19.「薬聖」アイネ・リントワース誕生!その2
夜中は皆寝ているから静かにしよう。
「申し訳ありません、つい大声を出してしまって」
口を両手で塞ぐ仕草を見せるアイネちゃん。あざとい、可愛い。
「・・・私は従僕魔法というものを持ってます。この魔法は本来、制約をつけて強制的に私のいうことをきかせるための魔法です。ただし隷属魔法等と違い双方の同意で私のスキルを分け与える事ができるようになるの」
すう、と息をのむ
「つまり、私の従属に入れば薬聖のスキルをあなたに授けます。そのかわりこの契約魔法は死ぬまで解除されません」
・・・カガミンに映るアイネちゃんは真剣な表情で私を見つめている。
「今日はもう遅いので返事は明日でいいですよ、お父様とも一度よく話し合って下さい」
「・・・はい」
「ふぅ〜これでいいか」
一晩中煮出した鍋は半分以下にまで減っており異様な色に仕上がっていた。
「・・・わたしはコレは飲めないな」
自然と顔が引きつってしまう。
私はこの異色鍋を冷ますため蓋をして冷暗室に封印した。
「さてと、寝よう!」
徹夜は辛いので寝ることにする、リマさんにお願いして寝床を用意してもらう。
大きなバスケットの中にフワフワの毛布を入れた特製ベッドだ!小ちゃい私にはこれで十分!実に省スペース!!
どれぐらい寝ていただろう、何故か私はぬいぐるみに囲まれていた、呆然と見渡すとメイドさん達が目を逸らす!
おまえらか!何してんじゃ!!
悪戯っ子メイドさん達を叱っていると、リマさんが私を呼んでいるのでポッケに入る。着いた先は執務室です、どうやら昨夜の返事が聞けるようだ。
ホランドさんとアイネちゃんが待っていた。
「話し合いをされました?」
私は2人を眺めて聞いてみた。
「まず、ラヴィリス殿に確認しておきたい事がある」
「なんでしょうか?」
まず、ホランドさんが口を開く、
「従属に関してだが、制約とは一体何なのでしょう」
・・・考えてなかった。
「そ、そうですね、欲しいのは助手というか力役・・・ですかね。薬を作るのに力がいるんですが、見た目とおり私は非力で大変なんですよ」
正直に手伝って欲しい事を認める。
「まあ、確かにその体格では」
私をマジマジと見てる、言いたいことはわかるよ!
「私はアイネさんの事を気に入っていますからね、彼女の嫌がることはしませんし、絶対服従しろとは言いませんよ」
表情が明るくなるアイネちゃん、とても嬉しそうだ。
「我々としては非常にありがたいことだが、薬聖などという伝説的なスキルを分け与えるなど本当によろしいのですか?」
え?そうなの?
「気にすることはありませんよ、使い道が難しいスキルですし、知識がないと役に立ちませんからね」
チラッとアイネちゃんを見る。
「あっ、あのっ!私はラヴィリス様の弟子になりたいです!!」
アイネちゃんが突然声を張り上げる。私の助力に乗って説得をしようとする。
「本人も言っていることですし、私は悪いようにはするつもりはありませんよ」
「・・・本当に何から何まで、何と感謝したらよいものか」
ふぅ〜、とホランドさんは安堵の深く息を吐く。アイネちゃんは許可が降りたということで嬉しそうにホランドさんに抱きついている。
ふう、何とか助手を確保できたな。
今ここに将来の「薬聖」アイネ・リントワースの誕生の瞬間であった。
では早速作業に取り掛かる。
冷暗室で冷ましておいた異色鍋を持ってもらい匂いがこもらないように外に出る。興味津々でギャラリーが集まってくる。
期待の眼差しを向けるアイネちゃん・・・どうしよう、単に栄養満点滋養薬を作るだけなのに、やることはシェイクするだけなのに、
「・・・アイネちゃん、前と同様にこの鏡で私を映してて下さい」
皆の前であのシェイクダンスをするのか、私は花薬瓶を取り出し鍋の中身を適量入れる。そしてシェイクする!恥も外聞も関係ない!やってやる!
シャカ、シャカ、シャカ、シャカ、シャカ、
(上手になってきましたね、魔力の浸透力がとてつもないですよ!)
シャカ、シャカ、シャカ、シャカ、シャカ、
皆さん、不思議な踊りをしているわけではありません。そこの駄メイド共!手拍子なんてするな!
30分くらいやっただろうか。慣れなのか、中身の変化を感じられるようになった。
(さすがです!感知能力が伸びてきたかもしれませんね!)
中身を取り出すと、あの毒々しい液体が某栄養ドリンクみたいな黄色い炭酸水になっていた。
ちょっと味見してみると、おぉぅ!この味を異世界で味わえるとは思わなかった。
「アイネちゃん、どうぞ味見してみて」
「はっ、ハイ!」
恐る恐る口にするが、一口飲むと表情がいっぺんする!
「これは、今までに味わった事のない味です!」
「じゃあ、アイネちゃんにもこれを作ってもらいます、この鍋全部作りますから大変ですよ」
アイネちゃんにやってもらう、彼女なら花薬瓶がちょうど良い大きさだ。ただ、まだ浸透力が弱いらしくなかなか変化がない。すでに1時間程やっている。
「・・・くっ!」
アイネちゃんの顔に焦りの色が見える、うーん何が悪いのだろうか。
(魔力の伝達力と浸透力が足りませんね、イメージとしては治癒魔法を花薬瓶にかけ続ける感じですね)
私はそっくりそのままアドバイスを伝えた。すると真剣な表情で再びシェイクを始める。
おっ、なんとなくいい感じだ!
「いいですよ、アイネちゃん。花薬瓶に魔力が流れてます」
「ハイ!」
自分でも手応えがわかるのだろう、表情が明るい。
正味2時間、だいぶ時間がかかったが何とか完成する、
「う〜ん、何かシュワシュワが少ない気がします」
首を傾げるが鑑定では問題ない効能だ。
大きな瓶を用意してもらい冷暗室に保存しておく、温いと不味いですからね。
そして2人で交代で一日中シェイクし、なんとか全部作り終えた。
アイネちゃんもさすがにクタクタの様子だが、やり遂げた思いから充実した顔をしている。
「ありがとうございます、アイネちゃんのおかげで思ったより早く作り終えました!」
「ハハハ、想像以上に難しい作業だったんですね」
笑顔で応える、私が助手を欲しがった理由が分かったようだ。
「それでもちゃんとやれてましたよ。とても筋が良いと思います」
誉めて伸ばす教育は基本だよね!
「どうですか?初めての薬作りは?」
私が悪戯っ子ぽく感想を聞いてみる、するとアイネちゃんはその場でゴロンと横になり感想を言ってくれた。
「・・・クタクタでよく分かりません」




