42. そんな事は知りません。
いきなり計画が破綻しちゃったよ。てへっ!
呪詛腫がハズリムさんの魔導核に根付いてしまった。なので一緒に分離しちゃって、まとめて倒してしまった。
明るく言ってるけど、私は相当頭を悩ませていた。
なんと言っても、ハズリムさんに受け皿となる魔導核がなかったらマーナと契約どころじゃない。全くの無防備になるため魔法を受けるだけで死んでしまうらしい。
一般的に魔石は人体の魔導核として生まれつき持っている。大小あるもののそれが魔力であり魔法に対する抵抗値でもある。だから、魔導核のない人間には治癒魔法さえも身体に良くない。
私はハズリムさんの治療を薬にシフトするようにアイネちゃんに言った。
「なる程、勉強になります!」
君はいつでも真面目だよ、私の癒しだよ!
「例えば、錬金術で魔導核を作れたりしないかな?」
(・・・・)
カガミン?
(・・・可能です、盲点でした)
出来るのか、なんでもアリだな!!
(我々には都合が良いことにゲートチェイサーの魔石を持っていたのを失念してました)
都合が良いとか言うな!
(あの魔石は添付能力付きでした、あれに地魔法を書き込んで錬成すれば地属性の人工魔導核の完成です)
工程としては、人工魔導核をハズリムさんに組み込んで私の従属にする、それで神樹魔法を授与すれば人類史上初の樹木の剣聖が誕生するわけだ。
実に面白い、ぜひ見てみたい!
そうと決まれば何が必要か教えて!
(まず必須なのは釜ですね、あれがないと魔力圧縮作業でラヴィリス様が干上がってしまいます)
おおぅ、それは嫌だ!そう言えばホランドさんからまだお礼をもらってないや、今から催促しに行こう!
(後はヤドリギなど細々とした物ですね。核となる書き換え可能な魔石が手元にあるので容易だと思われます)
よし、行こう!私は話し合いをしている執務室に入る。
「ホランドさん!約束のブツを早く下さい!」
「「「!?」」」
(言い方は考えましょう)
ハイ、悪ノリで言ってしまいました。
「ははは、錬金釜のことでしたか」
ホランドさんに苦笑いされた。すいません、これからはよく考えて発言します。
「実は魔法商会と交渉しているところで、まだ手に入っていないのだ、申し訳ない」
(希少物ですからすぐに入手は難しいようです)
「それなら当家にある、そちらを譲ろう」
おっと渋い声が聞こえる。
「はじめまして、グランドル家現当主ガルファ・グランドルだ、父を助けていただき感謝する」
こちらのイケボ男性はグランドル家の当主様でした。ハズリムさんの御子息でゼル君のパパさんですね、ホランドさんと違って威厳がありますな。
「あら、よろしいんですか?」
「ああ、我々が持っていても無用の長物だからな、誰も使える者がいないから倉庫の奥で眠っている」
一応先に発注してあるホランドさんを見る。
「申し訳ない、早急に用意することが出来なかった我々の落ち度だからな」
それなら遠慮なく貰おう!
「私の報酬はこれで結構ですからね!これ以上は何も貰いません!あと、ホランドさんもです。お宅のメイドさん達に私の服を沢山作ってもらいましたから。もうお礼とか結構ですから!」
物をあげたがる貴族に釘をさしておく。
「それで、そちらは話し合いは終わった?」
「ああ、バルトハイトとオズリットに関して周辺を徹底的に洗い、決定的な証拠を突き付ける」
まあ、やれる事はそれしかないよね、
「例のマリナ・ミハイルも探って下さいよ」
ルーネイアさんの親友モドキに関しても周辺を探るように言っておいた。
「あら、あの見栄っ張りの小娘も関与してるの?そんなオツムなさそうだけど?」
おぉう、シェルさんが辛辣な人物評をしているよ、
「実は、妻の病の原因でして・・・」
ホランドさんは隠さずに経緯を話す。
「・・・呆れて物も言えんな、派閥の中核なのに」
眉間をおさえるガルファさん。
「想像以上のおバカさんみたいね」
シェルさんもため息をついている。ここまで来ると会ってみたいと思えてしまった。
「ラヴィリス様も錬金釜が必要ということは、それが夫に必要なのですか?」
あざといシェルさん、探りを入れてきた。私は隠す気もないのでカガミンから魔石を取り出す。
「・・・これは?」
「これは前に話したゲートキーパーの魔石です!」
しかもこれは単なる魔石じゃないのよ!
「・・・これは・・ブラックコア?」
ゲートキーパーの魔石を見てガルファさんの顔色が変わった。
うふふ、どうやら私はまたやらかしてしまったようです。
なんですか?ブラックコア?聞いたことありません!
「ありえない、国宝級ですよ!」
そんな事は知りません。
「いや、報酬が錬金釜では全く釣り合わないぞ!」
ガルファさん、私には錬金釜の方が貴重で大切なんです!
色々言われたが私はすべて無視した。
後はシェルさんに欲しいものリストを渡しておいた。
「これなら手に入るわ、でもヤドリギはどうしましょうか?」
「大丈夫、マーナの神樹から分けてもらいますから」
私には神樹魔法という頼りになる魔法があるから何とかなってしまうのだ。
「分かりました、すべてお任せします」
シェルさんも慣れてきたのかツッコみがなくなってきた。少し寂しい・・・
「おう、ガルも着いたのか」
奥の部屋からハズリムさんとアイネちゃんがやって来た。包帯でグルグル巻きだが血は止まったようだ。
「お父様!我が家にもたくさんの薬草と草花を常備するべきです!何かあっても対処できます!!」
アイネちゃんがホランドさんに早速提案している。そうだよね、薬聖のスキルあれば何とかなっちゃうもんね!
「君は?」
「あぁ、はじめましてですな、当家長女のアイネです」
ホランドさんに紹介されてアイネちゃんは行儀正しく挨拶をする。
「よいぞ、アイネ嬢は!本当に孫の嫁にしたいくらいだ!」
ハズリムさんはアイネちゃんにメロメロのようだ、気に入ったようでゼル君の婚約者にさせたいみたい。
「お断りします」
神速で拒否するアイネちゃん。
「まあ、仕方ないわよね、無理強いはダメよ」
経緯を知っているシェルさんはハズリムさんに言い聞かせる、
「何かあったのか?」
何も知らないガルファさんがなぜか私に聞いてきた、
「・・・シェルリースさんに聞いて下さい」
私は貴方の御子息を悪く言いませんよ。
「旦那様、錬金釜の準備が整いました」
おっと、ようやく錬金釜と出会えますね!
けっこう大きいな、業務用の大型の寸胴鍋くらいあるな。カガミン入る?
(問題ありません)
「さて、それではリントワース領館に運ばせよう」
「あっ、それには及びません」
私はカガミンの中に錬金釜を入れた。
「・・・・」
おや、皆が黙っているぞ?
・・・・あれ?




