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精霊女王と呼ばれた私の異世界譚  作者: 屋津摩崎
十章 クリストア王国建国100年祭編
471/499

471.命の重さと平等という名の理不尽 その5

 ーーアリエッターー



「数で押されたらヤバい、何か打開策はないのか?」

 レアンがコノハ様を見る、この中で一番状況を打破できる可能性がありそうなのはコノハ様だ。

「背水の陣じゃ、あちらの方に袋小路がある。前線を狭くするしかないのじゃ」

「それしかねえよな!向こうだ!!」

 コノハ様の案を即採用だ、レアンを最後にコノハ様とエクレールが先陣を切る。それを追って私達も袋小路の方へと移動し、最後にレアンが合流する。

「マチルダ殿、エクレール、結界を張るので協力しておくれ。極限大地魔法、豊穣ノ息吹!!」

 コノハ様が例の魔力供給魔法を展開する、この魔法陣の中ならコノハ様の魔力を使って魔法を使用する事が出来る。すぐにマチルダさんとエクレールが呼応する。

「はい」

「うぉふ!」

 コノハ様が乗っているお椀から大量の雑草を取り出す。と言うか大地のスプライトは常に雑草を持ち歩いているのだろうか?

 エクレールが雑草を壁に貼り付け、幾何学文様の魔法陣が出来上がる。

「マチルダ殿!」

「はい!四支点方陣!」

 エクレールを起点にマチルダさんが魔力を流す、すると袋小路の奥に豊穣ノ息吹を中心に四方を閉ざした結界をあっという間に作ってしまった。

「まじで芸術だな」

 オーレンさんが口をあんぐり空いたまま感嘆の声を上げる。素人の私から見ても凄いと思う、おかげで息苦しい瘴気を孕んだ空気から解放された。

「ここで籠城するか?おそらく今王都で一番安全だよな?」

 笑ってはいるがレアンの口元が引き攣っている。

「妾の魔力のあるうちは良いがの・・・」

 そうしたら今度は私が魔力を供給すれば良いだけなのだが?

「冗談は後にしてね、本当にこっからどうするの?」

 珍しく今日はシャンティが真面目だ。

「こちらを見てますね」

 目の良いテルーが弓を構えながら警戒を解かない、その姿は見習い冒険者には全く見えない。

「この結界は内側から攻撃しても良いのですか?」

「いや、単なる安全地帯と思ってくれ。内から攻撃すると結界が壊れてしまうのじゃ。片方通過の結界となると魔法陣を組むのに少し時間が欲しいのじゃ」

 どうやら結界の内側からチクチク魔法攻撃するのは無理のようだ。

「凄い、そんな結界魔法もあるのですね」

「・・・やってみるかの?」

 マチルダさんが関心を持つとコノハ様が即座に反応する、思ったよりもマチルダさんに甘々のようだ。そして驚くべきはマチルダさんの能力の高さだ、さすがはサレンさんのお孫さんというべきなのか、コノハ様が魔法陣を書き換えているのを理解しているみたいだ。



『お前らが我らが創造主のいうゴミカスクソチビ妖精か?』


 さっき魔石をばら撒いていた女が私達の前に現れた。初対面のくせに酷い言い様だ、そして私達をこう呼ぶのはあの呪術師しかいない。

 そして私達への悪口を聞いてテルーが今にもキレて矢を放ちそうだ、結界の内側は脆いと言っていた。ここで矢を放ったらせっかくの結界が壊れてしまうかもしれない。

「テルー、落ち着いて」

 私がテルーの肩に乗って落ち着かせる、

「もう!何であんな酷い事を言うのかしら!」

 憤慨するが落ち着いたのか弓の力を緩めてくれた。私のために怒ってくれるのは嬉しいけど、今は挑発に乗ってはダメだ。


「アンタ達の創造主ってバルデン・フェローっていうクズ男の事?」

『ああ、そうだ』

 こっちは挑発したのに、それをあっさりと認めてしまった、何か恥ずかしくなる。

『あの男は本物のクズ野郎だ、我々をこんなカタチにしたサイコ野郎だ、人を何だと思っているんだ!』

 女性が変形して異形の悪鬼へと変貌する。

『まあ、別にいいんだけど』

 瞬間で正気へ戻ったのか、再び女性の姿に戻る。

「じゃあ、何をしようとしてるのかも知らないっぽいね?」

『ええ、何も知らないし何も考えてない。ただ私はここにいる坊や達に餌をやるだけ、後は餌を巡って勝手に争って強い個体へ産まれ変わるだけ』

 餌を巡って争っている?だから私達に襲いかかってこなかったのか

『とりあえず今日でここも要らなくなるから返すってさ、そう言う事だから、サヨナラ』

 女はそう言うとさっきまでいたスラム街の広場へと戻っていった。


「片通過結界の完成した、反撃なのじゃ!!」

 ここで時遅くコノハ様が気勢をあげる、ただ私達の様子を見て何かを察して気不味そうな顔をしている。

「・・・あれ?お爺様?」

 状況を知らないマチルダさんも瘴気が晴れたのに気がついてキョロキョロと周囲を見ている。

「悪い・・・どうやら終わったみたいだ」

 オーレンさんの言葉にマチルダさんはその場にヘタり込む。

「こ、怖かったぁーーーー!!!」

 マチルダさんが緊張から解放されて大きく息を吐く。

「大したもんだ、よく頑張ったぜお嬢様!」

 レアンが労いの言葉をかける。

「本当ですよ!素晴らしかったです!」

 テルーもマチルダさんを絶賛する。おそらく初めての実戦だったのだろう、それにしてはとても肝が据わっていると思う。


 取り敢えず少し休憩し、再びスラムの中心地へと確認をしに行くことにする。さっきまでの淀んだ空気は嘘のように晴れ、とても同じ場所とは思えない。

「どう思う?レアン、シャンティ。私達は命拾いをしたと言っても良いのかな?」

「まあ、そういう事だな」

「運が良かったと思う。だけど・・・」

 私の質問に2人とも何かを言い淀んでいる。

「問題はこれから何が起こるかだな」

 オーレンさんが2人の言いたい事を代弁する。その通りだ、あれだけの兵力を持たれると何が起こるか予想もつかない。

「アリエッタ、だいたいの敵の数は探知できたか?」

 レアンの質問に首を横に振るしかなかった、空気が悪かったのは言い訳になるが、とにかく沢山いた事は間違いない。

「おそらく、スラム街の住人全員に呪詛を植え付けたの、妾の探知でこの周辺に人っ子一人いない」

 私もコノハ様と同じ考えだ、私の空気探知でも動いている人間の気配が全くしない。こういう時はヴェロニカ姉さんの熱探知があると便利なんだけどな。

「ふう、スラム街が全くのもぬけの殻になったか、おかげで掃除はしやすくなったが、それ以前に大問題が発生してしまったな。本当に余計なことばかりしやがって」

 オーレンさんが苦笑いしながら頭を掻く。取り敢えず戻って国王様や大臣さん達を緊急招集するらしく1人で慌ただしく先に帰って行ってしまった。


 取り敢えず、私達も冒険者ギルドに帰って報告をするしかなさそうだ、1人ここに残されてしまったマチルダさんを家に送らないといけないしね。



読んでいただきありがとうございました。

次話の投稿は土曜日になる予定です。

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