401.小さな出会い
「ハーリス君、元気がありませんね?」
「うん・・・」
どこか沈んだ様子だ。
「姉様やお母様、お父様みんな忙しいみたい。クレアも兄様もいないし」
ああ、そうか、アイネちゃんがリプリス姫の補助に抜擢されたから、ルーネイアさん達がそれに付きっきりになってしまったのか。
遊び相手と思われるメイド長のクレアさんはリントワース領に帰っているので不在だ、誰も相手をしてくれなくて退屈なのかもしれない。
「この子は?」
ハーリス君を知らないハズリムさんに聞かれる。
「リントワース家の末っ子ですよね?確か上の子は孫のベルツと同い年よ」
シェルさんは知っているようだ。そう言えばこの前リントワース領に来てたから、その時に紹介されたかな?
「シェルさん、少しだけ向こうに行ってきても良いですか?暇つぶしにこの本を置いていきますので」
すると笑いながら頷いてくれた、私も最近ハーリス君の魔法の練習をサボり気味だったし、誰も相手してくれないなら私が相手をしよう。
「ちなみに、ハーリス君とミュースちゃんを仲良くしたら不味いですか?仮にも相手は王女様ですけど?」
すると2人はお互いを見合う。
「ははは、私らのようになるかもしれませんな!」
「ちょっ、やめてよ、もう」
ハズリムさんとシェルさんがイチャイチャし始めた。
くそ、物凄く気分が悪い!
仲が良すぎだろ!
最近は私の前で隠す気も無いだろ。
まあ、向こうにベリーサさんがいるから大丈夫だろう。惚気爺婆を放っておいてミュースちゃんとコノハのもとへ向かう。
「コノハ様!」
ハーリス君がコノハを見つけて駆け出す。
「すいません、ハーリス君も一緒によろしいですか?」
同い年の男の子と女の子の初対面だ、一体どんなむず痒いキュンキュンシーンが見られるだろうか?
「こんにちは、ハーリスです!」
ハーリス君の先制攻撃!可愛い男の子の満面の笑みの挨拶だ。私だったらこれでイチコロだ。
「・・・こ、こんにちは」
ミュースちゃんがすかさずベリーサさんの後ろに隠れた。
これは人見知り防御フィールドだ!ハーリス君はこの鉄壁の防御をどうやって攻略する?
「僕もご一緒してもいい?」
ハーリス君、意外と積極的だ。相手が王女様だと知らないからできる技だな。
コク、
恥ずかしながらも無言で頷く、これは男子はメロメロだ!キュン死するよ!
見よ!ハーリス君が真っ赤になって・・・いない。
「やったぁ!!」
嬉しそうに笑う。無邪気だ・・・
おや?逆にミュースちゃんの頬が赤くなっているぞ?
「・・・ラヴィリス様、楽しんでない?」
ベリーサさんに睨まれてしまった。青臭いのはお気に召さなかったようだ。
「さて、ハーリス君、この魔法陣の中ではコノハ様の魔力を使ってやりたい放題、好き勝手できます」
「やりたい放題、好き勝手するでない!」
だんだんとコノハのツッコミが現代風になって来た。
「ゴホン・・・なのでここの土を使って何か作りましょう。何か作りたいモノはありますか?」
基本の魔力制御の一つ魔力変化の練習だ。私の言葉にハーリス君は周囲をキョロキョロする、
「じゃあマキシム!」
シェルさんの足元にいるマキシムを指差す。なる程、素晴らしい選択だ。
「マキシム、来て下さい。少しだけモデルをやって下さいな」
マキシムを呼ぶとトコトコとこっちに歩いてくる。
「見本を見せますよ」
マキシムの土人形を作る、ここはカッコいいところを見せなくては!
「・・・出来た!これが私のマキシムだ!!」
出来た土人形は牛のように大きい。出来栄えが気に食わなくて、付け足し付け足しをしていたらとても大きくなってしまった。
あれ?装飾品は上手く出来るのに?何でだ?
(装飾は創作で好き勝手作れますが、今の状況は模写なのでセンスの問題だと思われます)
ええ!?違うの!?
「これは・・・豚?」
「違います!!」
コノハの目は節穴のようだ。せめて牛と言ってよ。
「ふん!」
ゴッ!!
「あああ!!ベリーサさん、何を!?」
私作マキシムがベリーサさんによって破壊される。
「やるならちゃんとやれや!!」
そんなに怒らなくてもいいんじゃ、
「造形がクソじゃの」
コノハ様!?
「・・・出来た!!」
私がみんなから責められている後ろでハーリス君が声をあげる。
「すごい、上手!」
ミュースちゃんの声まで聞こえる、いつの間に打ち解けたの?後ろを見るとマキシムに似たカッコいい狼の土人形が出来ていた。
「おお、これは凄いのじゃ!」
土魔法とは言え、私の牛さんより100倍上手だ。ハーリス君にこんな特技があったとは。
「ラヴィリス様、コレですよ、コレ。分かります?」
この女、マジうぜえ。
「・・・おや?これは、ゴーレムに出来るぞ?」
ジッと見ていたコノハが驚いている。ゴーレム?動くという事?
「ラヴィリスや、魔石を一つ貰えるかの?」
魔石?カガミンから取り出してコノハに渡す。ここで遠くから見ていたハズリムさんとシェルさんもやって来る。
「ハーリスや、その土人形に魔石を埋め込んで其方の魔力を流してみよ」
魔石を渡して指示する。ハーリス君は躊躇なく狼の目ん玉に魔石をぶっ刺す。魔力の流し方は一応教えてあるけど、ハーリス君の魔力は多くないぞ?大丈夫かな?
「流す魔力は支配者を覚えさせるだけじゃから少しで良い、駆動は妾の魔力を使うのじゃ」
「はい!」
ハーリス君が魔力を流すと魔石に光が宿る、すると狼の土人形は見事にゴーレムとなって動き出す。
「おお、凄いな」
見に来ていたハズリムさんが驚きの声を上げる。
「ちょっと待っておれ、豊穣ノ息吹の範囲を広げるから少し動かしてみよ」
コノハが大地に手をついて範囲を広げる、すると魔法陣が半径10mくらいの広さの円になる。
「乗れるかな?乗ってもいい?」
嬉しそうにハーリス君が狼ゴーレムに話しかける。もちろん絶対服従なので狼ゴーレムは乗れるように伏せ状態になる。そしてハーリス君が跨ると立ち上がって歩き出した。
「凄い凄い凄い凄い!」
ハーリス君が興奮気味な声を上げる。ゆっくりと私達の周りを歩いている。慣れてきたのか少しずつスピードが上がって歩き方もスムーズになる。
「凄いセンスじゃ。あれだけ見事な造形なら駆動も問題ないじゃろう」
コノハも舌を巻く、ここまでとは思ってなかったようだ。
するとハーリス君はミュースちゃんの前で止まる。どうやらミュースちゃんが物凄く羨ましそうにしているのに気がついたようだ。
「いいの?」
「うん!」
そう言うとミュースちゃんを狼ゴーレムの後ろに乗せる。なんか普通に仲良くタンデムしてんだけど?
「何だコレ?私は何を見せつけられてるの?」
ベリーサさんの心は荒れ模様だ。
読んでいただきありがとうございます。
次話の投稿は土曜日になる予定です。




