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精霊女王と呼ばれた私の異世界譚  作者: 屋津摩崎
十章 クリストア王国建国100年祭編
489/499

489.決壊しつつある防波堤

 何度目かのメルブラント邸への来訪だ、まだ時間帯的に早いので混雑に巻き込まれる事なくスムーズに来ることが出来た。


「おはようございます、アイネ・リントワースです。メルブラント様とお会いしたいのですが?」

 もう顔見知りになった守衛さんに挨拶をする。すぐに中に連絡をとってもらい通してもらう。

「よくいらっしゃいました」

 メルブラント家当主のユミルさんが迎えてくれる、この屋敷なら良いか。隠蔽を解いて姿を現すと目にも止まらぬスピードで私はユミルさんに確保される。

「おはようございますユミルさん、コノハ様はいらっしゃいますか?」

「はい、すぐに来られると思います。あ、いらっしゃいました」

 するとお椀を手に持ったドリル巻きの気の強そうな女の子がやって来る。明らかに貴族令嬢なのだが、お椀を両手で大事そうに持って歩いて来るのがシュール過ぎて笑いそうになってしまった。

「ラヴィリスや、来てくれたのか」

 お椀の中からひょっこりとコノハが顔をだす、この愛らしい姿は誰も敵わない。

「貴女がマチルダさんですね?お会い出来るのを楽しみにしてました。コノハ様の妹のラヴィリスです」

 お椀の運び役の女の子に声をかける、すると驚いた表情で私と目が合う。

「は、はじめまして、マチルダ・メルブラントと申します!」

 気の強そうな顔の割に謙虚なようだ、私に対して何度も頭を下げる。心苦しいので何とかそれを止めてもらう。

「マチルダ様、お久しぶりです」

「う、うん、お久しぶりです」

 アイネちゃんとの間では微妙な空気感だ、アイネちゃんはマチルダさんの事をあまり良く言ってなかったから気まずいようだ。


「えっと、コノハ様にまずはこれを。エクレール用のエンゲージリングを作っておきました、必要なら誰かに持たせてあげて下さい」

「おお!それはかたじけない!!」

 コノハの従属者のエクレールは魔狼なので従魔契約すれば追加効果でエクレールのスキルが一つ使えるようになる、それだけで一気に戦力アップだ。

「エンゲージリング?結婚!?」

 コノハにエンゲージリングを渡されてマチルダさんの頬が赤くなる、明らかに勘違いしているみたいだ。

「ふふふ、違うのじゃ、エンゲージリングとは契約の指輪の事じゃ、これによってマチルダ殿とエクレールが従魔契約を結ぶ事になるのじゃ」

 マチルダさんはエクレールの目が合うと、ガバッと抱きつくと嬉しそうにモフモフし始める。

「おいおいエンゲージリングの使い方は説明するとして、其方達の時間が無さそうじゃな、なので簡単に話を終わらせるかの。結論から言うと呪術師はスラムの人間の全てを生贄にしよった」


「「はぁ!!??」」


 朝っぱらから聞きたくない情報だ、ついアイネちゃんと一緒になって大声をあげてしまった。

 もう少し詳しく聞くと、餌付けをするような形で自然界の弱肉強食を作りだしたらしい。要するに強い個体だけ残し弱い者を淘汰したという事だ。昨日の段階でその最終段階が終わり、おそらく1000人規模の軍勢が揃った可能性があるらしい。

 これに関しては完璧に後手に回ってしまった、後悔しても遅いが相手を甘く見過ぎていた。

「強い個体が1000人規模・・・」

 強い個体がどれくらいの強さなのかは分からないけど、厄介な展開になってしまった。

「ホランドさんやオーレンさん達が昨日帰って来なかった訳ですね、具体的な対策は聞いてますか?」

 コノハが首を横に振る、規模が大きすぎて対策を練るのに苦慮しそうだ。

「潜網結界に降魔を付与することは可能ですよね?」

「うむ、それは対策として考えておる。根本的な解決には至らぬが一時的な避難場所としてオーレン殿が冒険者ギルドと王都の治安部に指示を出すと言っておった」

 さすがはオーレンさんだ、とても仕事が早い。


 さて、ここで悲嘆してても仕方がない。冷静になって今の状況を考えよう。

 私の知る限りの敵の戦力はディルメスとピースメーカー、呪術師と死霊使い、呪詛の悪鬼の部隊およそ1000人と強化悪鬼のマリナ・ミハエル、聖母マーサのディヴァインガーター3体、あとはこの国の第2王子のアリアスとその仲間達・・・王子と仲間達?

「ユミルさん!アリアス王子の一派って誰がいるか把握してますか?」

 つい大声を出してしまったのでユミルさんは驚く。

「アリアス殿下の一派ですか?えっと・・・最大の後ろ盾はミハイル侯爵家、ミスト公爵家です、まさか・・・」

「はい、おそらくそれ以外の貴族も噛んでます、オーレンさんにすぐに伝えて下さい・・・考えたくありませんが、呪術師にスラムの人間を売ったのはこの国の人間の可能性が高いです。対策もおそらく筒抜けでしょう」

 身内にも敵がいるかもしれない。普通に考えてアリアス王子が憂国の志士と繋がりがあるのなら、呪術師の暴挙を容認したという事だ。さらには実行するにあたって何らかの協力が必要なはず、これは非常に不味いぞ。せっかく作った防波堤も相手に知られる可能性が高い。

「すぐに父に連絡します!」

 ユミルさんが走って部屋から出て行く。ある意味アリアス王子を野放しにしていたツケが回ってきた感じだ、身内に甘いのはダメだと言ったシェルさんの言葉を痛感する。


 まだ他にも見落としている事がある気がする。


「失礼します、御当主様は?」

 ここでメルブラント家の執事さんがやって来る。

「どうしたの?お母様は今忙しいの」

 ユミルさんがいないのでマチルダさんが対応する、

「はい、例のベタスルール王国の使いの者がまた来てまして・・・」

「また来たの!?今はそれどころではないの!」


 ベタスルール王国の使い?


 ベタスルール王国・・・か。


「マチルダさん!ベタスルール王国の使いの人は何の用事で来ているのですか?」

「え?どうやらベタスルール王がお母様に気があるみたいで、何番目かの妻に迎えたいと言ってきて、連日面会をしたいと言ってきてます」

 連日?キモい・・・じゃなくて確かベタスルール王国ってサンクリス皇国とズブズブの関係なんだよね?

「マチルダさん、ベタスルール王との会話って覚えてますか?」

「い、いえ、内容が気持ち悪くて、ほとんど聞き流してました」

 うん、その気持ちは分かる。


「ラヴィリス様、父との連絡がつきません。これから私は王城へ参ります・・・って何かあったのですか?」

 都合よくユミルさんが戻ってきた。私達の視線が一斉に集まり、ユミルさんが戸惑いを隠せない様子だ。

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