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精霊女王と呼ばれた私の異世界譚  作者: 屋津摩崎
十章 クリストア王国建国100年祭編
473/499

473.剣を置いて、町に出よう。 その2

 ーーシャルロッテーー



 部屋を出て王城の廊下を歩いていく。法衣の集団の中に1人だけ私服を着ており、かなり浮いた存在になっている。

「おや、何とも珍しい格好ですね」

 颯爽と歩くマナエルに何者かが声をかけてくる。マナエルの長い髪越しにチラリと見えるその姿に緊張が走る。

「ジャン・レイか。其方がここにいるのも珍しいな」

 マナエルが社交辞令的な言葉をかける。

「いえいえ、本日はクラウス卿が猊下の護衛が出来ないので私が代わりにする事となりましてね」

 聖騎士ジャン・レイ・ロッサーノが護衛?そう言えば今日はシーザー・クラウスは剣聖と戦うんだっけ?

「ははは、どうかその力でオルベアの権威を世界に見せしめて欲しいものだ、剣聖には私も個人的に因縁があるからね」

 私的には共倒れを希望する。

「単なる余興だ、お互い本気ではないのなら私は興味ない」

 マナエルはソッポを向く。つれない返事にジャン・レイは苦笑いをしている、どうやら世間話をしたかったようだがマナエルには取りつく島もなかったようだ。

「私は明日の聖女様の遊覧の現地下見をしてくる。留守の間に何かあれば頼む」

 マナエルがジャン・レイの横を通り過ぎようとすると小さな声でジャン・レイが呟く。

「気をつけて下さい。何やら城内が浮き足立っている。情報はないがこの王都で何かが起こっているみたいだ」

「・・・分かった、感謝する」

 王都で何かが起こっている?不吉な言葉だけ残されてしまった。ただマナエルは氷のように冷たい表情のまま歩みを進めて行く。


 確かに王城内は何か浮き足立ったような空気だ。

((マナエル、何かあったのかな?))

「ああ、どうやら不測の事態が起きているようだ。何があったか分からないが気を引き締めよう」

 そのまま一瞥もせずに城内から出る、王城から一歩出れば賑やかなお祭りの空気が再び押し寄せて来る。

「本当にうるさいな」

 どうやらマナエルはお祭りの空気は苦手なようだ。そのままお祭り騒ぎから逃げるように南に向けて歩き出す。

((人が多いね))

「多すぎだ、やはりこのような文化は私には受け入れられない」

 オルベアの人達は格式に則した(おごそ)かな雰囲気を好むようだが、マナエルもその例に漏れないようだ。


 私は前世では、お祭りなんて縁が無かった。元気だった頃に数回お祭りに行った事はあったな。でもいつも一緒い行動していた友達が出不精で家でゲームするのが大好きだったから、すぐに家に帰って一緒にゲームをした記憶しかない。

 今思えばその子に付き合った私もどうかと思うけど、本当に地味な学生生活を送っていたなぁ・・・



 目的地は中央区の南にあるレストラン「フレイア」の臨時支店だ。本来はウェルベル王国の王都に行かないと食べられないらしいが、今回に限ってクリストア王国の友好の証として出店したとの話だ。

((すっごい行列))

「明日は貸切らしい、その時間帯はシャトレア達以外の客は入れないという話だ。」

 行列を遠目に観察しつつ周囲に目を向ける。

「明日は警備はこの国の者達だ、オルベアからは私と第二師団のレオとエルザのみ。旧教の奴等がシャトレアを狙うとしたら唯一のチャンスといえる」

 旧教とはオルテシア神教会の過激派の事で、執拗にシャトレアを狙っているとの噂だ。

((私とリューもシャトレアに密着ガードするつもりよ))

「ああ、頼む・・・もう少し周辺も確認しておこう」

 行列を尻目に建物の周辺を見て回ることにする。クリストア王国側がどのような警備態勢をとるかは分からないけど、建物自体はそんなに大きくないから警備は難しくはないだろう。

「お嬢様!早くいきますよ!」

「分かってますって!」

 前から身なりの良い貴族の女の子が従女と口論して歩いてくる。どうやら建物の裏口から出てきたようだ。


 マナエルが小さく頭を下げる。するとその貴族の女の子もマナエルに気づいて立ち止まり、慌てて頭を下げる。

「確かアルテアナ卿でしたよね?明日の下見でしょうか?」

「ああ、少し周囲を確認しに来ただけだ。それよりも急いでいるのだろう?呼び止めるつもりはなかったので私に構わまず先を急いでくれ」

 マナエルがそう言うと子は丁寧に一礼して人混みの中に消えて行った。

「さっきの令嬢はリプリス姫殿下の直属部下だ。確かアイネ・リントワースといったかな?リプリス姫殿下と共に挨拶にやって来た。少しだけ紹介はされたが、あの短期間で私の顔と名前を覚えていたようだ。シャトレア曰く仕事が出来そうな才女らしい」

 マナエルが苦笑いしている。ははは、シャトレアが言うのなら間違いなさそうだ。

 そう言えばさっきの子は昨日の開幕式に彼氏同伴で参加していた気がする。

「シャトレアは周りが大人ばかりの中で育った、同年代の同性の人間と仲良くなれた事が嬉しかったそうだ」

 それなら贔屓目になっても仕方ないか、私も昔は仲の良い友達に対してそうだった気がする。


 それにしてもここのレストランは大人気なんだな、さっきから様子を見ているが並んでいる人のほとんどが食事に来た客ではないらしい。この店は全てが予約制になっており、その予約を取る為に並んでいるようだ。

「申し訳ありません!!これにて建国祭7日間全ての予約が満席になってしまいました。誠に申し訳ありません!!」

 店の中から店員と思われる男性が出てきて並んでいる人達に謝罪する。

((満席だって、凄いね))

「昨晩少しだけ食べさせてもらったが、確かに美味しかった」

 昨晩?あっ!もしかしてわらび餅や天ぷらを出した料理人のお店ってここの事か!?と言うことは明日はシャトレアはここでご飯を食べるわけか、ちょっとだけ羨ましい。

「ちょっと待て!どういう事だ!!こっちはワザワザ並んでやっているのに満席だと!」

 突然お店の方が騒がしくなる、数人の並んでいた客が予約が取れなかった事が納得いかないのか騒ぎ出しているようだ。

「申し訳ごさいません。臨時店舗ですのでこれ以上の予約をお受けする事はできないのです」

 深々と店員は頭を下げるが客は納得いかない様子だ。

「こっちはクリストア王国のベラル子爵の使いの者だ、今すぐ責任者を出せ!!」

「俺はハイランダ男爵様の使いだ!一般客より当国貴族を優先させるのが筋だろ!」


((うわぁ、こういう人って何処にでもいるんだね))

 ちょっと引いてしまう。

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