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精霊女王と呼ばれた私の異世界譚  作者: 屋津摩崎
四章 ウォルベル王国編
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80.閉ざされた世界にさよならを その2

 ーーヴェロニカーー



 街を飛び出した私達は逃げるように王都に向かうことした。

 相談して王都でお金を貯めて一緒にこの国から出ようという結論になった。


 リリはこの頃から変わっていった、数少ない荷物も全部捨て、長く美しい髪を短く切ってしまった。


「狭い世界にずっと閉じこめられていた、世界はこんなに広いのに」

 笑いながら言っていたが、私はそれがとても共感できた。


 ただし実際問題お金がないのは切実だ。私達は冒険者ギルドに登録して魔物を狩ってお金を稼ぐことにした。

 ついでにその頃からリリを鍛え始めた、単独である程度のレベルの魔物を狩れるまで強くなった。


 そんな折、クエストのため懐かしの西の密林に入ると小型のドラゴンと遭遇した。

 リリはビビっていたが私と火阿弧なら楽勝であった。ただドラゴンは高額で取引されているのを知り、後に私達は大金を手に入れることとなる。


【竜狩のヴェロニカ】・・・私はなぜかその二つ名で呼ばれるようになった。


 リリが、「自分は狩っていない、狩ったのは師匠のヴェロニカです」と言い始めてしまったのだ。

 私はリリに文句を言う。

「私に竜狩の名前は重すぎる!」

 困る、私にも重い!


 そんなある日、私達のことを聞きつけてある人がやって来た。高級レストランの[フレイア]のオーナーであるカトレーナ・ダイルという女性だった。

「ドラゴンの肉がどうしても必要なの、何とか手に入れる事は出来ないかしら?」

 なんと私達を指定して直接依頼してきたのだ。実はドラゴンの肉が食べられるのをその時初めて知った。


 詳しく聞くと、どこかの偉い人に要求されたらしい、困っていたところに竜狩の噂を聞いた、もしかしたらと思い相談に来たようだ。

 ドラゴンの肉に興味が出たので私達は再び西の密林へ入り、2体程ドラゴンを狩って帰ってきた。

 カトレーナさんは早すぎてビックリしていたが大喜びしていた。是非レストランへ来て欲しいドラゴン肉をご馳走したいと誘われて、場違いながら高級レストランに入った。


 そこは夢のような空間であった、綺麗で広い厨房に最新式の調理器具、リリが目を輝かせていた。

「あの、少しだけ使わせてもらえませんか?」

 突然のお願いに驚かれるが、踊る心に歯止めがかからなかったようだ。


 私の指示でドラゴンを捌いていく、肉切丸は包丁としては究極とも言える切れ味なので貸してあげた。

 その場にいる人間全員がその手捌きに目を丸くしている、そして料理を作り終え味見してみようとすると、ようやく周囲の視線に気付いた。


「た、食べますか?」


 その言葉を待っていたのか作った料理はすべて食べられてしまい、私達の分まで食べられてしまった。

 カトレーナさんに是非この店で働かないかと誘ってくれた、だが私達は訳ありなので躊躇した。


 場所を変えカトレーナさんと2人で話す事になり、リリは自分が社交界で大恥と揶揄されるリリオネスである事、実家を追放され名前をリリネットの変えた事などを正直に話した。


「私が今話しているのはリリオネスではなく料理人のリリネットさんよ、私が興味があるのは料理人のリリネットさんだけ」

 リリが料理人として認められた事が正直に言って嬉しかった、そしてこの人なら信用しても良い気がした。


 私は魔法を解いて姿を現した、

「ヴェロニカ!?」

 リリが驚いた顔をしている、カトレーナさんも目を丸くしている。

 自分が竜狩と呼ばれていること、女神フレア様の眷属であることを説明し、リリを傷つける事は絶対に許さないと釘をさした、カトレーナさんは平伏しそれを了承した。


 リリの新しい職場が見つかった。


 待遇はとても良かった、専用の個室の調理場を用意され、住む場所まで提供された。さらにはリリの事を流浪の凄腕料理人として正体をバレないように細工してくれたのだ。

 謝礼もかねて私達はドラゴン肉を提供するため、冒険者業もこなした。

 そして竜狩のヴェロニカという名も、どんどん1人歩きしていき有名になっていった。


 だが平穏はすぐに壊れてしまった。


 狩場の東の密林にいてはいけないものがいたのだ。私がウラノス台地から脱出する際に現地のスライムが紛れ込んでしまったのだ。

 スライムはこの森で成長し進化までしてしまった。


 私はすぐに駆除しようとするが、捕食と擬態のスキルを所持しており、上手く逃げられてしまった。

 私は焦っていた、スライムを連れて来てしまったのは自分の責任だ。まずはこの森に誰も近づかないようにしなければならない。


 私達はカトレーナさんに相談すると、彼女の旦那さんが軍の偉い人らしく相談に乗ってくれる事になった。


 旦那さんの名前はバークライ、将軍と呼ばれているこの国でもかなり偉い人だ。

 でも私達はこの人の顔を知っていた。よくフレイアでドラゴン肉食べてるおじさんだ、とても美味しそうに食べているので覚えている。

 そしてもう一組、前にいた街の領主ヘオリス伯爵とその息子がなぜか同席していた。


 カトレーナさんがお引き取り願ったが、どうしても謝罪をしたいとのことで許可した。どちらにせよ私の事を知っているのだから釘を刺しておこうと思ったからだ。

 まずはヘオリス伯爵、噂話とはいえ心ないことを言ってしまった。息子さんに真相を聞き、いかに自分が浅慮だったか思い知ったと丁寧に謝罪された。

 私は姿を現した。将軍さんもヘオリス伯爵親子も驚愕している。


「私は火の女神フレア様の直系眷属のヴェロニカと申します、リリは私の従属者であり傷つける者は誰であっても許さない」


 脅しともとれる威圧をした、この国で女神を怒らせてはいけないことを小さい頃から教わっており、私の正体を秘密にするように釘をさしつつ今回の件を水に流した。


 そして本題のスライムについて話す。

 まず私がウラノス台地から来た事にまず驚かれた。幻の台地と呼ばれ原初の世界がそのまま残っている伝説の地らしい。


 スライムはそこから紛れ込んでここに来てしまった、ここらにいるスライムと違い捕食で食べた者のスキルを奪い、その者に擬態できる事を説明したら恐ろしさを理解してもらえた。

 軍を動かせば密林の中で標的にされてしまうから、人を近づけないようにお願いした。ヘオリス伯爵も自領の危機なのですぐに了承し、両軍に手配してもらうようにお願いした。


 私はそれに感謝し、お礼として作っておいたプリンを出した。この世界には無いらしく珍しがっていたが食べると態度が一変した、すぐにこれをレストランに出そうと鼻息を荒くするカトレーナさん、すぐにこれの作り方を教えて欲しいというリリ、おかわりを所望するバークライさんと良い大人が小さな私を囲い込む。



 本当に困った人達だ。


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