68.お久しぶりですお母様。
ーーハズリムーー
まさかの展開だ、襲撃してきたのが私と因縁の浅からぬ相手だった。
「・・・もしかして師匠の仇を取るために私を狙ったとか?」
つい聞いちゃったよ!ラヴィリス様に格好つけた手前、元凶が私だったら本当に笑えないことになる。
「おそらく、この城に眠る魔王核片だと思われます。実は2年前ネビルスの骨が王都にある封印殿から盗まれてしまいまして」
おや?この感じは私が狙われたわけではないな。
私は復活した!
「この事案は極秘なのですが、呪術師は魔王核片を媒体に師匠のネビルスの復活を狙っているようです」
なんてこった、そんな陰謀に巻き込まれてしまったのか?
「この城に魔王核片が眠っておるのか?」
・・・ヘオリス卿が黙ってしまった、そして重い口を開く。
「実は魔王核片とはブラックコアの元になるようでして」
・・・確かに極秘事項だな。
本来ならラヴィリス様に聞く案件だ、指示を仰いだほうがいいが今はやれる事をしよう。
まずはここを死守しなくては。
ーーラヴィリスーー
長い山道を進みようやく着いた。
奥に巨大な神殿が見え、神殿を中心に扇状に街が広がっている山社都市ロパゲルススの姿であった。
「ここがロパゲルススですか・・・本来ならゆっくり観光したいところですが」
アイネちゃんが残念そうな顔をしている。
今、ここにはヘオリス領城から多くの人が避難している。私達もその中の1人だ、規模が大きい街でなので受け入れるキャパはありそうだし、山頂にあるので防御力も高そうだ。
神官っぽい人に案内される、私達はそれに従い教会の中に入る。ホテルなどの豪華さはないが寝泊まりできるように準備されていた。
・・・何か大きな気配を感じる、扇状の要の部分にある巨大な神殿、あそこにセルリス様がいる。
窓の外に視線を移す。
「すいません、私達は地の女神セルリス様を信仰してます、できれば一度拝礼をしたいのですが?」
ずっと神殿の方角を眺めていた私を見てアイネちゃんが聞いてくれた。
「えっ?あの、失礼ですが貴族の方ですよね?」
なぜかとても驚かれてしまった。
「はい、隣国の者ですが一応貴族です」
普通にアイネちゃんが答えると、神官さんは大慌てで取り繕う。
「いえ、すいません。それは大変ありがたい事です。セルリス様の崇拝者で貴族の方はあまり見ないもので」
あぁ、そういう事か。確かに貴族は農業をしませんからね、
「御礼拝は朝と昼のみです、これからなら昼からの御礼拝となります、立派な大神殿なのでぜひ景観も楽しんで行って下さい。とは言え今はそんな事言ってはいけませんね」
中々ユーモアのある神官さんのようだ。
昼過ぎ、古い街並みを私達は歩いていた。
雰囲気のある石畳の通りを進む、アイネちゃんは頬を赤らめて物珍しそうに見て回ってる。
本当に観光として来たかった。
微妙に登り坂になっており1番頂点の扇状の要部分に巨大な大神殿がそびえていた。
流石に混乱の中で参拝に来る人は少ないようだ。列に並ぶ事なく神殿の中に入れた、神官も出払っているようで人気も少ない。
広い神殿をさらに奥へ進むと、大礼拝堂がありセルリス様の女神像が立っていた。
「美しいお姿ですね」
メアリーさんが感嘆の声をあげる。
神殿の中には人気はないが、一応は周囲から見えないように私を囲む、私はいつも通り膝をついて礼拝する。
「あっ・・・」
アイネちゃんが小さく声をあげる。突然、私を囲むように淡い光の魔法陣が組まれていく。
誰も何も発せない、その様子を息を飲んで見守っている。
「・・・すいませんが行ってきます。皆さんは先に帰っていて下さい」
そう言い残すと、私は淡い光に包まれ私は何処かに転移した。
『ラヴィちゃん、いらっしゃい』
気がつくと私はセルリス様の豊満な胸の中に抱きしめられていた。
「お久しぶりですセルリス様」
1年ぶりの再会は想像してた以上に温かく嬉しいものであった。
「色々聞きたい事があるのですがよろしいですか?」
私は話を切り出すが中々抱擁から脱出できない、
『いいわよ、私の答えられる範囲内ならね』
どうやらこのまま離すつもりはなく、この態勢のままで話をするしかないようだ。
「まずは精霊女王マナフロア様のついてです」
これは1番聞きたかったことだ
『精霊女王マナフロアは私達4姉妹のお母様よ』
という事は人間界の神話における母神というのは間違っていないわけだ。つまりマナフロア様は私のお婆様になるのね。
『ラヴィちゃんも使う従僕魔法ってあるでしょ、私達4人は母様マナフロアの従属なのよ』
サラッと爆弾発言したよ!?え?従僕魔法なの?あ、四姉妹だからそれで良いのか。
『ちなみに貴女も私の従属なのよ。更には私の遺伝子を使ってあるわ』
私の場合はそれで良い、セルリス様の眷属なのだから。
それにしても同じ遺伝子か。確かに大きさと体型以外は似ている。特に顔はそっくりだ、髪型を同じにしたら見分けつかないかもしれない。
「では精霊女王とは?」
『本来ならマナフロア母様だけよ、私達含めた原初の精霊を生み出した女王なのだから。本来なら貴女や私も精霊というカテゴリーに入るわ』
あれ?じゃあ今も昔も精霊女王はマナフロア様だけ?
『他にもいるらしいけど、それは人間が勝手に従僕魔法を使う者を精霊女王と言っているだけよ』
なる程ね、そういう事か。
「学園の地下にいたゲートキーパーですが、解析でマナフロア様の子供とありましたがなぜですか?」
『ゲートキーパー?・・・あっ、おそらくそれはマナフロア母様の作ったものね。私の弟か妹、ラヴィちゃんからしたら叔父叔母にあたるものね。敵では無いわよ』
・・・敵ではないんだな。危険では無いとは言い切れないけど。
「あと一つ、ブラックコアと呼ばれる人工魔導核はいったい何でしょう?」
『・・・何それ?』
意外な答えが返ってきた。
『錬金術か何かかしら?そんなもの人の手でつくられてるの?』
私の中でオルベア神聖同盟のイメージがどんどん下がっていく。
『あるとしたら生贄石ね、魔石は魂そのものなのだからそれをいっぱい組み合わせて作る外道法ね』
・・・そう言えば、あの時ゲートチェイサーは次々と魔物をゲートの中にいる放り込んでいた。
「最低」
自分の中で感情が冷たくなっていく。




