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精霊女王と呼ばれた私の異世界譚  作者: 屋津摩崎
十章 クリストア王国建国100年祭編
457/499

457.西区ディープゾーン その1

 リマさんが言っている老夫婦が営んでいる製菓店は王都の西区にあるらしい。

 王都の南区と西区はいわゆる平民街と呼ばれており、特に西区はその色が強い。冒険者ギルドも西区にあり、治安が悪いとされるスラム街もここにあるという。


 そう言えば以前マリアさんがスラム街出身で毒親に売られたところをメイド長のクレアさんに買い取られたと言っていたな。

 その時に何があったかは知らないけど、そういう話を聞くとあまり近づきたくはないな。



「私、西区ってあまり来た事がないのよね。南区のような商業区域とは違うのよね?」

 貴族令嬢であるアイネちゃんからしたら未開の地のようで、興味津々で周囲を見渡している。

「私も頻繁に足を運ぶ訳ではないので詳しくはありませんが、やはり少し治安が悪いのは否めません。それにこれから行く場所はスラム街の近くなので気をつけなくてはなりませんね」

 (はた)から見れば大きな犬(狼)2頭を連れたセレブお嬢様だ、場違い感が半端ないから変な輩に絡まれない事を祈ろう。


 それにしてもお祭り騒ぎはここでも一緒だな。お昼からお酒を飲んでいる輩もいるし、大声を出して馬鹿騒ぎをしている若者もいる。

「おや?こんな場所には似つかないお嬢さんがいるなぁ?」

 ほら、さっそくナンパをしようとする馬鹿がいるだろ?


 どこかで聞いたことのある声だけど。


「リマちゃん、オレ達って運命を感じない?」

「・・・」

 リマさんの視線が氷点下を超える・・・

「レアンさん、お久しぶりです」

 アイネちゃんは基本的に分け隔てない、ナンパな冒険者に対してもちゃんと笑顔で対応する。

「アイネお嬢様、珍しいですね、西区に来るなんて」

 リマさんの射殺すような視線に怖気ついたのか、ターゲットをアイネちゃんに変える。

「ええ、ちょっとヴェロニカ様から頼まれ事がありて・・・ってレアンさんはヴェロニカ様の事をご存知でしたっけ!?」

 慣れすぎて口を滑らせてしまったと思ったのかアイネちゃんが慌てる。

「安心してくれ、勿論知っているよ。ラヴィリス様の姉ちゃんのコノハ様の事も知ってるぜ」

 レアンさんの言葉にアイネちゃんは安心して胸を撫で下ろす。

((レアン殿、久しいのじゃ))

「おお、コノハ様か?元気そうで何よりだ」

 フィルデシア以来の再会だ、コノハに耳元で囁かれたのがよほど嬉しいのか満面の笑みになる。何かレアンさんがデレデレしている姿は気持ち悪い。

((レアンさん、そっちの道の隅っこに行って下さい))

「おっと、今度はラヴィリスさまか、了解、了解!」

 とりあえず人通りの邪魔にならない場所へ移動してもらう。


 隅っこに移動し、隠蔽範囲でかけて周囲から私達の姿が見えないようにする。

「レアンさんって暇なんですか?」

「いきなり辛辣だな・・・」

 だって一人フラフラとナンパしてたじゃん。

「ちゃんと仕事をして下さい」

 リマさんもジト目で睨んでいる。

「いや、してるよ仕事!超真面目に見回りしてるって!」

 必死に弁明してるが怪しい。

「いやいや、貴族令嬢がうろちょろしてると目立ったから声かけたんだろ。さすがに可愛い女の子二人が歩いているとナンパ待ちって思うだろ。声をかけない男の方がおかしいって!」

 その答えには納得できるかもしれない。アイネちゃんは言わずと知れた美少女だし、リマさんは磨けば光る原石系美女だ、変な虫が寄り付かない方がおかしい。


「可愛い女の子ですか?どこに?」

「はて?何をおっしゃっているのですか?」


 アイネちゃん、リマさん二人とも自覚してないようだ。まあ、自信満々よりは好感は持てるけど。

「・・・其方達の事じゃ、鏡をちゃんと見なされ」

 コノハが呆れている、ここまで自覚がないとは思わなかった。

「それで?揃ってどこに行くんだよ?」

 頭を掻きながらレアンさんが尋ねる。

「西区10番地にある製菓販売所です、老夫婦二人で営んでいるんですが」

 リマさんが答えると何やら考え込んでいる。

「スラムの近くじゃねえか。ちょっとマズいかな」

 スラム街ってそんなに治安が悪いの?

「いや、治安じゃなくて何か原因不明の病が流行っているんだ。時期も時期だけに今は半分封鎖状態になっているんだ」

 レアンさんが言い難くそうに答える。原因不明の病?半分封鎖?

「つまり建国祭で海外から沢山の人が来るから病が表に出てこないように封鎖しているという事ですか?」

 私がストレートに聞くとレアンさんは頷く。

 臭いものには蓋をするしかないって事か、でもすぐに対処する余裕は無いかな。建国祭開催期間の7日間だけ我慢してもらおうって事だな。

「流行病かの?どのような症状なのじゃ?」

 コノハは医者系のスキルを持っているから気になっているようだ。

「うーん、倦怠感?体が重くなって次第に動けなくなるらしい」

 うーん、曖昧な表現だな、やはり実際に見てみないと症状は分からないか。


「とりあえずその店まで俺が着いて行くわ、男が1人居れば見方はだいぶ違う。2人とラヴィリス様達が強いのは知っているけど変なのに絡まれたくないだろ?」

 レアンさんはどうやら護衛をしてくれるみたいだ、騒ぎを起こしたくない私達にとってありがたい提案だ。

「すいません、助かります」

 リマさんが丁寧に頭を下げる、こういう時の割り切りは本当に早い、アイネちゃんも頭を下げて同行をお願いする。

「うーん、アイネお嬢さんが凄いのか、この国の貴族が凄いのか良く分からんな」

 レアンさんが苦笑いしている、この国の貴族全員がアイネちゃんみたいとは限らないと思うよ。


 こうしてレアンさんを加え、西区のディープゾーンへと足を運ぶ事となった。

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