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精霊女王と呼ばれた私の異世界譚  作者: 屋津摩崎
十章 クリストア王国建国100年祭編
426/499

426.守る側のジレンマ

「凄い!こんなに食材を持ってくるなんて。ワラビだけじゃなくてゼンマイやタラの芽、山菜がこんなに一杯!」

 ヴェロニカが嬉しそうに収穫してきた山菜を品定めしている。

「これもお渡しします!じゃーん、まーいーたーけー!!」

 何層にも連なった特大の舞茸をカガミンから取り出す。

「おぉーーー!まーいーたーけー!!!」

 2人で舞茸を(あが)(たた)える小踊りをする。

「・・・これは食べれるのですか?」

 何も知らないメアリーさんとリリネットさんは不思議そうな顔をしている。

「幻と言われる希少なキノコじゃ、見つけるとああやって嬉しくて舞い上がるからマイタケと呼ばれているのじゃ」

 コノハは知らないだろう、前世では舞茸は普通に栽培されてスーパーで売られている事を。まあ、天然モノは本当に見つからないと田舎のお祖母ちゃんは言っていたけどね。


「あとはコレ、じゃーん!ワサビ!!」

 さらにさらに収穫物を見せる、

「おお!凄い!!本ワサビだ!!葉っぱまでちゃんとある!!」

 その価値を知るヴェロニカも興奮している。

「これも食べ物なんですか?」

 メアリーさんが首を傾げる、見た目はゴツゴツした緑色の根っこだからね。

「これは調味料になるの、風味のある辛さが特徴的ね。それと抗菌作用が強いから魚の生食にも使われるわ。えっと、お酢とかに近い使い方ができるの」


「・・・辛っ!!!」

「こ、これは無理かも・・・」


「「・・・」」


 メアリーさんとリリネットさんが葉っぱをかじって涙目になっている。何でこの2人は食材と分かると食べようとするんだろうか?まあ、山菜や舞茸を生で食べないだけ良いけど。


「・・・いったい何回目かしら?」

 私の冷たい視線に気づくと2人は焦って目をそらす。

「いや、だって抗菌作用があるって・・・おっしゃって・・ましたから」

 リリネットさんが最もらしい言い訳をする。

「それでも一度洗おうとか考えますよね?」

「・・・ハイ、ゴメンナサイ」

 2人揃って小さくなる。


「口を洗ってこい」

「「ハイ!!」」


 2人はそそくさと部屋から出て行く。

「毎度毎度ゴメン」

 ヴェロニカが謝らなくてもいいと思う。



「ところで・・・マキシムさんは実は影分身とかできたの?」

 ヴェロニカが視線を下ろすとマキシムとエクレールが行儀良く座っている。

「えっと、新しく妾と従僕契約を結んだエクレールじゃ。マキシムの妹に当たるらしいのじゃ。今こっちを向いている体が小さい方がエクレールじゃ」

 自分の話をされているのが分かったのかエクレールはこっちを向いている。

「うふふ、可愛い。マキシムさんに妹がいたなんて、よろしくね」

 ヴェロニカが撫でると気持ちよさそうに目をつぶる。本当に野生の狼だったのだろうか?愛想が良すぎて飼い犬みたいなんだけど良いのか?


「・・・ねえ、アイネちゃんが元気ないけど何かあったの?」

 エクレールを撫でつつ、遠目でアイネちゃんへ視線を向ける。ロラン君とハーリス君と一緒にメアリーさんのお母さんのセシルさんと話をしている。それはいつも通りの振る舞いなのだが、ヴェロニカは勘が鋭いので気落ちしているのに気がついているようだ。

「実は、来る途中で少々因縁のある悪鬼と遭遇しまして・・・」

 ここに来るまでの経緯を説明する。

「悪鬼か・・私はまだ遭遇していないからどんなのか想像できないけど、私達はアスラ様から降魔のスキルをいただいたからそれが効果的なんじゃないのかな?」


 そう言えば忘れていた。

 降魔は自然に聖属性が付与される最上位のパッシブスキルだ。


「確かに、降魔は一番効果的な能力じゃった。こう言う時のために旦那様はこのスキルを妾達にくださったのじゃった」

 コノハも忘れていたようだ。

「つまり広範囲の攻撃魔法が少しカスっただけでも大ダメージを与えられるんでしょ?なら私達にとっては怖くない存在でしょ?もしアイネちゃんを狙っているなら私達で返り討ちにすればいいんじゃない、アリエッタちゃんにも情報を共有しておいてさ。馬鹿正直に3日目に来るって言っているだし、待ち構えていれば良いんじゃない?」

 あの手紙を思い出す。確かに祭りの3日目に迎えに来ると書いてあった。そういう事ならば祭り3日目になったらアイネちゃんに私達がベッタリと引っ付いていればいいだけの事か。



 果たしてそれだけで良いのだろうか。


 何かを見落としている気がする。



「罠と考えておるのか?」

 私の表情からコノハが聞いてくる、私ってそんなに表情に出ないと思うんだけど。

「うーーん、そうですね。相手は私達の存在を知っていると思うのです。なのでそれを踏まえた上で予告したというのなら余程の自信があるのか、別の()()があるのか、変な風に深読みしてしまって」

 結局のところ私達は守る側だ、対策ははっきり言って予防線を張る事しか出来ないのは分かっているんだけど。

「うーん、それならカアコをアイネちゃんに付けてもらう?あの子なら隠蔽魔法が使えるから」

 ヴェロニカが提案してくれる、あの火の鳥なら悪鬼にも対抗できると思うけど相性的にはマキシムの方が良い気がする。

「いえ、護衛はマキシムにお願いします。影の中に入って隠れられますし、一度悪鬼と交戦したと聞いてます」

 それとホランドさんにちゃんと説明して、アイネちゃんの予定をちゃんと把握しておこう。

「ヴェロニカの予定はどうなっているんですか?」

 ヴェロニカは遊びに来た訳ではなくて、ウォルベル王国から打診されて臨時出店するレストラン「フレイア」での仕事がある。

「1日目は王宮で晩餐会のお手伝いをするの、それから後は中央区にあるレストランを借り切って臨時出店するわ。今日下見してきたけど規模的には大きくない、だから完全個室の予約制にしたみたいだから混雑などはしないと思う。祭りの最後までお店をやる予定ではあるけど、ある程度はリリに任せられるし、フレイアの皆が協力的だから私が完全に拘束される事はないと思う?」

 ぐっ、完全予約制か。私達がフレイアの料理にありつく事は難しそうだ。


「あれ?3日目・・・そう言えば!」

 ヴェロニカが何かを思い出したようにリリネットさんの鞄をひっくり返す。全部ぶちまけて何やら手帳を取り出して調べ始める。私達も脇からその手帳を覗き込む、リリネットさんの綺麗な字で丁寧に予定が書いてある。途中で可愛いウサギの絵なんて描いてあるのが少しだけ微笑ましい。

「やっぱりそうだ、3日目はリプリス姫とオルベアの聖女の接待で貸し切り予約が入っている!」


 オルベアの聖女の接待?そう言えばアイネちゃんはリプリス姫の補佐の役目をするんだった、それなら当然の如くアイネちゃんも同行するはず。


 これは狙っての事なのだろうか?いや、まさか、単なる偶然だと思うけど。




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