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精霊女王と呼ばれた私の異世界譚  作者: 屋津摩崎
十章 クリストア王国建国100年祭編
459/499

459. ミッションコンプリート

「呪い溜まりか、酷いことをしよる」

 コノハも老夫婦の症状を見て憤っている。それにしてもコノハの時代では呪詛腫の事を呪い溜まりと言うのか。

「もしかして、奴か?」

 レアンさんも心当たりがあるようだ。この人を材料のように扱うやり方はあの呪術師しかいない。


 とりあえず2人の治療が最優先だ。コノハが魔法で呪詛腫を体から追い出すと言うので、アイネちゃんにダイツーレンを渡して呪詛腫退治を任せ、私は2人の負担を減らすために治癒魔法をかけることにする。

「少し我慢するのじゃ。紫電魔法、禍津祓ノ雷マガツハライノイカヅチ!」

 コノハが老夫婦の手を握り、聖属性の弱い電気を流す。すると全身に電流が流れて追い出されるように呪詛腫が出てくる。

「やあ!」

 それをアイネちゃんがダイツーレンを振るって呪詛腫を斬り刻む、あっという間の退治劇だった。

 私は治癒魔法をかけ、体力回復用に滋養薬をリマさんに渡しておく。

「大丈夫ですか?」

 リマさんが老夫婦に滋養薬を飲ませながら声をかける。

 すると意識を取り戻したようで目を開く、すると目の前にリマさんがいるので驚いている様子だ。


 ちなみに私とコノハは目を覚ましたのと同時に姿を隠して様子を見ている、顔色も良くなっているので治癒魔法はもういらなさそうだ。


「ああ、貴方様はいつかウチで買い物をしていただいた」

 お婆さんの方がリマさんの事を思い出したようで畏まる。

「お身体は大丈夫ですか?こちらの薬を飲んでいれば体力は回復します」

 リマさんが優しく2人を介抱するが2人は浮かない顔をしている。

「それはいただけません。おそらく高級なポーションなのでしょう?お支払いするだけの蓄えはありません」

 滋養薬が高級ポーションとは・・・単なる栄養ドリンクなんだけど。

「その事なら問題ありません。私達が作ったものなので対価など要求しません」

 アイネちゃんが申し出る、いかにも貴族風の女の子がいる事にお婆さんは驚きを隠せない。

「私の主人のアイネ・リントワース様です」

「き、貴族!?」

 老夫婦はアイネちゃんの正体を知って慌てて畏まる。

「あっ!今は安静にして下さい」

 アイネちゃんが慌てて2人を止める。

「あー、俺は自警団のレアンデルっていう者なんだが、アイネ様は身分などに寛容な方だから心配するな。ところで何があったんだ?」

 話が拗れそうだからレアンさんが中に入って話を聞こうする。

「自警団の方・・・何があったですか。特に変わった事はありませんでしたが、歳のせいか体調が悪くてね、ついにガタが来たのかと思っていただけで」


 これはレアンさんの聞き方が悪いな。

 すると何やら耳元を気にする仕草をみせる、おそらくコノハが動いたのだろう。


「その体調が悪くなったってのはいつからだ?突然調子が悪くなったのか?」

 レアンさんが質問を続ける、というかコノハが質問しているな。

「そうですね、もう年寄りなので元々体にガタは来ていたので。ここ最近は徐々に疲れが取れなくなってきたの。そろそろ仕事を畳もうかと考えていたんです」

 呪詛の典型的な症状だ、最初は気が付かないが寄生虫のように体に根付いて体力を奪っていく。

「何か変わったものを食べたとかはあるか?」

 次の質問に老夫婦は首を横に振る。

「見ての通り裕福ではないので、特段の変化はしておりません。特に生活のリズムを変えた覚えはありませんし」

 呪詛腫の性質上、食べるか飲むなどして体内に入れないと根付かないはずだ。ルーネイアさんのように知らないうちに食べさせられたり、ハズリムさんのように薬として処方されたり、アリーさんのようにポーションに混入されたりしない限りは無理なはず。

「・・・・」

 レアンさんが深刻そうな顔をしている。そして一度唾を飲み込み、再び老夫婦に質問をする。

「その体の不調はアンタ達だけか?この近所の人に・・・その、変化はないか?」


 ・・・近所の人?


「うーん、最近寝込んでいたから分からないが、私達と同じようにここらのご近所さんの体調も悪そうだった気がするの」


 ・・・まさか?


((アイネちゃん!通路にあった水瓶を調べて!!))

 アイネちゃんの耳元に語りかける、すぐにアイネちゃんが部屋の外にある水瓶に行ってダイツーレンの刃先を水の中に入れる。


 ジュワアアアァァ


「そ、そんな」

 さすがのアイネちゃんも動揺が隠せない。水の中で何かが溶けるような音がし、断末魔のような蒸発音がする。


 くそ!あの男・・・呪詛を水の中に入れたのか!!


「おい、ここの水はどこからだ!?」

 レアンさんも理解したのか老夫婦に確認する。

「きょ、共同の配給水場です」

 共同の配給水場?王都は上水設備がしっかりしており、それは西区も一緒だ。ただこの辺りの場合は共同の配給水場が設けられ、各家庭は生活用水をその水場まで水汲みに行っているらしい。

「分かった、一度確認に行こう」

 レアンさんが立ち上がる。老夫婦は呪詛を取り払って顔色も良くなってきたから問題ないだろう、リマさんも滋養薬を何個か置いて立ち上がる。

「ま、待って下さい。せめて私達で出来る何かありませんか?」

 老夫婦が縋ってくる。でも生活が裕福ではない2人に何か請求するのは気が引ける。

「・・・あっ!じゃあ、こちらに餅米ってありますか?」

 アイネちゃんが思い出したように尋ねる。そう言えば最初の目的は餅米だった。


「餅米?あるにはあるが、貴族様が必要なのですか?」

 お爺さんが不思議そうな顔をする、それでもここの倉庫に有ると言うのでお言葉に甘えて分けてもらうことにする。

 嬉しい、どうやら餅米が手に入りそうだ。

「好きなだけ持っていっておくれ。仕事を畳もうと思っていたから処分しようと思っておったんじゃ」

 家の奥にあった冷暗室には二俵くらいの袋詰めにされた餅米が積んであった。

 これには大歓喜だ!目の前には宝の山が積み上げられている。

((餅じゃ!餅を食べれる!!))

 コノハの声がここまで聞こえてくる。相当嬉しそうだ。


「あの、本当に仕事を辞めるのですか?実は貴族の中にもここのお菓子を密かに楽しみにしておられる方もいらっしゃるのですが」

 ここでリマさんが切なそうな顔でお爺さんに尋ねる。

「ふふふ、そうですの・・・不調の原因がワシらのせいでないと分かりましたからの。再び元気になって暇を持て遊ばしていれば、また売り出すとしますわ」

 ちょっとだけ元気になったお爺さんが照れ笑いする、そしてお婆さんが何やら紙袋を持ってくる。

「残りもので申し訳ないけど、良かったら食べて下さいな」

 紙袋の中には見るからに圧縮された堅そうな煎餅が入っている。

「お茶などに浸してふやかして食べるのです」

 小さな声でリマさんが教えてくれる。何だろう?せんべい汁みたいなものかな?その袋を大事そうに抱え、無事に餅米も分けてもらう事ができた。

 ここにある餅米を全部くれると言ってくれたが、運び役のレアンさんが泣き言を言い出したので一袋だけ貰い、意気揚々と老夫婦の家を後にする。


 これでミッションコンプリートだ、ヴェロニカの報酬が楽しみでしょうがない。


読んでいただきありがとうございました。

次話の投稿は土曜日になる予定です。


「追放されるまでが悪役令嬢です。」も無事終わりを迎える事が出来て本当に良かったです。(少し手直しはすると思いますが。)

精霊女王様の方も少しずつですが物語が動き出しており、終盤を迎えつつありますので、何とか最後まで書きたいと思ってます。


今回は短い話を書こうと思って「追放されるまでが悪役令嬢です。」を投稿しましたが、今度は中編くらいの小説を書きたいなと思ってます。書きたい内容はだいたい決まっているので、数話書いた感じで投稿するかどうかを決めたいと思ってます。

その時はまた報告しますので、その時はそちらも読んでもらえると嬉しいです。


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