27.悪鬼戦 その3
「出ます!!」
私とマキシムはラルズさんと前衛を交代する。
マキシムは集団戦のスキルを持っているので私に合わせて連携して攻撃してくれる。
影魔法のシャドウダイブでお互いの位置を交代しつつ戦う、私の呼吸に合わせて影に飛び込んでくれる。まるで歴戦のパートナーだよ君は。
何度目かの黒い渦巻魔法を放とうとするが私はすぐに避難する、そして同じことを何回でも繰り返す。
大分イライラしているようだ、私はさらに冷静にさせないように挑発する。
私ばかり狙うのは挑発のスキルの効果だけではない、おそらく神樹魔法による束縛を解く手段を分かっているからだ。
今回の戦いで私は常に大規模な神樹魔法を使っている。普通の木々なら簡単突破されてしまうが、私が魔力を流し続けることによって強力な結界になっており、そう簡単に出ることができないのだ。
なので私は定期的に後方に下がり魔力を回復させている。
この戦法で唯一の欠点が魔力の消耗の激しい高出力魔法が連発できないのであり、おそらく使えるのは1〜2回だということだろう。
私はフレディさんに目配せし交代、魔法の準備をする。前衛はフレディさんとラルズさんを残してきた。
大地に手を着き練るように魔力を流す。よし、ログをつかんだ!くらえ、今の私に使える最強魔法!!
「行きます!!」
大声を張り上げる!合図と共に皆がその場から一気に離脱する。
「ジオグラフィックバトン!」
「地龍王アーズ!!」
この魔法はこの大地のログを辿り、この地の土地神を復元させる大魔法で何が出るかわからない超強力なビックリ箱的召喚魔法なのだ!
この地の土地神様は地龍王アーズ様だ、お願いします!!
地面が膨らみ、ツチノコのようなドラゴンの姿が形成される。
そして、そのまま悪鬼に襲いかかる!
ドガガガ!!
体当たりによる凄まじい衝撃と砂煙が巻き上がる。
一方の私はヘロヘロとマキシムの背中に降りた。そしてすぐさま魔力を回復させる。
「・・・悪夢だな」
フレディさんが呟く、悪鬼は健在であった。実際には高速自己修復でMPは減っているはずである。
レギオン
LV58 HP:796/960 MP:143/745
「あともう少しでMPが枯渇するようです」
解析結果をフレディさんに伝える。
「そうか、もうひと踏ん張りだな」
再び剣を握ると駆け出していった。
私はマキシムに乗ってアイネちゃんの下に戻る。
ヘロヘロなので運んでもらい地精吸収でMPを回復する。
アイネちゃんは兵士の治療で大活躍だ、与えられた仕事をしっかりこなしている。
「アイネちゃん、私がもう一度大魔法を使ったら清め水を悪鬼にぶっかけて」
「・・・ハイ、やってみます」
荷が重たかったか?顔が強張っている。
「大丈夫!失敗しても私がなんとかするから!」
「えっ?で、でも」
もうすぐ夕方になりつつある。暗くなる前に片をつけないとよろしくない。私は再び「穢れし花」を使い瘴気を浄化する、これで最後にしないと後がない。
ジオグラフィックバトンの態勢に入る。自身の魔力がごっそり大地に入っていくのがわかる。
困ったぞ、満身創痍すぎて前線のフレディさんとラルズさんに合図をかけるほど余裕がない!
「フレディ!ラルズ!行きます!」
とっさにアイネちゃんが叫ぶ、本当に優秀な弟子だ!
「いくぞ!!ジオグラフィックバトン!!」
2人が一気に離れる。
「地龍王!!」
「アアァァーズ!!」
力を振り絞り大声で叫ぶ!
悪鬼めがけてアーズが襲いかかる、
ドガァァン!
私はその場にへたり込む。もう動けない、神樹魔法も解かれてしまった。
ただ、とてつもない寒気がした!
悪鬼が砂煙の中、猛ダッシュで私に向かってきたのだ!
その姿はもう自己修復してない、ボロボロのナリで襲いかかる。
動け!動け!動け!
必死に魔力を回復させるが悪鬼は私だけでも殺そうとしている。
「キャイン!」
いち早く気付いたマキシムが立ちはだかるが吹き飛ばされる。
「マキシム!」
顔を上げるとすぐ近くに悪鬼の爪撃が迫っていた。
「私の家族に手を出すなぁぁ!」
叫びながらバケツいっぱいの清め水を悪鬼にぶちまける。
アイネちゃんもマキシム同様にすぐに動き始めていたのだ!
ジュワアアアァァ!!
悪鬼は苦しみのたうちまわり、水蒸気を上げて溶けていき、あっという間に元のタリスマンの姿に戻っていた。
その姿に濁りはなく、紫色の澄んだ美しい宝石であった。
「ラヴィィリィズざまー」
泣きながら私を抱き抱えるアイネちゃん、あうぅ、あまり強く抱きしめられると骨が折れてしまうぅ。
「お嬢様、それくらいにしないとラヴィリス様が死んでしまいますよ」
ラルズさんが助け出してくれた。
「ふぃ〜、さすがに疲れたわ」
マキシムを抱き抱えたフレディさんもやってきた。
「はははは、死亡者0人!完璧な勝利だ!」
「うふふ、こんなに皆さんボロボロなのに?」
「ハハハ、それでもですわ!」
フレディ隊長の軽口も軽快だ。
「あの、そろそろヤバいので私は休みます、」
魔力の使い過ぎで意識が遠退いていく。疲れ果てた私はアイネちゃんに抱き抱えられたまま寝落ちしてしまった。
「おやすみなさい、ラヴィリス様」
アイネちゃんの優しい声が聞こえた。




