74.魔王スライム戦 その2
ーーハズリムーー
ラヴィリス様とヴェロニカ殿の連携攻撃に開いた口が塞がらない。いくら魔王化してもこの攻撃には耐えられないはずだ。
「まだ、終わってません!」
ヴェロニカ殿の言葉に耳を疑う、ラヴィリス様の作った壁が破壊される。
蜘蛛の姿に擬態したスライムが平気な顔でやってきた。
「ははは、悪夢だな」
先程の攻撃で倒せないなら我々は打つ手がないではないか!いかに己が無力なのかを知る事となった。
「ハズリムさん!」
「ハズリムさん!!」
おっと、ラヴィリス様に呼ばれていた。呆けている暇はない、主君が諦めていないのに臣下が投げ出す訳にはいかん。
「これを使って下さい!」
手鏡から見たことのない剣の柄が出ている、
「セルリス様から頂いた神剣です!」
・・・女神セルリス様の加護を持つ神剣だと?
「これなら戦えます、早く!」
私に戦うための力を与えてくれるというのか。
意を決して柄を握る、鏡から鞘に収まった長剣が出てくる。
「神剣、騒速です、貴方のための剣です!」
神剣ソハヤ・・・聞いたことない名前だ。鞘から剣を抜くと片刃の美しい刀身に見惚れてしまった。
・・・つい口元が緩んでしまう、
「剣聖ハズリム、いざ参る!」
神剣ソハヤを手に駆け出す、とてもしっくりくる握り具合だ、とても初めて持ったとは思えない。
ザッ!
軽い!それでいて力強い、なんだこの剣は!?
蜘蛛の姿をしたスライムの脚を斬るとこれまでにないくらいの手応えがあった。
苦しんでいる?斬撃が効いているのか?
「マーナ!」
『ハイな!』
マーナが木を操って私の道を作りそれを駆け上がる、
「裂空斬波!」
振り下ろしの斬撃を喰らわせるとダメージが通っている、私はまだ戦える!
地の女神セルリス様・・・本当に信仰せねばならんな。
ーーラヴィリスーー
ハズリムさんの戦う姿を見て思った、あの人はもう人間ではないな。
もうね、動きが変だよ!いくら神剣でも人体を強化することはないから!
おっと余計な事を考えてしまった。
(気をつけて下さい、回復のために捕食をしてくるはずです)
カガミンからの警笛がなる。
スライムを注意深く見ると蜘蛛の腹部が膨らんでいる。
「気をつけて、蜘蛛の子が出てきます!」
気持ち悪い、下腹部から子蜘蛛が放出された。
でも何で蜘蛛なんだろう?
(おそらく、あの魔王核片の生前の姿が蜘蛛の魔王だったのでしょう)
そういう事か、私はスライムをハズリムさんとマーナに任せて子蜘蛛退治を始める。
子蜘蛛の姿をしているが、正体はスライムなので相変わらず私の魔法は効果が薄いが仕方ない。
私の近くにいる子蜘蛛が膨らみ始める、
ヤバい、私が狙われている!?
近くの蜘蛛が破裂すると誘爆するように次々と破裂する、
「ラヴィリス様!」
炎の壁が破裂から私を守る、炎を纏ったメアリーさんが私を助けてくれた。
「ありがとうございます、助かりました」
後方に避難して礼を言う。
メアリーさんは笑って応えてくれたが顔色は悪くて魔力の枯渇症状が出ている。
突然大きな力を手に入れたから、いきなりの制御は難しいか。
「貴女はこっちに来なさい!」
私はメアリーさんを引っ張ってリリネットさんの元へ連れていった。
「こちらで休ませて下さい、魔力が枯渇してます」
するとリリネットさんは再びアイテムバッグから料理を取り出す。
「食べて、私の料理は魔力が回復するわ」
なっ、なんて素敵なスキルなんだ。
作った料理で魔力が回復するなんて!
後ろ髪を引かれながらメアリーさんをここに預け、私は再び前線に戻る。
「やぁ!」
アイネちゃんがダイツーレンを振るう、中々様になっているぞ!アースランスを武器としてよく使っていたので使い勝手は良いようだ。
私も負けていられない、標的にされていない今なら試してみよう、
「キャスト!」
地面に手をつきログを辿る、キャストにログが刻まれていく、
時間をかけれるからじっくりと深く辿っていく。
掴んだ!
「ジオグラフィックバトン!」
・・・これはいいのか?
(これがこの地の古い記憶のようですね)
「大魔王!」
「バエル!!」
私を中心に光が複雑な立体魔法陣を形成する。
凄まじいプレッシャーが周囲を覆い、光の粒子が姿を象っていく。
下半身が大蜘蛛で上半身が人間の姿をしている、魔王核片の本来の正体のなのだろう、悪逆に満ちた異形の怪物が召喚された。
そして静かに私をじっと見ている。・・・分かるよ、私を助けてくれるのね。
「みんな!離れて!!」
大声で指示する、魔王の顕現に驚愕していたが我に返り指示どおり離脱してくれた、
「大魔王バエルよ!私に仇なす者を討て!!」
バエルを中心に凶悪な魔力の渦が集まる。
『ギエアァァ!!』
凄まじい咆哮と共に暗黒の波動弾が放たれる!
スライムは跡形もなく消し去ってしまった、だが蜘蛛の脚が残っており即座に体が復元される!
「本当に厄介だわ」
バエルは光と共に消え去っていった。
私は重い倦怠感に襲われる、今の召喚で魔力をごっそり持ってかれたようだ。
私もフラフラとリリネットさんの元に飛んでいく。
「私にも何か食べさせて下さい」
呆気にとられていたリリネットさんだが我に返りすぐに料理を出してくれた。
一口たべる、美味い!!
でもなんでだろう、いつも通り食べただけでお腹いっぱいになってしまった。
(ラヴィリス様のお腹はとても小さいですからね)
同じ体型のヴェロニカさんはめちゃくちゃ食べれるのに?
(おそらく特異体質なのでしょう)
なんて不公平な世界なんだ!
私は再び地面に突っ伏し、そして悔しさに咽び泣いた。




