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精霊女王と呼ばれた私の異世界譚  作者: 屋津摩崎
十章 クリストア王国建国100年祭編
487/499

487.舞台の裏側

「はあ、はあ、はあ」

 若い男は倒れ込むように床に突っ伏す。

『実験は上々だ、今のお前は剣聖や金剣より一時的に強くなる事が出来る』

 男の前に若い少年のような姿をした何かが立っている。

『けなげだな、飼い主のために自らの命を捧げるか?忠犬というものを初めて見たが馬鹿としか言いようがないな』

 若い男にはその少年を睨み返す事しか出来なかった、それだけ疲弊しているようだ。

『くくく、デイルズハーケンの真なる力を発揮できるまで時間はかかったが成功したではないか、そこは認めてやろう、デミス・ジャックリーフよ』

 男の首の部分には紫色の宝珠が妖しい光を放っている。デミス・ジャックリーフと呼ばれた若い男はそれを隠すように首に布を巻く。


「ネビルスさん、デミス君を探しにここの職員が来ているからそろそろ行こう」

 眼帯をした柔和な男が2人のもとを訪れる。

「彼には大切な役目があるんだから、大事にしてあげなきゃ」

 眼帯の男はデミスに肩を貸して部屋から出る。

『ふふふ、ディルメスよ、本当に此奴に教皇の首がとれると思っているのか?』

「まあ、志願したのはデミス君だからね。やれる自信があるんでしょ?」

 足早に部屋を出ると通用口から施設の外に出る。

「今頃大騒ぎだろうね、何たって新王者が突如として行方不明になってるんだから」

『馬鹿騒ぎが好きな連中だな、呆れ果てるわ』

 何もない空間から突如として機兵が現れる、そして3人を載せて音もなく飛び立っていく。

「ふふふ、僕は大儲けさせてもらったから大感謝さ。ほら見てよ、一晩で大富豪さ」

 ディルメスが袋一杯の紙幣と金貨を見せつける。

『八百長か?100パーセント此奴が勝つのを知っていただろ?』

「いやいや、心外だよ。これは全てデミス君への信頼と期待の現れだよ」

 ディルメスの軽薄な態度は相変わらずだ、ネビルスは共闘関係となってから間に受けるだけ損だと分かってきた。


 軽口を叩きつつ拠点となっている王都の東区の使われていない迎賓館の一つに到着する。

「やあ、おかえり」

 前髪だけが異様に長く、両手を包帯でグルグル巻きにした異様な男がディルメス達を迎え入れる。

『ほう、バルデンよ、大したもんだな』

 ネビルスがバルデンと呼ばれた男の後ろを見る、そのおぞましい光景を見て笑みが溢れる。

「スラムの人間全部使ってやったよ、さすが王子サマサマだよ、気前がよくて何処かの皇子様とは大違いだ」

「酷いなぁ」

 ディルメスはバルデンの嫌味に苦笑いするしかなかった。それ程この闇の中に紛れて相当な数の戦力が集まっているのが分かる。


「どうあってもここでケリをつけるという覚悟が違うんだよ、あんな爽やかな顔してエグい事をする」

 バルデンが上機嫌に笑う。

「ふふふ、真面目で責任感が強い、次期国王にピッタリじゃないか」

 ディルメスも盟友の決意に賛辞をおくる。


『ところで弟は何か言っておったか?』

「うん、オルファスから連絡があった。飛空船を破壊する準備は整っている、彼らはこの国から出る翼を失うはずさ。予定では地上戦でケリがつくかな?デミス君には是非とも頑張ってもらわないとね」

 ディルメスがデミスを座らせて肩をポンポンと叩く。

『死んでも儂が上手く使ってやる。それよりもオルテシア神教会の動きはどうだ?』

「ふふふ、襲撃の段取りは出来ているみたいだよ」

 ディルメスの返答にネビルスの顔に邪悪な笑みが溢れる。

『悪いが聖女の魔導核は儂がいただく。奴らを切り捨てる事になるが良いかな?』

「構わないよ、僕もトリスアイナが欲しいから貰ってくよ。レディング君という人材は惜しいけど、目的達成のためにあれだけ協力したんだ、義務は果たしたから良いでしょ」

 さも当然のようにディルメスも笑っている。あくまで協力関係でありながら個々の目的の為に動いている。

「いいじゃん、アイツらの目的は聖女が死ぬ事だろ?僕達が代わりに目的達成するんだから文句ないだろ」

 バルデンは他人事のようで、さほど興味を持っていないようだ。


 ドーン!ドーン!


 遠くで花火があがる音がする。

「ふふふ、王者が行方不明なまま幕を閉じたみたいだけね」

 ディルメスが夜空にあがる花火を眺めて爽やかに笑う。





 クリストア王国・王城



 王城の宰相執務室には部屋の主の宰相ゴメス・ベルリアルとガルファ・グランドル、ホランド・リントワースが極秘で集まっていた。さらにもう1人の男がその中に入ってきた。

「オーレン、どうだった?」

 調査にあたっていたオーレン・メルブラントが夜になって戻ってきたのだ。

「ヤベェな、アイツらドンバチやる気満々だ」

 スラム街の全ての人間が敵に回った事を説明し、何があったかを簡潔に説明する。


「それに関してラヴィリス様からの伝言です。上水に関しては、ハズリム様と私の娘アイネに神剣を渡してあるからそれで浄化すれば呪詛は取り除けるので上手く使うようにとの事です」

 ホランドがここに来る前にラヴィリスに言われた事を話し出す。

「それからコノハ様に潜網結界に降魔の力を付与してもらうので、混乱が起こったら住民を結界内に避難させるように」

「は!?結界に付与?降魔!?」

 結界魔法に精通しているゴメスが変な声をあげてしまった。

「目の前の非常識にいちいち反応するな、俺はもう慣れた」

 オーレンが達観した表情をしている。そしてホランドに話を続けるように促す。


「それで魔法学園の地下から王城の外へ脱出できる通路があるので順次避難できるようにした方が良いとの事です」

 ラヴィリスから預かった地下通路の経路図を広げてみんなに見えるようにする。

「ラヴィリス様が味方で本当に良かったですね」

 ガルファが地図を見ながらしみじみと想いを吐露する。その言葉に全員が頷いている。


「陛下はまだ帰ってこのいのか?」

「ああ、さっき連絡があった。コロッセオで何か問題が起こったらしい」

 オーレンの質問にゴメスが答える。

「問題?何かあったのですか?」

 家族全員が観に行っているガルファが反応する。

「いや、大した事じゃない、新王者はちゃんと決まったらしいが、突如として行方不明になったらしい。探しているらしく足止めをくらっているらしい」


 ドーン!ドーン!


 遠くに花火があがる音が聞こえる。

「お?終わったみたいだな」

 コロッセオの閉幕の合図の音がする、4人は顔を見合わせてホッとした顔を見せる。

「今から話し合いをするとなると朝までかかりますな、いったい何度目の徹夜になるのやら」

 時計を見てホランドは大きく息を吐いた。



読んでいただきありがとうございました。

次話の投稿ですが、12月になったら再開したいと思ってます。その間に少しでも書き溜めておきたいと思ってます。

少し休む事になりますが同時に投稿している「母は生まれ変わりて騎士となる」は書き溜めてある分は投稿しますので良かったらそちらも読んでみて下さい。


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