく。
まず、今回の派遣の件からだ。王女の護衛で近衛兵の専属小隊、そしてヒマで無職の剣聖ハズリムさんだ。
「引退してからの方がコキ使われている気がするんだが・・・」
おそらく貴方は今1番便利使いできる大切な駒ですよ。
付き添い貴族はなんと宰相のゴメス・ベルリアル公爵だ、なんか爺ばかりだ。
「私も行くわよ!」
シェルさんが!?爺に加わり婆も入った。
「それとベルリアル公爵夫人も来るわ」
婆がもう1人追加したようだ。
「リントワースからは領兵長のフレディを同行させるつもりです、本当なら私が行ければ良いのですが」
久しぶりのフレディ隊長の出番か、私はやりやすいからいいけど。
「あっ、あのガルファ様!陛下からお聞きしました、この度はお褒めいただきありがとうございます、とても励みになります。ただちょっと褒めすぎのような気がします」
アイネちゃんが先日の国王との謁見の時に言われた事を思い出し、また顔が赤くなっている。
「ははは、言い過ぎとは思っていないよアイネ嬢、本来なら君を外国の目に晒したくなかったのが本心だかな、力及ばず申し訳ない」
ガルファさんの発言の意図が分かった、この人の凄さは客観的な視野を持って判断するから恐ろしい。とてもハズリムさんの子供とは思えない。
「ところで宮内の件なのだが」
ホランドさんが声を低くする。
「あっ、私達は席を外します」
アイネちゃんは気を利かせて外に出る、そこで待っていたのはゼル・グランドル君だった。
「アイネ嬢、少し良いか?」
『ゼールー!』
一緒に部屋を出たマーナがゼル君に飛びつく、少し意外だった、マーナと接している時のゼル君の顔はとても穏やかだった。アイネちゃんも同感みたいで驚いた表情であった。
私は隠蔽を解いて姿を表す。
「初めましてですねゼルさん、ラヴィリスと申します。アイネちゃんの師匠と言えばいいかしら?」
ゼル君は驚いていたがすぐに頭を下げた、
「以前はお爺様を助けて頂き、本当に感謝します」
しばらく見ないうちに成長したものだ。
「しかし、こんなに早くお会いできるとは思ってませんでした」
はて?ゼル君、それはどういう事でしょう?
「私はゼルさんの事は嫌いではなかったですよ、マーナの懐き具合からも人柄はよくわかりますから。ただアイネちゃんがねぇ・・・」
ビクッとするアイネちゃん、何だか汗がすごいことになっているよ?
「い、意地悪言わないで下さいよ」
だいぶ焦っているようだ、初々しくて良いよ。
「そ、それより話というのはなんですか」
おや、話題をすげ替えた、
「そ、そうだな、こちらにきて欲しい」
連れてかれた部屋につくとノックする、
「どうぞ」
この声はシェリア先生だ、中に入るとインテリクール美女が待っていた。そしてベッドに寝ているのはなんとアイネちゃんの友達のテルーさんだった。
「テルー?なんで?」
状況が飲み込めないアイネちゃん、シェリア先生が口を開く。
「故郷から急に連絡が入ってな、母親の体調が悪いらしい。帰郷資金を稼ぐために無理をしたようでクエスト中に倒れてしまったんだ。私が担任だから冒険者ギルドから連絡が来てな、急遽引き取ったんだ」
心配そうにテルーさんを覗くアイネちゃん、治癒魔法を施している。
「テルーさんの故郷とは?」
シェリア先生に聞いてみる、
「西南のベタスルール王国です、位置的には今度行くサンクリス皇国の隣です。私が旅費を肩代わりしようと言っても頑なに拒否されてな」
シェリア先生は肩を落とす、
「ゼルからリントワースと仲が良いと聞いた、何とか話をしてもらえないか?」
やはりゼル君は不器用なだけでいい子なんだよね。
「・・・わかりました、何とか話して説得してみます」
アイネちゃんの顔が強張っている、これはノープランですね。
「どうやって?」
「え?」
唐突に私が質問にすると、アイネちゃんは焦って言い淀む。
「えっと、その、誠心誠意粘り強く話して」
私は深くため息をつく。
「友達から先生に借金しろなんて言われたら嫌でしょうが!」
後ろでシェリア先生が小声でゼル君にしっかり私の話を聞くように促す、私は気にせず話を続ける。
「説得するなら相手を思いやってあげないと。可能なら今度の派遣を利用しましょう、アイネちゃんの従者としてリントワース家が一時的に雇ってあげたらどうかしら?テルーさんは社会経験があるから仕事としてなら受け入れやすいはずよ」
・・・テルーさんは実はもう起きているな、でも続けよう。
「サンクリス皇国に着いたら一旦別れて、故郷に帰る旅費を給料として渡せばいいんじゃないかしら、どう思いますテルーさん?」
「「えっ?」」
全員がベッドの方に向く、バツが悪そうに体を起こす。
「えっと、シェリア先生、皆様、この度は心配をおかけして申し訳ありませんでした」
深々と頭を下げるテルーさん、それから私を見る、
「そして、ありがとうございます妖精様」
「ラヴィリスです、一応アイネちゃんの師匠です」
私にも深々と頭を下げる、礼儀正しい子だ。
「私が自力ですぐに旅費を稼ぐのは難しそうです。もし許されるなら、ラヴィリス様の案をお受けしたいのですが」
私はアイネちゃんを見る、
「勿論です!すぐにお父様を呼んできます!」
慌ただしく部屋を出て行った。
「流石ですねラヴィリス様、とても勉強になりなります」
シェリア先生に褒められた、ちょっと嬉しい。
するとゼル君は小さい声で呟く。
「・・・ラヴィリス様から教わるっていうのはちょっとズルいよな」
よし、聞こえたぞ!君も道連れにしてやる。




