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精霊女王と呼ばれた私の異世界譚  作者: 屋津摩崎
四章 ウォルベル王国編
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76.魔王スライム戦 その4

 ーーハズリムーー



 遠くに王都からの軍勢が見える。


 おそらく2000人規模、1人で集められる限界数だろう。


「バークライ!」


 声をかけると人懐っこい顔が近づいてきた。

「戦況は?まだスライムと交戦中か?」

 私はスライムが魔王化した事と、ラヴィリス様の作戦を伝える。

「ここまで綱を持ってくる、これでスライム引きずって大穴に落とす。合図をしたら全力で引っ張ってくれ」

 ラヴィリス様とヴェロニカ殿が極大魔法を放てば勝てるだろう。ただし、あまりその姿を見せない方が良いだろう、なので城壁の外から引っ張った方がいいと判断した。


 バークライもそれに納得してくれた。

「ハズリム殿、今回の首謀者が弟というのは本当ですか?」

 バークライの後ろから1人の男が話しかけてきた。

「オルブ殿の長子のカイラスだ」


「・・・そうか、気の毒な事だがその通りだ。父君であるオルブ殿を殺害しようとし、姪のメアリー嬢を人質にとって命の危険に晒した」

 他者である私からすればどうしようもない男だが、家族からしたら情があるだろう。


「そうですか、弟は【憂国の志士】という若い貴族の集まりで何か感化されていた、もっと強く諫めていればこんなことにならなかったのに」


 憂国の志士か・・ラヴィリス様が言っておったな。どうやら若い貴族の集まりの中で誕生したようだ。


「姉上にも連絡しなければ」

 ガックリと肩をおとしている。姉上とはフルート伯爵夫人のことだろう、本当に気の毒な事だ。

「カイラスよ、貴公の父上はまだ戦っておられる!ハズリム殿、どうかカイラスも中に連れて行ってくれ、私が残りこの場を仕切る」

 バークライがカイラスの背中をバンと叩いて気合を入れる、本当に気の良い男だ。


 小声でヴェロニカ殿とも面識がある事を説明され、リリネット殿に惚れていることも蛇足で教えられた。


 それを教えて私にどうしろと?


 とりあえずカイラスを連れて城内に入る。オルブ殿を見つけてそちらへ向かう。

「父上!ご無事ですか!」

 カイラスが声をかけるとオルブ殿は顔をあげる。

「オルブ殿を頼む、私はまだ仕事がある」

 カイラスにそう伝えると前線へ向かう、アイネ嬢とメアリー嬢が善戦している。更にはリリネットさんも加わっている。

「男共はだらしないな、何をやっているんだ」

 カイラスは余程頑張らないとリリネットさんに振り向かれもせんぞ。


 私はラヴィリス様と合流するため大穴に向かって走り出した。





 ーーラヴィリスーー



 よし、これで後は隠蔽魔法をかければ・・・


「ラヴィリス様、外の準備が整いました」

 ハズリムさんが帰ってきた。さすがだ、とても仕事が早い。

「悪いけどもうひと仕事してもらいますよ」

 蜘蛛の脚を全部切ってもらわなければならない。

「女性があれだけやっているのだ、なんでもやりますよ」

 おや、フェミっぽい事を言ってるぞ。

「うふふ、ではお願いします」


 バークライさん達への合図はヴェロニカさんに任せる、

「では行って参る!」

 そう言うとハズリムさんは目にも止まらない速さで駆けて行った。

「交代する、綱引き作戦を始めるぞ!」

 前線で頑張っていたアイネちゃん達にハズリムさんが指示を出す、皆が一斉に離脱した。


 いいぞ、良い連携だ!


「右横一閃・極、(あまね)断ち!!」


 ソハヤを神速で横一閃する、その剣戟は蜘蛛の脚を全て斬り捨てた!

 脚を失いバランスを崩したスライムは身体を大地につく、

「ヴェロニカ様!!」

 大声で合図を送るとヴェロニカさんは照明弾のような魔法を天に放った。


 隠蔽魔法で隠していた隙間なく編んだ蔦の網が、スライム本体と先程ハズリムさんが切った蜘蛛の脚ごと大穴に引き摺っていく。

 途中でスライムが踏ん張り始めた、人とスライムの綱引きが始まる。

 既に蜘蛛の姿をやめて、本来のスライムの姿になって踏ん張っている。


 そんな事は想定内だ!


「キャスト!」


「ジオグラフィックバトン!」


「大魔王バエル!!」


 凄い、キャストがあるとほぼ溜めなしでジオグラフィックバトンが使える!


「バエル、最速でお願いします!」

 私がそうお願いするとバエルは溜めをせずに暗黒波動弾を放ってくれる。


 セーブされているとはいえ十分な威力だ。


 バエルは光と共に消えていく、悪いけどすぐにまた呼ぶよ。


 バエルの攻撃をうけ堪えてきれずにスライムは引き摺られ穴に落ちていく。

「今だ、キャスト!!」


「ジオグラフィックバトン!」


「大魔王!バエル!!」


「今度は私の全部持っていけ!!」


 再びバエルが姿を現す、


「いっけぇぇ!」

 私の魔力全てを注ぎ込んだ!


 大気中の魔素が渦巻いて集まってくる。


『暗黒波動大禍ケイオス・フォビドュン』


 バエルの声が聞こえる、大穴から暗黒波動の重力波が生じ伝説の暗黒極限魔法が現実のものとなる。

 轟音と衝撃が同時に襲い、周囲の人は立つことさえもできず、まさに世界が歪むほどの驚異的な威力だ。


 極限魔法を使うとバエルは光と共に消えていく、私は魔力を使い切り飛ぶこともできなくなり、地面に落ちるがギリギリでマキシムに拾われた。

 それでも視線は天を向いていた!


 まだ終わらないぞ!


「ヴェロニカァ!!」


 天に向かって力の限り大声で叫ぶ、


「カアコ、大炎舞!!」


 カアコが作り出した凄まじい量の巨大な炎の渦が次第に幾何学模様の魔法陣へ変化する、


「終焉炎武!フレアリングドライブ!!」


「大召喚!」


「緋天使!アグネス!!」


 ヴェロニカさんの切り札も私と同じ召喚系のようだ、

 炎の翼を持った紅の天使が断罪の槍を構える。


「アグネス!全てを灰塵と化せ!!」


 大穴に向かって超光量の槍が放たれる!


 火山の噴火のような火柱が天高くそびえる。凄まじい威力だ、これなら塵さえも残らないだろう。

 ヴェロニカさんは力尽きてカアコの背中に乗って降りてきた、私と同じで魔力を使い切ったのだろう。

(・・・スライムの気配はありません、魔石ごと灰と化したようです)


 ふう、あれで生きていたら悪夢だよ。


 ゴゴゴゴ


 あら?何か地響きがする、もしかして倒せなかったのか、カガミン?

(そんなはずはありません、気配は一切ありません)


 ゴゴゴゴ


 なんかヤバいんじゃ?


 大穴から凄まじい水が噴き出してきた!?

「熱っつ!」

 これは、まさか、



「温泉だ!」



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