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精霊女王と呼ばれた私の異世界譚  作者: 屋津摩崎
十章 クリストア王国建国100年祭編
475/499

475.剣を置いて、町に出よう。 その4

 ーーシャルロッテーー



((それにしても凄い人の数だね?))

「今日はクラウス卿と剣聖ハズリムの余興があると聞いている、それで浮き足立っているのだろう」

 そんな喧騒に興味なくマナエルは歩みを止めない、王城が見える巨大な十字路を東へ向かう。

((今度はどこに行くの?))

「この国に魔法を教える学校がある、リプリス姫も通っていると聞く。明日はそこを色々と見て回るらしい」

 学校?何か懐かしい言葉だ。そういえばシャトレアが学校を見に行けると言って興奮していた気がする。

「ただ魔法だけでなく歴史や政治、算術や言語学など多岐にわたって学べるようだ」

 本格的に学校じゃないか!


 学校があるという東地区へと足を踏み入れる。

 ここは観光名所と思われる巨大な橋があり、外国の人と思われる観光客が多くいるが、観るものが少ないのだろう、奥へ行けば行くほど人は少なくなっていく。

「こっちは大分静かで良いな」

 明らかに人混みが嫌いと思われるマナエルは少しホッとした様子だ。

「いいね、自然がいっぱい」

 私も警戒しつつも隠蔽を解除する。

「あれが魔法学園だ、思ったより大きいな」

 学校は解放されており、学校自体は休みだが生徒達の展示物などを見学できるようだ。

「古い建物だ。オルベアの大聖堂と同じくらいの年代だろうか?」

 見渡しながら豪奢な廊下を歩いていく。玄関口の見事なモザイク壁画に息を飲む、本当に立派な建物だ。

「まずは学園長室へ向かう、姿を消してくれ」

「了解!!」

 広い校内を進み、学園長室と書かれた部屋へたどり着く。


 コン、コン、


「オルベア聖教会司教枢機卿のマナエル・アルテアナです」

「お待ちしておりました、どうぞお入り下さい」


 マナエルがノックすると中から返事がある。扉を開けて中に入ると位が高そうな貴婦人と、頭の良さそうな女性が立って待っていた。

「ふむ・・・」

 小声でマナエルが感心する、

「初めまして、学園長のシェルリース・グランドルです、こちらは当学園の教諭シェリア・ベークリュフです」

 学園長と女性教師が丁寧に自己紹介する。

「丁寧な挨拶感謝します。此度の聖女シャトレア様の警備監督のマナエル・アルテアナです」

 マナエルも合わせて丁寧に挨拶をする。私の角度からなら分かるが、2人とも少し驚いた様子だ。

「シェルリース殿、グランドルという事は剣聖殿の?」

「はい、ハズリムは私の夫です」

 驚いた、剣聖の奥さんが学園長だったとは。

「なら、早く話を終えた方が良さそうですね、今晩は観に行かれるのでしょう?」

「あら?お気遣い感謝いたしますわ」

 含み笑いをする、どうやら値踏みされているような感じだ。この人はちょっと狐っぽくてクセが強そうだ。

「我々としてはリプリス姫殿下の心配りを大切にしたいと思っています。何か特別な事を要求するつもりはありません、我々の警備も最小限で目立たぬようにするつもりでありますし、警備に関してはクリストア王国を信頼したいと思っております」

 マナエルがクリストア側に全てを委ねる提案は2人にとって意外だったようだ。

「いえ、失礼、こちらを全面的に信頼してくれるのは嬉しいのですが」

 女狐っぽい学園長も面食らっているようだ。

「聖女シャトレア様がリプリス姫殿下をとても気に入っております。聖女様にとって同年代の方と接する機会がなかったのもあるのでかもしれませんが、これは聖女様の意志でもあるので我々はその意志を尊重するだけです」

 

・・・ここで母親の顔になるのはズルいと思う。


「分かりました、そこまで信頼していただけるのなら我々も全力でそれに応えさせていただきます」

 話し合いはあっという間に終わってしまった。その後は女性教諭のシェリアさんに明日の案内する予定の場所を紹介され、校内を少しだけ見学して終わった。


「それでは明日はよろしく頼みます」

「こちらこそよろしくお願いします、聖女様に良き体験をしていだだけるように最大限に努めさせてもらいます」

 シェリアさんに見送ってもらい学園を後にする。


「・・・どう思う?」

 マナエルが私に尋ねてくる、どう思うというのは学園長や教諭のシェリアさんの事か?

「そうだな。丁寧な応対だけどこっちを値踏みしているような感じ?悪意があるわけじゃ無さそうだけど一癖も二癖もありそう」

 特に学園長の方はそんな風に感じれた。

「グランドル家といえばクリストア王国の大貴族だ、それなら相手を観察するのは当然の行為なんだろう。確かに含みはありそうだが悪意を感じないのは同感だ」

「含みがあるというより警戒されている感じ?」

 最初に学園長室に入った時の緊張感を思い出す。

「警戒か?ははは、それはおそらく私のせいかもしれないな?」

 少し自虐的に笑っている。

「さてと、もう少し付き合ってもらうぞ」

 時間を気にしながら来た道を戻っていく、そして王城には戻らないで南地区へと向かう。


 南地区はいわゆる商業区と呼ばれる場所で、一般人を含めてさらに賑わいを見せている。

「ここは商業区であり平民街でもあるらしい、この店だ・・・」

 とあるおしゃれなカフェのような店の前で立ち止まる、間違いなく私達は場違いだ。

 フリフリの可愛らしいエプロンを着た女の子が注文を取りに来る。その愛嬌の良さにマナエルは少し引き気味だ。

((ケーキを食べに来たの?))

「く、何でこのような場所を指定した」

 恥ずかしそうに目の前に出されたチーズケーキを見ている。

 とても美味しそうなチーズケーキだ、マナエルが小さく切ってくれたのを食べてみる、甘いチーズが口の中に広がる。

((美味しい))

「・・・確かに」

 マナエルも一口食べて同じ事を思ったようだ。


「気に入ってもらえたか?ここのケーキは絶品でね、お忍びで何回か通っているくらいお気に入りなんだ」

 マナエルの背後から声がする、どうやら後ろの席から声をかけられているようだ。チラリと裏を見ると背中合わせの席に男性が座っている。

「・・・こんな場所を指定しないで下さい」

 マナエルは相手が誰なのか分かっているようだ、

「例のモノだ、霊草セーメリアが手に入ったからより完璧なモノができた、安全性は保証する」

 例のモノ?

「感謝いたします」

 裏の人が立ち上がり去っていく。マナエルは振り返り裏の席を確認する、そこには小瓶が入った袋が置いてあり、マナエルはそれを大事そうに手に取る。


((マナエル、それは何?))

「・・・後で説明する、取り敢えずこれはシャルロッテが持っていてくれ」


 マナエルから渡されたのでこっそりと鑑定させてもらう。アン、お願い。


(仮死薬・・・一時的に仮死状態にする)



読んでいただきありがとうございます。

次話の投稿は土曜日になる予定です。

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