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精霊女王と呼ばれた私の異世界譚  作者: 屋津摩崎
二章 リントワース編
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30.リントワースの昼下がり



ー ーホランド・リントワースーー


「ようやく行ったか」

 ほっとした気持ちになった。我が娘ながら落ち着きのないお転婆に育ったものだ、いったい誰ににたのやら。

 勝手に学園を休み、禁足地の静寂の森へ行くなど、本当に思いもしない行動をとってくれる。


 もっとも、今回はそれに助けられた。


 まさか、禁足地の静寂の森にとんでもない存在がおり、その助力を得ることができるとは。


「地の女神セルリス様直系眷属のラヴィリス」


 女神の直系眷属の妖精など初めて見た。

 見た目は美しい黒髪の可憐な容姿で女神の御使にふさわしい美しさであった。ただし可憐な容姿とは裏腹に叡智と威厳をかね揃えていた。

 娘のアイネに薬聖の叡智を与え、錬金の技で我がリントワース家を呪いから解放した。


 そして仇なす悪鬼に対し、徹底した鬼神の如き戦術には驚愕した。入念な下準備を行い、相手に打開の余地を与えぬ作戦はまさに芸術的だ。

 さらに本人が戦場に立つと高レベルな地属性魔法を繰り出し圧倒的な力を見せつける。AAA級以上の悪鬼を相手に死者は0人、負傷者数名、目立った被害は我が家の花園のみという信じられないような完勝であった。


 そして驚愕の事実を告げられた。


 ただの妖精ではないと思っていたが、まさか終焉の地バンゲアで生まれたと聞かされた。

 伝説と言われる終焉の地からやって来た使者なのか?勇者の出現の噂といい、魔王顕現の予兆といい、まるでひと繋がりの事象のように思えてくる。

 本人はひどく否定していたが私はラヴィリス様こそ新たに生まれた精霊女王なのではないかと思っている。

 幸いなことにラヴィリス様はアイネの事を気に入っており、我が家にも好意的である。

 妻の呪いの件では自身の事のように怒りを覚えていて、真相の究明にも力を貸してくれるという。

 我が家にとってはラヴィリス様の存在はまさに光明であった。

 しかし、宮廷に悪意を持つ者がいる可能性がある以上、ラヴィリス様の存在は内密にするべきであろう、ミハイル侯爵家に関しても盟友の自負はあっても、今の現状ではとても信じられない。

 

 見極めが重要だ、これからは気を引き締めねば!




ーー メイドのタナ ーー


 私はタナ、リントワース家に12歳の時にお仕え始め、もうすぐ4年になる。リントワース家の方々は皆さん優しく本当に良い職場だった。

 ただ奥様が病に伏せてからは雰囲気がとても暗くなってしまった。


 そんな時に長女であらせられるアイネお嬢様が帰還された。そして私はアイネお嬢様が連れてきた妖精のラヴィリス様と出会った。

 ラヴィリス様がいらしゃってからは屋敷の雰囲気は一気に明るくなりました。

 ウェーブがかった長い黒髪と真っ白いお肌、なにより凛とした美しいお顔に私は釘付けになった。

 しかし、ラヴィリス様はリマ先輩がほぼ独り占めしている、エプロンのポケットの中に収まっている姿を見た時はリマ先輩に殺意さえ覚えたほどだ。

 鉄面皮のメイド長クレア様までもが夢中のようで、どこからか持ってきた小さなティーセットをラヴィリス様に渡したらしい。悪戯っ子の先輩マリアさんはかまってほしくて色々悪戯して怒られて喜んでる・・・本当に困った人だ。


「皆さん、ぜひ協力をお願いします」

 リマ先輩がある日、珍しく私達に助力を求めて来た。

「ラヴィリス様が大きくなられ、お召し物がありません。なんとか皆で作れないでしょうか?」

 私はすぐに賛同した!私は昔から裁縫が得意だ、役に立てる!メイド一同が協力することで一致した。

 採寸する時に眠っているラヴィリス様に触れた時に興奮してしまったのは内緒だ。

 お召し物は徹夜したけどすぐに完成した。気に入って着てくださるだろうか?


 翌日、ラヴィリス様のお召し物を見て感動に震えた、私が縫ったドレスを着てくださったのだ!


 今日、ラヴィリス様は王都に旅立った、寂しい気持ちになる。

 旦那様達が王都へうかがう際は侍従を志願しよう、ラヴィリス様を領館に招待すると言っていたから、その時に再会できるはずだ。

 志願者の倍率は高そうだが私は諦めない!何としても今、縫っているドレスをこの手でお渡しするんだ!




 ーー 庭師のニール ーー


「ごめんなさい、この薬を使えば筋肉疲労が治りますので使ってください」

 小さな妖精さんが謝罪と共に渡されたのは膏薬であった。

 儂はリントワース家に仕えて50年になる古株だ、すでに60歳を越えたが妖精を見たのは初めてだ。

 妖精と話したことはあるはずがなく、こんなに丁寧で礼儀正しいとは思わなかった。


 今回、屋敷の敷地内で鬼退治が行われた。鬼を見るのはもちろん初めてだ、恐怖で正直言って震えたわ。

 ただ、この戦いで儂の世話する花壇と生垣が非常に役に立ったらしい、嬉しくもあり誇らしかった。

 小さな妖精さんは儂の世話する植物を絶賛してくれた、だから花壇を枯らしたことにとても責任を感じているようだった。


 儂なんかに頭を下げて謝罪などしなくても良いのに。


「いんや、お前さんの役に立ってくれたなら、これほど誇らしいことはないって!」

 フォロー程度に笑って応えたが、こうやって薬を持ってきた。まぁ、偉い妖精さんにほめられれば悪い気はしないな。

 帰って婆さんにこの薬を塗ってもらった。驚いたことにずっと痛かった腰が全く痛くない。


 妖精の秘薬まさに恐るべし!


 アイネお嬢様が妖精さんに薬作りを教わっているらしい、ぜひこの薬の作り方を教わってほしいものだ。




 ーー若手実力派冒険者ーー


 領主から依頼がでた。

 Cランク以上が条件で、かなりの報酬が出るらしい。俺達はすぐに飛びついた!なんでも領主邸宅で鬼退治をするらしい、その鬼がA級クラス魔物らしいのだ。

 A級相手との戦いは初めてだ、領兵団との連携にはなるがとんでもない経験になる。ギルド長も今後のために良い経験になるから参加してみろと言ってくれた。


 もちろん俺達は意気揚々と参加した。


 そして戦端が開かれた。1対約100人、常識的に考えて負けるはずのない戦いのはずだった。


 その異形の鬼の姿を見た時、俺達は身動きが取れなかった、いや単純に恐怖で体が動かなかったんだ。

 悪鬼と呼ばれた魔物は3m以上の身長に筋肉隆々で全身が黒光りしている。圧倒的な脅威に動けずにいると、一筋の光が悪鬼の周りを旋回している。

 それはまるでこの場にいる人間すべてを鼓舞するようだった。


 するとすぐに領兵団が動き出した。


 なんという洗練された動きなんだろう、異形の怪物相手に怯むことなく勇敢に戦う姿に尊敬と憧れを覚える。


 次に現れたのは元Sランク剣闘士「瞬火」のラルズだ!生ける伝説級剣士の戦いが近くで見られたのは感動を覚えた。

 俺達も勇気を振り絞る、俺達だってやれるはずだ!

「俺達も続くぞ!」

 前衛にスイッチするように踊り出る!

 しかし、戦慄する!悪鬼の圧倒的な力の前になすすべがなかった。

 棒立ちになってしまった俺達を救ったのは領兵団長で王都のA級剣闘士の「リントワースの剣」フレディ・バートであった。

 激励されて我を取り戻し、俺達は剣を振るった!!


 長い戦いが終わった、途中で負傷して遠目からしか見えなかったが、巨大なドラゴンの召喚魔法が見えた。アレがトドメになったのだろう。

 後から聞くとトドメをさしたのはリントワースの姫であるアイネ様だという。

 本当になんという方だ!才女とは言われていたがここまでとは、アイネ様がいればこの地は間違いなく安泰であろう。


 今回は自分達の実力不足を痛感した。


 ギルド長もそれを教えたかったのだろう、あのレベルに達することができればいつかA級まで登り詰められるはずだ。


 夢は果てしなく続いている。



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