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精霊女王と呼ばれた私の異世界譚  作者: 屋津摩崎
四章 ウォルベル王国編
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57.無職の剣聖、どこに行く。

 私達は今、久しぶりにリントワース領に戻って来ました。リントワース領から国境が目と鼻の先なので、ここから出立した方が利便性が良いからだ。


 ここは私にとって庭みたいなものだ、敷地内に限っては姿を消さずにやりたい放題できる。

 審書が届くまではメイド長のクレアさんとお茶したり、庭師のニール爺さんと花壇の世話したり私専用に畑まで用意してもらうなど、本当に素晴らしいスローライフを満喫してます。


 しかし、ある日を境に急変してしまった。


「おう!リントワース!私も今日からここの世話になるからな!」

 やって来たのは無職の剣聖ハズリム・グランドルであった。


 このオッサン、自分んちに居場所がないから勝手に出てきたらしい。後で息子のガルファさんから謝罪がきたよ、元公爵で剣聖が家出なんてするな!


『ラヴィー!』

 マーナが私を見つけるなり、真っ先に抱きついてきた。

 うむ、これはこれで良くやった。


 マーナは今、ハズリムさんが親でシェルさんが契約者となっているので2人の間をこうやって行ったり来たり出来るのだ。


 一方、ハズリムさんが来て困るのがホランドさんだ。お互いそれぞれの派閥を抜けたとは言え、王国の元重鎮がここに居ることを知られたら大変なことになるからだ。

 ただし、ハズリムさんが言うには、以前の面会で盟友のベルリアル公爵に裏工作をしてもらい完璧に表舞台から引退したらしい。

 そしてハズリムさんの身代わりとしてガルファさんが入閣し、空席だった政務大臣のポストに就かせたらしい。

 ベルリアル公爵はその際、自身の宰相職の後釜にホランドさんを名指しで指名しており、その件をハズリムさんから初めて聞いたホランドさんは青い顔をして頭を抱えている。

 更にガルファさんが大臣になった事でホランドさんはグランドルに借りを作ってしまい、まさに出来レースの如くレールの上を歩かされる結果となったのだ。


 ただし、その裏ではベルリアル公爵も早く肩の荷を下ろしたいのと、次期国王候補があの第1王子なのでさっさと引退したいという本音が見え隠れしているようだ。

 今回の件で1番利益を得たのは現国王側で、グランドルという大貴族と、リントワースという西の雄を一挙に味方に引き入れる事に成功したのだ。

 もしかしたら黒幕は現国王?かと思ったが人柄的にあり得ないらしいよ。



 ハズリムさんがやって来たことで、騒ついたのは領兵団だ。


 世界で唯一「剣聖」の称号をもつ男が突然やってきたのだ、挑まないのは男じゃないということで真っ先に領兵団隊長のフレディさんが喧嘩を売りました。


「リントワースの剣か、中々骨がかかる相手だな」


 余裕の表情を見せるハズリムさん、フレディさん頑張って!!

 かなり善戦している、純粋な剣の勝負なら負けていないぞ。


「素晴らしいな、これ程の実力とは!」

 嬉しそうに剣を振るうハズリムさん、どんどん剣戟のスピードが上がっていく。

「くそっ!」

 押され始めたフレディさん、かなり苦しそうだ、結局かなり粘ってはいたが完敗であった。


 次にやって来たのはダンディ執事のラルズさんです。

「久しぶりに剣を交えるな、瞬火のラルズよ」

 ハズリムさんがどんどん活き活きしてきた。

 見るからに高レベルの攻防が始まった、ラルズさんの神速の剣技が冴え渡る。


「どういう事でしょう、ハズリム様、以前より速くなってませんか?」

 最初こそ優勢だったが次第に追い詰められていくラルズさんが率直な感想をこぼす。

「なーに、この年になってようやく気付く極地もあるものだ」

 そりゃ恐竜相手に戦えば誰でもレベルアップするよ。


「くっ、参りました」

 ラルズさんが降参して勝負はついた。


 だが、後ろには次は自分だと待ち構えている男達がいる。

「ハズリム様、ご存知ないかもしれませんがリントワース兵はしつこいですよ」

 ラルズさんが不敵な笑みを浮かべる。それを見てハズリムさんは何故か嬉しそうに笑っている。


「ははは、こりゃあ良い!ウチの平和ボケした領兵共に見習わせんといかんな!」



 私?私はその汗臭い光景を見ながら、優雅にルーネイアさん達とお茶を飲んでますよ。

 メイドの1人、エキゾティック美人のカーリンさんが祖国のお茶を持ってきてくれたのですが、なんとそれがコーヒーだったんです。久しぶりにコーヒーの良い香りを味わえるなんて、いつかカーリンさんの故郷にも行ってみたい。


「そんな、黒い水を飲むなんて・・・」

 リマさんが酷いことを言う。

「私には・・・無理です!!」

 アイネちゃんはお子ちゃまだから大人の味はまだ早いかもしれない、


(ラヴィリス様はもうすぐ1歳ですよ)


・・・それは置いといて。もう一年経つのか、早いものだな。


 優雅なお茶会の眼前には、男共の汗臭く血生臭い阿鼻叫喚の地獄絵図が繰り広げられていた。


「男って馬鹿ね」


 知ったようなふりをしておいた。


 結局、男達は剣を交えて理解し合ったのか、ハズリムさんはすぐに領兵団の皆に受け入れられてしまったよ。

 私のスローな日々は一部の騒がしい連中に邪魔されたが、比較的に平穏にすごせた。


 そして、ようやく審書が届きウォルベル王国に行く用意が整った。




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