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精霊女王と呼ばれた私の異世界譚  作者: 屋津摩崎
三章 王都魔法学園編
35/499

35.花の香り

 どこかにいるシェルさんを探すことになった。


 私達は放課後、シェルさんなる人物を探すため図書館に向かった。

 合言葉は「秘密の匣」だ。


「困りましたね、考えてみれば図書館でシェルという人がいるかどうかはわかりません」

・・・確かに、生徒の名前が図書館で調べられるわけがない。

「生徒名簿を調べるなら生徒会か職員室ですね」

 リマさんが至極もっともな事を言う、生徒会と聞いて顔をしかめるアイネちゃん。そりゃ、ミハイル家の坊ちゃんがいるからね、あまり気が進まないようだ。


「職員室ですと調べる用途を答えないといけませんよ」

 それはそれでややこしい事になりそうだ。

「分かりました、私は生徒会室に行きます!マーナさんの言葉からただならぬように思えてしまって」

 アイネちゃんが決意をこめる。

「それでは、私はこの学園に出入りしている業者について調べてみます」

 そうか、リマさんはさすがに生徒会室に入れないか。それぞれやるべき事を決めると行動を開始することになった。


「おい」

 ぶっきらぼうな声に呼び止められる。


「・・・何か御用でしょうか?ゼル様」

 おぉう!氷の表情になるアイネちゃん、例のガンつけ少年のゼル君が絡んできたのだ。


「いったい何を隠している、短期間であのような成長はありえない!何をした!」

 おや、怒っているなぁ。君も死線をくぐれば強くなれるよ。

「特別なことはしていないと言ったはずです!」

「嘘をつくな!」


「いい加減にしないか!」

 おっと、ここで助けに入ったのはシルヴィスト・ミハイルだ、側から見るとアイネちゃんがゼル君に絡まれている図だからね。


「チィッ」

 2対1で場が悪いと思ったのか、ゼル君は舌打ちして去っていった。しかし、シルヴィストさんは性格もイケメンのようだ。

「ありがとうございます」

 お礼を言うアイネちゃんだが複雑そうだ。この姿を見ていると無理強いはしたくないな。


((帰りましょう、辛い気持ちは我慢してはダメ))

 私はアイネちゃんの耳元でそっと囁いた、これはアイネちゃんの為にならないと判断した。

「で、でも」


((花魔法、華の香))

 私はパンッと手を叩くと周囲が花の良い香りに包まれる。


((落ち着いて、何があっても私は貴女の味方よ))

 優しく声をかけると、強張った顔が落ち着きを取り戻す、

「なんだ?この香りは?」

 ヤ、ヤベっ!?シルヴィストさんがいたのを忘れてた。

「すいません、シルヴィスト様。私は母の件から心を落ち着かせるために匂い袋を持ち歩いています」

 咄嗟の判断でそう言うと私専用のポーチを見せる。確かに匂いの原因は私だけど、

「そうか・・・やはりショックじゃないわけはないよね、辛い時に自分なりの対処法を見つけたわけか」

 うーん、私にはシルヴィストさんが悪い人には思えないんだよね、それか何も知らないだけなのか?


(アイネさんの複雑な心境はソレでは?)

・・・たぶんソレだ!なんてこった、鏡の方がアイネちゃんの心境を先に悟ってしまった!なんて鏡なんだ!


(ふふん、鏡は人の心も映しますからね)

 名言っぽいことを言われた!?


「グランドルには私から注意しておこう。もし、私のいない時に絡まれたら殿下らを頼りなさい」

「はい、ご心配をおかけしました。私は大丈夫ですから。・・・ところでこの学園で探したい生徒がいるのですが、生徒会に学生の名簿を拝見させてもらう事は可能でしょうか?」

 私は突然の提案にビックリする、だけどアイネちゃんの顔に迷いはなかった。

「学生名簿かい?もちろん可能だが大変だよ?」

「はい、お手を煩わせませんので何卒」

 そう言ってアイネちゃんは深く頭を下げてお願いする。


「分かった、今から行くからついて来なさい」 

 そのまま私達はシルヴィストさんの後について行き生徒会室に向かった。


 数人の学生が作業をしている。その中に見知った顔もいた、王子君にノッポ君、ドリルちゃんの仲良し3人組だ。向こうもこちらに気がついて近づいてくる。


「殿下も生徒会に?」

 アイネちゃんが真っ先に挨拶をし、すぐに尋ねてみた。

「あぁ、シルに是非入ってくれと言われてね」

 シルヴィストさんは中々のやり手のようですね。優秀な政治家っぽいやり方で王子君を取り入れようとしているのか?

「もしかしてアイネさんも生徒会に参加されるの?」

 期待を込めた視線でドリルちゃんがアイネちゃんに声をかける。

「いえ、すいません。私はある生徒を探してまして、こうしてお邪魔させてもらいました」

「そう」

 あからさまに残念そうなドリルちゃん。好感がもてるぞ、名前はなんだっけ?


(ミリアリア・ベルリアル公爵令嬢です)

 うむ、覚えたぞ!


 私達は生徒会の隅っこを借りて在校の学生名簿を開く、シェルという結構ありそうな名前なのでいるかと思ったが中々いないものである、というか1人もいなかった。

「シェルという名前の生徒?いたかな?」

「1年生にはいないと思うわ」

 色々伏せて聞いてみたが、誰も心当たりはないようだ。

 結局、何も情報がないまま帰宅することになった。


 うーん、やはり名前だけで探すのは難しいな、どうやらリマさんの方も大した進展はなさそうだし。

 明日、もう一度マーナに何か手がかりがないか聞いてみよう。



「ラヴィリス様、今日はありがとうございました。おかげで落ち着くことができました」

 就寝前に改まってアイネちゃんにお礼を言われた。


 今まで信じていた人が母親をハメたかもしれない事、その息子で兄のように慕っていた人と以前と同じように接することが出来ない心の葛藤も今日ようやく気づけた。

・・・がんばりすぎなんだよ、貴女の母親と同じような顔しやがって。


「・・・私がこんなナリじゃなければ抱きしめてあげたいですが・・・」

 

「貴女が1人で頑張っているのは知ってます。だから言いますが、私は何があっても貴女の味方です」


「だから、1人で苦しまないで下さい、私も一緒に苦しみます。辛くて逃げ出したかったら私も一緒に逃げます」


 黙って聞いてたアイネちゃんから静かに嗚咽がもれる、涙がこぼれ落ちている。

 本当に抱きしめてあげられないのが辛い。


「何度でも言います、私は何があっても貴女の味方です」


「・・・ハイ・・ハイ!ありがとうございます」


 慰めたい私はアイネちゃんが泣き止むまで側にいてあげるつもりで部屋に同行する、ベッドに入るといつのまにか私も寝てしまったようだ。朝になったらアイネちゃんと一緒のベッドで寝ていた。

 小さいと場所を取らないから、こういう時は便利ですね。


 パン!


 私は花魔法「華の香」を使う。心地よい優しい花の香りが部屋を包み込んだ。


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