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精霊女王と呼ばれた私の異世界譚  作者: 屋津摩崎
四章 ウォルベル王国編
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55.マーナの苗木

数刻前 



ーーハズリムーー


「なぜミハイル侯爵を強く追及しなかった?」

 目の前の若王子と横にいる新進気鋭のどこかの貴族が偉そうに文句を垂れてくる、激昂する訳でもなく粘着するような物言いだ。


「我々の嫌疑者は薬師だ、リントワース卿のように錬金術が関与しているという証拠が薄い、それを突いて攻撃などしたら笑い者にされますぞ?」

 倅のガルファは大変そうだな、相手がもう少し話の通じる相手ならよかったのに。


「証拠などいくらでもでっち上げできるだろう?」

 殴りたくなる顔しおって!


「・・・剣聖と謳われる我がグランドル家にそれをやれと?」

 おい、ガルファの奴ブチ切れそうなんだけど?一応殿下の前なのに威圧を放ってるよ?相手びびって真っ青になってるぞ?

 シェルさんよ、なんとかしてやってよ。

「申し訳ありません殿下、我々は国王陛下より教育係を賜り今まで尽くしてきました」


 あれ?シェルさんの目が・・・かなりキレてない?


「私達は誇りを持って尽くしてきましたが、その誇りをその手で汚せということですか?それは父上である陛下の顔を汚すのと同じですよ」


・・・シェルさんもブチ切れてました。


「こっ、これだから古い考えの人間はダメなんだ、これからは神聖同盟への加入も視野にいれなきゃないけないんだぞ、民を守るのも貴族の吟持だからな」

 狼狽て変なことまで口走っている。


「いけませんぞ!古より続く三ヶ国同盟を反故しようものなら大陸で大戦争がおこります!なりません!」

 そりゃ、怒るよね、ガルファがとてつもない剣幕で大声を出す。


「たっ、例えばの話だ、100年祭には神聖同盟の使者の中に新たな聖女様が同行されるという噂もある、これはチャンスでもあるんだぞ!」

 これはいかんな、本格的に対策を考えないといけないな。


「グランドル様の古き考えも理解はできますが、世界への調和の願いも大切です、ご理解いただけないというならお暇という選択肢となりますが?」

 新進気鋭の誰かさんが何かを言っている。


 ガルファがこちらに目配せしている、私は静かに目を閉じた、

「仕方ありますまい、袂を分けたほうが見えてくるものもあるでしょう、今日をもってグランドルは中立の立場を取りましょう」

「感謝いたします、くれぐれも中立を保つようにお願いしますよ」

 若僧が何を生き急ぐ、どっしり構えんと足元を見られるぞ。


「塩よ!塩撒いておきなさい!」

 シェルの怒りは未だに治らないようだ。


「ごめんください」

 おや、嫌な来客が去ったと思ったら、今度は天使が来てくれたようだ。

 ふふふ、彼女を見ると世の中捨てたもんじゃないと思えるな。



ーーラヴィリスーー


「なんか大変だったみたいですね」

 疲れ切った顔のシェルさんがそれを物語っている。

『ラヴィー!』

 ハズリムさんからマーナが出てきて抱きつかれた。


 うんうん可愛い奴だ。


「それで今日来たのはこれを渡しに来ました」

 シェルさんに渡すと目の色が変わる。

「これはマーナとのエンゲージリングよ、一時的にマーナをハズリムさんの支配下に入れようと思います」

 今は本体の神樹を失いコアの破損がはげしい、そのためハズリムさんに身体を間借りしている状態である。

 ハズリムさんが死ねばマーナも死んでしまうし、ハズリムさんから離れられない状態でもある。このエンゲージリングがあればどこにいてもハズリムさんから魔力を供給してもらうことができるのだ!


「あとこれを」

 私は一本の苗木を渡した。

「これは神樹の?」

 そう私が神樹魔法でコアを分離した時に培養しておいた神樹の苗木です。

「できれは学校か、この屋敷に植えたいですね、成長すればマーナの受け皿になります。ハズリムさんが死んでもこの木に帰れば良いだけです、なんと言ってもマーナの寿命の方がかなり長いですからね」

 それを話すとこの屋敷の中庭に植えようと言う事で決定した。


 一方、話そっちのけでシェルさんはうっとりした表情で指輪を見ている、喜んでもらってなによりだ。

「指輪を持っている人がマーナの契約者になります、マーナは従魔としてシェルさんとハズリムさんの間を行ったり来たりできるようになります」


『便利だねー』


「ちなみにエンゲージリングはオークバトラーの魔石を加工しました、それにマーナの魔力をいれて圧縮したら緑色の綺麗な宝石になりました!」

 宝石詳しくないけどエメラルドっぽい。


「素敵だわ!ラヴィリス様大好き!!」 

 この人の大好き程信用ならんものはない。


「エンゲージリングのメリットであるユニークスキルの代用も可能です。マーナのユニークスキルの樹木魔法が使えるようになります」

 マーナの樹木魔法は神樹魔法の劣化版で、樹木に干渉は出来ないけど、魔力を流すことで操る事ができるのだ。


 植樹を終え、一通り説明し終えた時であった。


「旦那様、大旦那様、来客でございます」

 執事さんが大慌てでやってきた、

「誰だ!?突然来るなど失礼であろう!」

 ガルファさん・・・ごめんなさい、私達もアポなしですよ、

「それが、その、ベルリアル公爵様でして、どうしてもと」

 おや、ミリアリアさんのお爺様は大忙しですね。

「ゴメスか、私が行こう。さきほどの顛末が知りたいのであろう」

 ハズリムさんから率先して前に出た。

「あいつとは長い付き合いだ、なまじ人が善くて仕事ができるから苦労ばかりかけるな」

 同情的な表情だ、そのゴメスさんの人柄が伝わってくる。


「とても人格者で尊敬できる方ですよ」

 アイネちゃんも賛同してくる。

 そう言うと、ハズリムさんとガルファさんは屋敷に戻っていった。


「さてと、私は少しシェルさんに聞きたいことがあるんですが」

 改まって話を切り出す。

「あら、何かしら?」

「地の女神セルリス様を単体で祀っている神殿はどこかにありますか?」

 どうしてもセルリス様に聞きたいことがあるからね。「聖域の深林」には絶対戻りたくないから身近にないかと思って聞いてみた、

「う〜ん、この国には女神様単体で祀る神殿はないと思うわ、4神まとめてが多いわね。あるとしたらお隣かしら」


 お隣?


「ウォルベル王国ですか?確かに女神信仰が盛んですから可能性はありますね」

 アイネちゃんが賛同する。


 私はついに外国へ!


「とりあえず調べてあげるわ。学園が封鎖されて入れないからヒマだし」

 ありがたい。今度、苗木用の栄養剤を持ってくるついでに、シェルさんにラヴィ印の軟膏薬をあげよう。


 こうして時間も時間なのでお暇することになった。

「えっ?歩いてきたの?」

 シェルさんが聞いてきた、


「ハイ!その方が早いです!」



 やはりアイネちゃんだった。





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