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精霊女王と呼ばれた私の異世界譚  作者: 屋津摩崎
四章 ウォルベル王国編
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72.憂国の志士

「よかった、間に合ったんだ」


 領城の見える位置まで着くと巨大な炎の剣が現れ、そのまま大地に振り下ろされた。おそらくヴェロニカさんの魔法だろう、とてつもない威力だ。


 でも何だろう、城の中の様子が変だ。

 胸騒ぎがする。


「アイネちゃんこれを持って」

 私はカガミンから柄の部分だけ出した。

「これを引っ張り出せばいいんですか?」

 アイネちゃんが引っ張ると薙刀が出てきた、セルリス様からもらった神剣だ。

「槍?変わった形状ですね」

 薙刀を見て首を傾げるアイネちゃん、武術の心得のあるカーリンさんもそれに参加する。

「グレイブかハルバードのようですが、見たこともない長物ですね」

 私も詳しくないからそんな事は知らない、薙刀としか認識してないよ、アイネちゃんは体型的にリーチの長い武器を渡そうと思っただけだよ。

「えっとこれはお母様から頂いた神剣[大通連(だいつうれん)]です、護身用に持っておいて下さい」

 神剣と聞いてビックリしている。

「し、神剣ダイツーレンですか。な、何か凄そうです」

 なんかイントネーションが違うけど、いいか。


「リマさん、マキシムは来てますか?」

 リマさんが私の言葉に頷く。

「では状況はどうなってますか?」

「ハズリム様達と合流し、そのまま城内に向かっています、どうやらスライムと交戦した後のようです」


・・・やはりスライムか、嫌な予感がする。


「私達も急ぎましょう」

 戦闘に参加していないから何とも言えないが、もしスライムがヴェロニカさんと戦い不利となると、おそらく逃亡するだろう。もしそれが城の中に逃げ込んだ場合、沢山の人質を取られたのと一緒だ。

 私達は急いで裏口から城内に進入する。中庭の方から声がする、



 そこで繰り広げられていたのは人間同士の不毛な争いであった。


「ヴィラン叔父様?」

 メアリーさんの顔が真っ青になっている。

「メアリー!?なぜ戻ってきた」

 私達に気づいてオルブさんが顔を真っ赤にして怒鳴る。しかし1人の兵士がメアリーさんを拘束する。

「父上!お願いです、我々にブラックコアの在り処を教えて下さい!この国の将来のためなのです!」

 このヴィランという男が今回の首謀者なのか、私は姿を消してメアリーさんを救う隙を狙う。

「貴様何をしているのか分かっているのか!自分の姪を人質に取るなど恥を知れ!」

 オルブさんが血管が切れそうなくらい激怒している。

「姉上も国のための犠牲なら分かってくれるさ、我々は【憂国の志士】だ!腐った無能者より国を守る。そしてアーティファクトという脅威で世界を支配しようとするオルベア神教から、この大陸全ての国を護るために一致団結しなくてはならない、なぜこの崇高な意思を理解しない!」

 ヴィランが反吐が出るような演説を繰り広げる。


「そんなものは詭弁です!」


 突然アイネちゃんが大声で反論する。


「ブラックコアはとても危険なものです!オルブ様達のような先達者が皆を守るために、後世に生まれる私達を守るためにしてきた努力を、なぜ踏みにじるのですか!」

 アイネちゃんの声が響き渡る、

「力を得るために、人の思いを踏みにじるような人が作る世界なんて、全然崇高なんかじゃない!そんな人が未来を語らないで下さい!」


・・・私はこの子と共に歩めて本当に幸せ者だ。


「君が何者かは知らないが、我々を詭弁という甘い理想論は人を動かすだろう。だが綺麗事だけでは何も変わらない」

 馬鹿が悟ったような言い訳をする、心を揺さぶる事がどれだけ凄いことか分かっていない。

「ヴィラン叔父様、もうやめましょう、例え理想論でもアイネ様の言う通りです。お爺様が私達のために、民のためにずっと守り続けてくれていたのです」

 メアリーさんも説得をする、心が動いているのが分かる。


 説得が続く中、私はふと地面を見る。

・・・湿っている?


 ゾクッと背筋が冷たくなる。


「ここから離れて!」

 この際、正体がバレるのも構わずに大声で叫ぶ。私の姿を見てザワザワと騒がしくなるが、私の事を知っている人達はすぐに避難する。


 湿った部分から触手が伸びると液体が人を飲み込む。

「しまった、メアリー!!」

 アイネちゃんの悲痛な声が聞こえる。人質として捕まっていたメアリーさんがスライムの捕食に巻き込まれてしまった。


 アイネちゃんが咄嗟にダイツーレンを振るう、


 シュバッ!


 ダイツーレンに切られた触手が悶えるように苦しみだす。

 神剣だからか?神剣だからダメージを与えられるのか?セルリス様はもしかしてこれを見越して私に神剣をくれたのか?

「ラヴィリス様!凄いですダイツーレン!!」

 頬を赤くしながら喋る、よほど興奮したようだ。


 だけど今はそれどころじゃない、

「行くよ!まずはメアリーさんを助ける!」

 私は神樹魔法でメアリーさんへの道を作ると、アイネちゃんに呼びかける。


 私が呼びかけるとハッとした後、何故か満面の笑みになる。

「はいっ!」

 気持ちの良い返事と共に走りだす。

 私は神樹魔法でアイネちゃんを守りながらメアリーさんの所に向かう、そしてダイツーレンの一撃がスライムを蹴散らす。

「メアリー!しっかりしてメアリー!!」

 スライムを大量に飲んでしまったらしく息をしていない・・・でも心臓はまだ動いている。

「そんな・・・」

 アイネちゃんが呆然としている、でもモタモタしている時間はない、私達の周囲にスライムの触手が集まりだしている。


「炎舞!敵を焼き尽くせ!!」


 炎が私達の周囲にいた触手だけを焼き尽くす。

「これは!?」

「ラヴィリス様!!」

 私はヴェロニカさんに思いっきり抱きつかれる。そして私は抱擁というタックルをくらい大ダメージを受けて気絶しかけた。

「ごめんなさい、私のせいで大怪我をしてしまったと聞いて」


 泣きながら謝罪された、今の貴女のタックルで私は瀕死の大ダメージだよ!


 私は苦笑しながら頭を撫でる、

「怪我をしたのは私が招いたもので私が悪いのです、ヴェロニカ様は何も悪くありませんよ。それに今こうして助けてくれたではありませんか。本当にありがとうございます」

 ヴェロニカさんの腕の力がどんどん強くなっていく、私の背骨が折れそうです、メキメキと音を立ててますよ?そろそろやめて下さい!


「メアリー!メアリー!お願い目を覚まして!」

 あ、いけない忘れていた!

 するとヴェロニカさんがメアリーさんを診ると、何故か包丁と話をしている。


 もしかしてあれはマジックアイテムか?


・・・きっとカガミンと話をしている私はあんな感じなんだろう、見たくないモノを見た気がする、油汗が止まらない。


 ヴェロニカさんの解析の結果、やはりスライムを大量に飲み込んでしまったようだ、体内に入ったスライムを倒さないといけない。

「ラヴィリス様、この方を救うために私の従属にしてもよろしいですか?」


 ヴェロニカさんがいきなり突拍子もない事を言い出した。

「解析の結果、メアリーさんは火属性です。上手くいけば授与したスキルで自身の中のスライムを倒せます」

 だけど、双方の同意がないけど良いのか?

「あとはメアリーさんが生きたいと願うかどうかですが・・・」

 私はアイネちゃんを見る、おそらく私達では上手くいかない可能性が高い。

「可能性があるならお願いします」

 藁にもすがる思いでお願いする。


 ヴェロニカさんは小さく頷く。するとメアリーさんの額を優しく触れた。



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