196.風の女神フィオル
ーーアリエッターー
「すいません、後から必ず追いつきます」
お姉様にそう言うと、皆と別行動で私は風の女神様の教会へ向うことにした。
テルーに付き添いをお願いするとすぐに快諾してくれた。
更に遅れて行く私達の為にシャンティと話し合い、後から追いかける手筈を教えてもらっていたようだ。
早朝、清々しい空気を一身に浴びてプーちゃんは空を舞う。
「風の女神様の教会は島の南側か」
テルーが方位磁石を取り出す、南に向かって進路をとる。
「あれですかね?」
密林の中に屋根の高い建物が見える。建物の前に着地する、何処かで見覚えのある像が立っている。
「・・・フィオル様」
大きく息を吐く、勇気を振り絞って教会の中に入る。
ずっと人の手が入ってなかったのだろう、中はだいぶ廃れていた。
「拝礼ってどうやってやるの?」
恥ずかしながらやった事ないのでテルーに聞いてみる。
「こうやって膝をついて、手を胸の前で合わせて頭を下げるんです」
テルーが見本を見せてくれる、私もそうやってみる。
2人揃って座り、フィオル様に拝礼をする。
「えっ?・・・これは」
テルーが異変にすぐ気付いた、私の周囲に光の魔法陣が展開されている。
・・・これは・・・私を呼んでいる?
「テルー!ごめんなさい、少しだけ行って来る!すぐに帰ってくるから待ってて!」
私はそう告げると転移魔法に身を委ねた。
『アリエッタァァ!!!』
物凄い勢いで抱きしめられる。突然の出来事に困惑してしまう。
『良かった、本当に良かったぁ!生きて、生き残ってくれてありがとう』
大粒の涙をこぼしながら私を強く抱きしめる。
ああ、良かった。会いにきて本当に良かった。
私も涙腺が大決壊してしまい、フィオル様の胸にうずくまる。
『ごめんね、こちらの勝手で貴女をこの世界に放り出して。貴女に辛い思いをさせて本当にごめんなさい』
大粒の涙をこぼしながら謝られる。お姉様が言った通り母性が物凄くて痛い、物理的に!
『ごめん、興奮しすぎた!』
大きな柔らかいものから解放され、お互い見つめ合う。
「改めてお久しぶりですフィオルお母様」
私の言葉にフィオル様は更に涙ぐむ、
『会いに来てくれてありがとうね。本当は再会を喜びたいけど、実は今回は禁を破って内緒で会いに来たからあまり時間がないの』
そうか、私の誕生日にはまだ早かった。そう言うとフィオル様は手袋?を取り出した。
『従属者のテルーちゃんに渡してあげて、彼女の偏って歪な才能を放っておくと必ず不幸を招くわ。これをつければ次第に矯正できるはず』
鑑定をしてみるとサパジオスというマジックアイテムだった。
『ついでにそのマジックバッグを改良するわ。時間停止と容量を無限にしておくわ』
そう言うとあっという間にマジックバッグを改造してしまった。
矢継ぎ早にどんどんやっていく、本当に時間がないようだ。
そしてあっという間に別れの時間がやって来た。
『何があっても貴女は私の娘よ、これから先も貴女の幸せをずっと願っているわ』
『会いに来てくれて・・・ありがとう!』
『誰よりも愛してる』
最後の言葉を残して私は元の教会に戻されていた。
嬉しくて胸がいっぱいになる、抱きしめられた時の感触が今も残っている。
・・・誕生日になったら必ず会いに行こう。
「アリエッタ様!」
「ピイッ!」
テルーとプーちゃんが私に気付いて近づいてくる。
「どれくらい時間が経った?」
私にとってはとても短かった、テルーから1時間は経っていると聞いて驚いた。早くお姉様達に追いつかないといけない。
それでもこれだけは渡しておこう。
「テルーこれを。フィオルお母様から貴女の為にと渡されました」
「えっ!!私に!?」
サパジオスをテルーに渡す、
「なんで・・・なんで私なんかの為に」
突然テルーが号泣してしまった!?
取り敢えず泣き止むように落ち着かせる。
「私なんか、もう、ずっと与えられるばかりで、何もお返しすることが出来なくて」
本当に優しい子だ、私は小さな手で彼女の涙を拭う。
以前までは私が泣いてばかりだったのに、いつの間にか立場が逆転してしまったな。
「私はテルーから一杯貰っているから、貴女がいたからこうして一緒にいられるんだよ」
テルーが落ち着くように撫でてあげる。
「私は、生涯ずっと付き従いますから」
そう言うとテルーは私を優しく抱き抱える、少し大袈裟だけど嫌な気分はしない。
・・・だけどテルーはテルーで自分の人生を生きてほしいな。
とりあえずサパジオスを鑑定する。
天縫サパジオス
所有者: 天空の女神フィオル
概要: 魔力吐出調整フィルタ
本当にテルー専用の特殊矯正具のようだ、サパジオスをテルーにつけてもらう。
「フィオルお母様がおっしゃるには、テルーは他の人よりも相当量の魔力を放出できるらしいの」
その才能があるから超高レベルの魔法も使用できる、ただその出力を出す為にテルーの体内にある魔導回路に多大な負荷をかけることになる。
更に魔力を作り出す魔導核も搾り出すように魔力を放出し続ける事になり、肉体に物凄く負荷がかかっているという。
いずれそれがテルーを不幸にする。
禁を破ってまでフィオル様が私に会いに来た理由はそれだった。
矯正方法として放出量を規定値に制限すれば、自然と自分で感覚を学んでいけるとの事だ。
「難しい・・・」
一応、説明をしたが難しすぎたようだ。実を言うと私もイマイチ分かっていない。要するにテルーの体を守る為の道具だと言っておいた。
試しにコウリュウを使ってもらう。
パスンッ!
「どう?何か違う?」
テルーは不思議そうな顔でサパジオスを見ている。
「何か凄い馴染んでいく気がします」
試しに今度はもっと魔力を込めて撃ってもらう。するとコウリュウは青白く光を放つ、
ズバンッ!
おお、木を貫通した、魔力を込め方がとても滑らかだった。
「何となくコツが分かった気がします!」
テルーの顔が綻び大喜びする。どうやら毎回怪我をしていたのはテルー自身の体質的な問題だったのか。
「アリエッタ様、ありがとうございます!」
私は首を横に振る、そしてフィオル様に視線を向ける。ハッとしたテルーは改まって膝をつき、熱心に感謝を伝えている。
でも時間的にそろそろ行かないといけない。
「テルー、そろそろ行くよ」
このままではいつまでも感謝を込めて祈っていそうだ、テルーを促し私達はフィオル様の教会を後にした。




