71.森から出て
それは思考のない本能のみの単細胞生物であった。唯一ある思考は自身の補完、小さな水滴は生き残るために他者を喰らい大きくなっていった。
悪食だったモノはいつしか選り好むようになった、魔獣を食べ血肉を貪り食うようになった。
惜しむべくは自分の体内に取り込める量だ、目の前にあるのに全部食べられない。
外に出よう、近くに「進化の果実」の気配がする。
邪魔な火の鳥でも別の姿ならわからないはずだ。
せっかくこの姿を手入れたのだから。貪り食う生物は人の姿になって森の外へ出て行った。
火の鳥は襲ってこない、森から外に出て養分の気配がする方へ歩き出す。
「おい、アンディ!生きていたのか?」
何者かが近づいくる。
捕食対象だろう、丁度体内の栄養分が消化されつつある、
「お、おい、何だこれは、たっ助けて」
体内に取り込んだ、姿がまた変わったけど問題ない。
何故か知らないが攻撃を受けているため、反射的に攻撃をしてしまった。
何だか騒がしい。まあいい、もうすぐ目的地だ。
ーーハズリムーー
何が起きている!囲っていた兵の後方から攻撃されているのか?
援軍?いや、違う。その光景に戦慄が走った。
最初は仲間割れかと思ったが違う。触手のような物体を振り回しながら人の形をした何かが近づいてきている。
もしかして、あれが擬態するスライムか!?
「門を開けろ!開けてくれ!!」
逃げ惑う兵が領城へ殺到してくる。
「アレが来たらまずいな」
私は城壁から飛び降りスライムに斬りかかる。
ザッ!
斬っても手応えはない、時間を稼いで援軍を待つべきか。
「マーナ来てくれ!」
左腕に語りかけるとマーナが出てきた。
『ハズー!』
呼びかけにすぐに助勢に来てくれるとは、本当にありがたいことだ。
「厄介な相手だ、フォローを頼む!」
『う〜、嫌な感じな奴!』
まったく同感だ。
あまり自信はないが地属性魔法を放ってみる。
やはり全く効果を見込めない、歯牙にもかけないのは少し傷つく。
今度はマーナが魔力を練り始めた。
『リーフカッター!』
植物の葉を投げつけるとスライムに刺さる・・がそのまま吸収されてしまった。
『ふぐううぅ』
悔しそうに地団駄を踏んでいる、でも私よりダメージは通っているはずだ。
奴の触手が膨らみ始めた、ラヴィリス様が身を賭して得た情報通りだ。
「神樹魔法、根よ壁となれ!」
マーナを庇うように木の根が壁となる。
ドバァーン!
水が弾けるような爆発がおこる、しかし丈夫な木の根がマーナを守る。
『ハズー』
マーナが私の元に戻って来る。
『木で隙間なくグルグル巻きにしちゃおう!』
その提案、乗った!
神樹魔法で木の根を操り隙間なくスライムを拘束する。
「くそ、時間の問題か」
僅かな隙間から液体が出て来ている、ここまで厄介なスライムは初めてだ。
ただ少し時間ができた、気になって後ろを向いてみる。
「何をしているのだ!?」
なんと城の門が開いている。敵兵を避難させるために開門したようだ、いくら自分の息子でも敵兵を入れるのは不味いぞ。
『ハズ!気をつけて!』
マーナが警告する。
しまった、視線を敵から外してはいけなかった!拘束の下の地面が濡れており小さな穴が空いている。
神経を集中させる、何処から襲ってくる!
『うっしろ!』
マーナがフォローを入れてくれた、スライムの触手が伸びてくるのを紙一重で避ける。
『毒だー!』
マーナが毒草を作りスライムに投げつける。なんでも食べてしまう悪食の習性を利用したか!
『むがー!!』
マーナが再び地団駄を踏んでいる、悪食なのだから毒も平気だよなぁ。
厄介な相手がマーナと判断したのかスライムはマーナを狙い始めた。
そして1番恐れていたことがおきた。スライムの溶解能力で私の愛剣に限界がきてしまったのだ。
「不味いな」
これでは自分の身も守れない、剣を捨て神樹の木剣に切り替える。
ザシュ!
おや?こちらの方がいいぞ?
そうか、木剣は私の魔力の結晶なのだから魔法威力が付与されているのか。
そして突然、飛び出してきた白い影がスライムの触手を斬り捨てる。
「マキシム!」
マキシムが影魔法の刃でスライムを次々と斬り捨てる。
ここにきて本当に頼もしい援軍だ。私に気づくと嬉しさに擦り寄ってくる。頭を撫でてやると尻尾をブンブン振り回している。
なんと可愛い奴だ!とても凱旋王アトラスが持つ破魔の聖剣と同じ名を持つ者とは思えん。
『マキシム〜』
マーナもマキシムに飛びつき白い毛皮に埋もれる。
そしてマキシムが来たという事は、待ちに待った最強の助っ人が来たことを意味する。
「ファイアブラスター!」
スライム目掛けて炎が襲う!
いかん、これは私まで燃える!マーナとマキシムを掴むとその場から離れる。
「くぅ、やはり私の魔力では大ダメージは与えられないか」
フレイア料理長のリリネットさんが悔しがっている。いやいや貴女の放った魔法はかなりヤバい威力だったよ。
「・・・やはり貴女はヴェロニカ殿の従属であったのだな」
彼女が近くに寄ってきたので尋ねてみる。
「はい、と言っても授与されたスキルは戦闘用ではなく【包宰】という料理のスキルなんですがね」
恥ずかしそうに笑う、なる程ラヴィリス様とアイネ嬢の関係に似ているとは思ったが本当にそっくりだ。
「ヴェロニカの攻撃が来ます、ここから離れて下さい!」
いきなり明るくなった上空を見上げる、炎を纏った鳥が延々と炎を放出している。
「炎武!フレアライザー!!」
炎が一箇所に集約され巨大な炎の剣となる。
肉眼では確認できないが、剣の根本にはヴェロニカ殿がいるのだろう、魔法を叫ぶ声が聞こえる。
スライム目掛けて炎の剣は振り下ろされ、見事に直撃した。
あれ程の威力なら倒したはずだ、スライムのいた所はすでに灰と化していた。
・・・穴?
地面に小さな穴が空いている。
ゾッと寒気がした、すぐに周囲を見渡す。
決して油断した訳ではない、だがスライムがまさかの行動に移していたのだ。
私は力の限り大声で叫ぶ!
「早く門をしめろ!!」




