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精霊女王と呼ばれた私の異世界譚  作者: 屋津摩崎
十章 クリストア王国建国100年祭編
496/499

496.コノハ様、怒る。

「ベルベレッサさん、それでも自分を責めるのは止めてくださいよ。何かあったら私でもアリエッタでも誰でも頼って下さい、私達は貴女のためなら何でもやりますから」

 ベルベレッサさんが自分を責めるのは良くない、結局のところ本質的に悪いのはアリアス王子本人と周囲の悪い友達、厳しく叱る事の出来なかった国王と王妃の両親なんだから。

「貴女は貴女が守るべき人を守って下さい。ついでに余裕があったら周囲の人達を助けてあげて下さい」

「ふふふ、私からしたらラヴィリス様達も守りたい存在なのだがな」

 素敵な笑顔を返されてしまった。


「ついでに少しだけ・・・飛空船の港が襲撃されるかもしれません、ベタスルール王もそれが分かっていてユミルさんを連れ出そうとしているようです。気をつけて下さい」

「あの男はグルか?あの場で叩き切ってやれば良かったな。それでユミルの護衛は大丈夫なのか?やたらと執着しているようだったが?」

 するとユミルさんはお椀の中に入っているコノハを抱きしめて満面の笑みを見せる。

「妾が離れずに引っ付いておくのじゃ、あのような下品な男をユミル殿に近づけさせないのじゃ!」

 コノハが胸を張る。

「ふふふ、そうか、それなら安心だ。もし再び接触して来たらコテンパンにやってくれ」

「任せるのじゃ!」

 まあ、ユミルさんはコノハに任せておけば大丈夫だと思う、心配していたベルベレッサさんもようやく笑みを見せる。


「ところでハズリムさんは今日は何をしているんでしょう?」

 私にとって最大戦力が行方不明なのは困る。

「今日のアイツは西区に行くと聞いている、冒険者達と合流して何かをすると言っていた」

 あ、そうか。上水施設にある呪詛腫の浄化もしなくてはならなかった。アイネちゃんがリプリス姫と行動をしているからハズリムさんがやるしかないんだ。と言うかダイツーレンは私が持っているし。


 取り敢えずベルベレッサさんとの話し合いは終わり、急いでアイネちゃん達と合流する事にする。


 王城を出て馬車に乗り込もうとするとコノハに止められる。

((何やら複数の反応がある))

 小さく呟く、私も何か不自然な反応を感じる。

((少しだけ見に行って来ます))

 不安そうなユミルさんをコノハに任せて確認しに行く。少し離れた場所に武器を隠し持っている謎の集団が隠れている、どうやら城の中から出てくる馬車を注視しているようだ。

 もしかしてさっきのベタスルール王の手下だろうか?恥をかかされたから仕返しに来たのか?それとも本格的にユミルさんを拐おうとしているのか?

 何にしても物騒なので排除しておこう。


((影魔法、シャドウ・テンタクルス))

 彼らの影からウネウネと触手が出てきて武装集団を拘束する。

「な、なんだこれは!?」

「体が影の中に沈む」

 突然の事態に彼等はパニックになる、そして抵抗むなしく首だけの地面に出た状態になる。


((しばらく寝てろ、花魔法、幻惑花))

 雑草を取り出してパンッと小さく手を叩く。雑草は強力な眠り粉になり強制的に眠りにつかせる。

「さてと、お顔を御拝見!」

 顔を隠している布を外すと見た事のない人達だ。日焼けした浅黒い肌からベタスルール王国の人っぽいけど、どうなんだろう?

「ラヴィリス様」

 ここでユミルさんが心配してやって来た。

「武器を持っておるのか?」

 コノハが姿を現して武装集団を調べる。

「ユミルさん、心当たりは?」

「ありすぎてどこの誰か分かりません」

 大きくため息を吐く、本当にユミルさんが気の毒すぎる。それにしても、この人達がベタスルール王国の人間ならあからさまな強硬手段だ、間違いなく拉致じゃないか。


 彼らは焦っているのか?

 時間が無いという事なのか?

 他国の重鎮である公爵家の女性当主を拐おうなんて暴挙を国王自ら率先して命令している。普通に考えればあり得ない事だ、いくらユミルさんを王妃に迎えたいとはいえ、そんな国家間のリスクを犯してまでやる様な事だろうか?

 いや、あの王は国家間のリスクとか考えずに思いのままに行動しそうな気がする。


 やはり何が起こるか分かっているか?それによってクリストア王国が崩壊する程の事態が起こるというのか?それで執着するユミルさんが死なれたら困るから焦って行動を起こしている気がする。

 もし王都の港を破壊するとして、ベタスルール王国はミスト公爵領の港に飛空船を停泊させているから逃げる手段は確保されている。

 大きな騒動が起こる前に連れ去って、後は有耶無耶にしてしまおうという事なのか?追求されても知らぬ存ぜぬを貫けば良いだけだし。


「ラヴィリスや、このレシピの薬を作れるかの?」

 コノハがユミルさんに何かを書いてもらい私に渡す。どうやら何かの薬のようだが、カガミンこれは?


(脳神経薬です)

 脳神経薬?

(いわゆる自白剤です)

 カガミンの解説を確認する。脳神経の機能を麻痺させて思考能力を低下させて自白させる。

 使用後に後遺症が残るケースが多く、致死する可能性もある。


 私は顔を上げてコノハを見る、表情を変えずに私を見据えている。覚悟を決めている顔だ、非倫理的な手段なのは分かっていて私に頼んでいる。

「私にはセーメリアがあります、今すぐに作ります」

 カガミンからセーメリアと雑草と滋養薬などを取り出し、マジックアイテム「花薬瓶」の中に入れてシャカシャカと振り始める。ある程度振って出来上がったら小さな小瓶に入れてコノハに渡す。

「少し改造しておきました、注射でなくても飲ませても効果はあると思います。私は・・・出来る事ならコノハ様の手を穢さないで欲しいです」

「ラヴィリスは優しいの」

 笑顔で私を撫でる。私から自白剤の入った小瓶を受け取ると大事そうにお椀のカヤさんの中に入れた。そして地面に手をついて簡易ゴーレムを作り出して武装集団を全員抱えて上げる。

「ユミル殿、此奴らを屋敷に連れていこう。洗いざらい口を割らせるのじゃ」

 コノハの言葉にユミルさんも覚悟を決めたようだ。

「はい!いい加減、私も頭に来ました。今、使いの者を呼んで来ます。あ、でも先にラヴィリス様をフレイアまで送らないと」

「私は大丈夫ですよ、フレイアなら何度か行ったことあります。一人でいけるので御心配なく」


 私に対してみんなが過保護すぎる気がする。


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