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精霊女王と呼ばれた私の異世界譚  作者: 屋津摩崎
四章 ウォルベル王国編
79/499

79.閉ざされた世界にさよならを その1

ウォルベル王国編のエピローグです。

ヴェロニカ視点の回想です。

 ーーヴェロニカーー



 最後の最後でやってしまった。お酒に酔って気分が良かったといえ人のベッドに潜り込むなんて。


「気にしないでください、全然いいんですよ」


 ラヴィリス様は笑って許してくれた。

 本当にこの人に出会えてよかった。この人のおかげで私の世界に光が差した。



 〜〜〜〜〜〜


 私は火の女神フレア様の直系眷属のヴェロニカ、こことは別の世界で生まれたけど余り記憶がない。

 以前の残っている記憶は苦しくて、身動きが取れずに辺り一体が炎に包まれていた。

 おそらくそれが私の最期だと思う。


 そして目が覚めると、そこは炎ではなく、辺り一帯が溶岩の海だった。

 何故生きているかよく分からなかった、よく見ると大きな鳥が私を炎から守ってくれていた。


『気がついた?』


 声のする方を見ると赤い髪をした息を飲むような美人が見下ろしていた。

・・・見下ろしていた?

 私は起きて周囲を見渡す、すべてが巨大なものに囲まれていた。


『私は熾天使フレア、この世界では火の女神として知られているわ』

 これがフレア様との最初の出会いであった。


 前世での私の名前は[高遠 蛍]というが、あまり良い最期ではないので前世の記憶は思い出さない方がいいと言われた。

 そして、私に新しく[ヴェロニカ]という名前を付けてくれた。

 とても思い入れのある名前で私は2代目らしい、嬉しそうに笑いながら語っていく、私は次第にフレア様のペースに巻き込まれていく。


 短い時間だったが濃密だった、本当はやってはいけないが最初から強力な獣魔の[火阿弧]という火の鳥と従僕魔法で契約させてもらい、インテリジェンスアイテムの包丁をくれた。

 なぜ包丁なのか聞いてみたら、前世で私の趣味が料理だったらしい。いつも楽しそうに料理をしていたから、この世界でもそれを楽しんで欲しいと言われた。


 包丁に名前をつけてあげてと言われたので[肉切丸]と名付けた。

 フレア様はいい名前だと言っていたが口元が引きつっていた。ぼそっと「闇が深い」と呟いていたが気にしない事にした。


(宜しくダヨ、ヴェロニカサマ)


 片言の変な話し方だ、いっぱい話しかければどんどん言葉が流暢になっていくらしい。


・・・そして、そろそろ時間切れだと言われた。


 外の世界は危険が一杯で気をつけること、変な人についていかない事、生水を飲まない事など、口煩く言われ、更にはもう一つマジックアイテムを追加で持たされた。

 まるでお母さんみたいだった、別れの時には大号泣してるから私はドン引きしてしまった。


 そこからは苦難の連続だった。


 ウラノス台地と呼ばれる場所は未開の奥にある天空にそびえる秘境で、古代種と呼ばれる恐竜みたいな怪獣が闊歩していた。

 さらにはすぐに嵐になったり、火山が噴火したり雪が降ったりと日々生きるのに精一杯だった。

 ここから抜け出す希望が見えたのは半年後の事だった。

 ジャングル奥にあった祠がゲートと呼ばれる転送装置だと判明したのだ。


 最後の試練が始まった、ゲートキーパーと呼ばれる守護者が私に襲い掛かる。

 全く私の魔法が効かない、何度挑んでも勝てなかった。

 そこで私は決死の作戦に出た、ジャングルの恐竜と戦わせる事にしたのだ。瀕死のボロボロになったけどラプトルの群れと戦わせる事に成功した。

 ゲートキーパーがラプトルに倒され、活動を停止している隙をついてゲートの中に飛び込んだ。


 なんとか脱出に成功した。


 私はすぐに自分が出てきたゲートを破壊した。もう二度とあんな所には行かない!

 ゲートから出てきた場所はウォルベル王国という国で、その国の東部にある深い森の中だった。何より嬉しかったのは魔物が弱い!常に怯えていた日々が懐かしかった。

 それでも次第に人肌恋しくなり、私は人里に出ようと決心した。


 だけどその時は気付いてなかった、私が後の禍根を連れて来てしまっていたことを。


 森から出てしばらく進むと、街道脇で実家から追い出されて行き倒れていた女性を拾ってしまった。

 飢えていたのでご飯を食べさせてあげたら泣きながら食べていた。


 落ち着いたのを見計らって事情を尋ねた。彼女は婚約破棄され、あらぬ罪を着せられ実家を追放されたらしい。

 堰を切ったように恨み事を言い綴り、泣き出す姿に私はドン引きして何も言えなかった。


 彼女はリリオネス・ノーマンという名前で、この国の貴族だったらしい。どこかの貴族に嫁入り予定だったが罠に嵌められて追放されたと言う。

 行くあてもなく途方に暮れていた所を私が助けたようだ。


「私?えっと、火の女神フレア様の直系眷属のヴェロニカという名前です」

 自己紹介すると凄い驚かれた、この国では女神様がとても崇拝されており、私はその御使いらしい。

 とりあえず拾ったリリオネスさんと一緒に近くの街にたどり着いた。


 リリオネスさんはもうその名を名乗れないので新たにリリネットと名前をかえた。

 貴族令嬢の彼女は、本当に自分では何も出来なかった。何かスキルがあればと思い肉切丸に相談すると、従僕魔法を使うと自分のスキルを与えられると知り聞いてみた。


「ぜひ!お願いします!」

 即答され、リリオネスさんは私に従属する事になった。いつも注意されるが、私はついリリオネスと呼んでしまうのでこれからはリリという愛称で呼ぶようにした。


 私の持つ【包宰】のスキルを与えるとリリの料理の腕は一気に開花した。

 私の技術と知識がどんどん吸収されていく、リリは毎日が楽しいらしく充実した日々を過ごしている。


 地方の都市でリリの料理は話題になった。


 そんなある日、この地の領主がお店にやってきた、ヘオリス伯爵と名乗る男性はリリの料理を絶賛した。それ自体は嬉しいが、リリに合わせるように要求してきた。

 リリは戸惑っていた、もう貴族と関わるつもりはなかったからだ、しかし断ることも出来ずにヘオリス卿の前にでる。

「君は、もしかしてノーマン卿の?例の婚約破棄された」

 リリがビクッとする。


 嫌な事を思い出したのだろう、顔色が悪く息使いが荒い、これは危険だと判断した。

 私は姿を現しリリを連れてお店を飛び出した。苦しそうにしているリリを見ていられなかった。


 火阿弧を呼び街から逃げるように飛び去った。


 後日、私はリリに謝った。どうしても苦しむリリを見ていられなかったことを話す、リリは優しく私を抱き寄せた。


 静かに泣いている。


「ありがとうございます、ヴェロニカ」

 小さく呟かれた。

 私もリリに言葉を返す、



「貴女には笑っていて欲しい」


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