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精霊女王と呼ばれた私の異世界譚  作者: 屋津摩崎
四章 ウォルベル王国編
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67. 自分が周囲からどう思われているか気づいていない人

 王都へと繋がる北への街道が何者かによって封鎖されてしまった。

 ヘオリス領は大騒ぎになっており、現状を把握するために大騒ぎになっている。


 昨日の武装盗賊団を思い出す、単なる烏合の衆ではないと思ったが何か裏があったのか?

 私はリマさんが切ってくれた果物を食べながら考えていた。


 なぜか次々とトラブルが起こる、一刻も早くスライムの件をヴェロニカさんに伝えたいのに。


「・・私がひとっ飛びで行ってこようかしら」


 ぼそっと言ったつもりだったがリマさんに聞かれてしまった。

「ラヴィリス様、わかっていらっしゃると思いますが行ってはいけませんよ」


 やっぱりダメ?


「ラヴィリス様が私共の事を大切に思っていただけるように、私共もラヴィリス様の事が大切なのですよ。貴女様が傷ついて帰られた時の私共の辛さを少しでもご理解して下さい」


 うぅ、リマさんに説教されてしまった。

 全くを持っておっしゃる通りです、何も言い返せません。


「でも、何かあったらいけないので情報だけでも教えて下さい」


・・・リマさんの視線が痛い。


 するとオルブさんがアイネちゃん達を伴って入ってきた。

「申し訳ないが皆様にはここより南にあるロパゲルススへ避難してもらいたい」

 あら?そこは本来の目的地ですよ。


 私達とメアリーさんを含めたフルート家の従者達は避難のためここから東にある山社都市ロパゲルススに行くことになった。どうやら戦いが起こる空気になっているようだ。


・・・でも何かが引っかかる。


 私は胸騒ぎがしたためハズリムさんに声をかける、

「ハズリムさん、お願いがあるのですが、」

 いつものベッド用のバスケットからハズリムさんを見上げる、けど思いとどまる。

「・・・いえ、やはりいいです」


 ここに残ってみんなを助けてあげて欲しいと言えなかった、私の勝手な思いをハズリムさんに押し付けてはいけない。

 ハズリムさんに何かあればマーナが死ぬし、シェルさんからハズリムさんを奪うことは絶対あってはならない。

 するとハズリムさんは膝をつき、私の視線の高さに合わせた。


「ラヴィリス様の命令ならば、剣聖ハズリムここに残りヘオリス卿に助力いたしましょう」


 命令?私にそんなこと言えない、


「私はラヴィリス様に頂いた新しい命、貴女様のためなら如何なることにも使いましょう」


「何を言って・・・」

 私はハズリムさんの真剣な眼差しに言葉が詰まる。


「さあ、私めに命令を与えてくだされ」


・・・腹をくくれ。


「ハズリムさん、お願いです!みんなを守って下さい。これは命令ではありません、あくまでお願いです」

 ハズリムさんは真剣に私を見つめる。

「命令は絶対に死なないことです!大怪我も許しません」


 心苦しい、せめてもの願いを吐露する。


 するとハズリムさんは最上の騎士の礼をして私に宣言をする、

「承りました。剣聖ハズリム、主君ラヴィリス様の命に従い必ず生きて戻りましょう」

 ハズリムさんは踵を返すと威風堂々と歩いて行った。



 私にはもう一つやる事がある。

「ヴェロニカ様に手紙を書いてもらえませんか」

 アイネちゃんに代筆を頼む、

「マキシム」

 リマさんの影からマキシムが出てくる、

「おそらく街道が使えないとなるとヴェロニカ様に連絡が届かないと思います、これをフレイアというレストランに届けて。上手く料理長のリリネットさんに渡して下さい」

 マキシムに首輪にアイネちゃんに代筆してもらった手紙を持たせる。


 マキシムはヴェロニカさんと直接の面識はないけどレストランの場所は知っている、リリネットさんの顔も知っているはずだ。せめて店の前に置いておいてくれれば伝わるかもしれない。


 マキシムは私達と別れ走り去って行った。


 私は行動制限されており、自分のバスケットから出てはダメらしい。

「リマさん、大変なら自分で飛んで移動しますよ」

 何となくだけど、ずっと運ばれるのは悪い気がするので提案する、でもすぐに却下された。

「ラヴィリス様の体重は私がしっかりと管理しております、現在は大きめのリンゴほどの重さのはずですから心配なく」


 わ、私の体重はリンゴほどだったんだ。


 こうして私はメイドさん達に交代で運ばれて山社都市ロパゲルススに向かった。




 ーーハズリムーー



 相変わらずラヴィリス様は優しい方だ、真っ先に死ぬなと命令された。

「先代クリストア国王以来だ、命を賭して仕えたいと思えた人物は」

 現陛下は優秀な好人物だが身内に甘いところがある、争いを好まないから仕方がないか。

 だがそのせいで内に軋轢が生まれている事に気づいているのだろうか?


 先程駆けていった白い狼はマキシムであろう、ヴェロニカ殿への伝言を託したのだろうな。どこまでも優秀な方だ、いついかなる時でも最善策をとる。


「軍師の教科書を作るなら最高の見本となるな」


 いかん、また余計な事を考えてしまった。


「ヘオリス卿よ、敵の正体は分かったのか?」

 私が戻ってきた事に全員驚いている。

「ハズリム殿、なぜここに?」

「我が主君ラヴィリス様から頼まれた、ここに残ってそなた達を助けて欲しいとな」

 歓声があがる、

「助力感謝いたします」

「いや、礼はラヴィリス様に言って下され」


 あの方は周囲に自分がどう思われているか気づいていないだろう。


 ラヴィリス様が傷ついて生還した時、いかに自分の不甲斐なさに怒りを覚えたか。


 リントワースの使用人達が夜も寝ずに看病した事も。


 アイネ嬢が頑なに側を離れなかった事も。


 多分、本人は全く自覚していないだろう。


 ラヴィリス様には女王のとしての天賦を持っている。多くの人間が彼女のために動きたいと思っているはず、それが近くにいる者達の共通の思いだ。


・・・難しい主君だな。


 城壁から敵を見据え、オルブ殿が情報を私に伝える。

「ハズリム殿、敵は呪術師バルデン・フィロー、厄災の死霊使いネビルスの弟子だった男です」



・・・ありゃ?もしかして・・これって私との因縁だったりする?

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