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精霊女王と呼ばれた私の異世界譚  作者: 屋津摩崎
十章 クリストア王国建国100年祭編
477/499

477.最近、過去を思い出す その2

 ーーヴェロニカーー



「この国の偉い方がいらっしゃったわ!すぐに準備して!!」

 カトレーナさんが気合の入った様子で厨房に声をかけている。そしてその勢いのまま私達のいる個室の厨房にも入って来る。


「大丈夫でしたかカトレーナさん、何やら乱暴されそうになってましたが?」

「ええ、何とか無事ですわ。ご心配をおかけいたしました」

 心配して声をかけるとカトレーナさんは笑いながら返事をしてくれた。

「先程のカッコいい女性は誰なのですか?」

 興味津々にリリとメアリーちゃんが聞いてくる。

「ええっと・・・オルベア神聖同盟の枢機卿の一人で、銀剣のマナエル・アルテアナ卿という人」

 銀剣?何か強そうな異名だけど、大物なんだろうか?私とリリは全然分からないので首を傾げるだけだ。

「オルベアの?どうしてオルベアの人が助けてくれるのでしょう?」

 メアリーちゃんは何か知っているようで、不思議そうな顔をしている。

「私も驚いたわ。女神信仰を蔑視しているはずなのに、オルベア聖教を持ち出してウォルベル王国を馬鹿にしたアイツらを断じてくれたわ。いやー、オルベアの人間だからって構えちゃダメね」

 女神信仰を蔑視?そう言えばメアリーちゃんから女神様が馬鹿にされたと怒っていたのを思い出す。

「彼女は聖女様護衛の責任者なの、だからお忍びで周辺調査に来ていたみたい。さっきは勝手に出しゃばった事を謝罪されてしまったわ」

 カトレーナさんの言葉にメアリーちゃんは信じられないといった様子だ。

「いやいや、実は私もかなりの偏見を持っていた。アルテアナ卿みたいな素晴らしい方もいるのは知らなかったわ、本当に自分の目で確かめないとダメね、人の噂を間に受けてはいけないわ」

「本当ですね。私の出会ったオルベアの人達とは大違いです」

 メアリーちゃんも同意する。何も知らない私やリリはずっと置いてけぼりだ。


「それでここに来た理由は他にもあるんですよね?」

 カトレーナさんは思い出したように顔を上げて私を見る。

「ヴェロニカ様、昨晩出した料理を出すことは出来ますか?実はミスト公爵様が腰を悪くして出歩けない奥様にお土産を持って行きたいとの話なんです。それが本当かどうか分かりませんが、さっきのお礼もありますし、何となくですがあの方に借りを作りたくないんですよね」

 借りを作ると面倒臭そうという事か。おそらくカトレーナさんの直感で関わらない方が良いと感じたのかもしれない。

「オーナーはヴェロニカには借りを一杯作ってますよね?」

「うるさい!ヴェロニカ様は繋ぎ止めたいからいくらでも作っていいの!」

 リリに軽快にツッコむ、そして欲望丸出しの本心を隠すつもりがないらしい。

「ふふふ、じゃあ倍返しの意味を込めて別の料理も入れてあげるよ。そろそろ私の新作の中華チマキが蒸し上がったはず!」

 蒸し器から葉っぱに包まれた三角形の食べ物を取り出す。

「試食!試食!」

 葉っぱと外すと熱々ホクホクのチマキが姿を見せ、良い香りが部屋中に広がる。これはマジで食欲をそそられる!

 取り敢えずは4人で味見してみる。美味い!本当に包宰のスキルは反則だ!

「これは美味しい!ホクホクでモチモチで止まらないわ!!」

 ふふふ、カトレーナさんから大絶賛を受けてます。笹の葉の代わりに似た様な料理用の葉っぱを使ったけど問題なかったな、香りが引き立って逆に良いくらいだ。

「お礼も兼ねて特別に出してあげて下さい」

 試作品全てのチマキをカトレーナさんに渡す。

「・・・何か勿体ない気がするわ」

 こういう時に強欲を出さないで欲しい。



「凄い驚きです。あんな料理方法があるなんて、本当に勉強になります」

 メアリーちゃんに愛でられるのも慣れて来た、情熱的な性格だから時々痛いけどね。

「ヴェロニカ、こんな感じだけど?」

 リリが蒸した餅米を見せに来る、中々良い感じだ。これなら餅つきすればちゃんとお餅になりそうだ。

「よし!じゃあ頑張って!」

「へ?」

 予め臼と杵にお米が引っ付かない様にお湯で浸して蒸しあがった餅米を臼の中にいれる。そして杵をリリに持たせて餅つき開始だ!確か最初は杵で餅米を押しつぶすんだったよね。

「最初はゴリゴリ潰す感じ、そうそう、良いよ!頑張れ!カッコいいよ!!」


 ゴリゴリゴリ


「良いね、良いよ!じゃあ叩いて!」

「叩く!?」


 ボンッ!


「メアリーちゃん水をつけてひっくり返して!引っ付かないように素早く!早く!」

「え!?はい、熱っ!!」


 ボンッ!


「良いよ!イチッ!ニッ!イチッ!ニッ!!」


 リズミカルに餅が叩かれていく。良い感じに餅っぽくなってきた。

「ヴェ、ヴェロニカ!もう無理!!」

 リリが根をあげる。

「じゃあ次はメアリーちゃん、頑張って!」

「え!?」

 でも水をつけてひっくり返しすのはどうしよう?リリがへばっているから私がやるしかないのか?

「・・・て?あれ?メアリーちゃん、肩にトカゲが乗ってるよ?」

 良く見るとトカゲなのだが魔獣っぽい。

「うふふ、そう言えばまだ紹介をしてませんでしたね。この子はラヴィリス様から頂いた私の従魔、サラマンダのサラちゃんです。お餅があまりに熱いのでちょっと耐熱で助けてもらいました」

 解析してみると本当にメアリーちゃんの従魔で、契約の指輪をはめていた。

「ギャ!ギャ!!」

 これは明らかに私への挨拶だ、何だろうこの愛らしいフォルムは・・・私の過去で見た事がある気がする。


 そうだ!前世で私はトカゲみたいな爬虫類を飼っていたんだ!!

 家に帰っても誰もいないから、寂しくてペットショップの爬虫類コーナーで家族を買った記憶がある!


 そう家族のいない寂しい女だった私には、1匹だけ家で待ってくれる家族がいたんだった。


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