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精霊女王と呼ばれた私の異世界譚  作者: 屋津摩崎
八章 絶海のアルカトラズ編
176/499

176.紅薔薇の悩みの種

 ーーエディリー・レスコットーー



☆時は遡りラヴィリス達の出発前


 メルブラントの人間が全く役に立たない、義父オーレンの足取りが全く掴めていない。

 最近はオルベアからの催促も多い、何をそんなに焦っているのか分からないが、もう私はオルベアの人間ではないのを分かってないのか?

 生まれがオルベアというだけでいつまで手下扱いするつもりなんだ?

 一応もう私はこの国の侯爵夫人なんだ、この国に住んで10年以上経つから愛着だってある。


・・・先ずはその責務をこなさなくてはならないな。


 馬鹿な姪っ子がやらかしてくれた、リプリス姫だけではなく、全く関係のないウィリアム家まで罵倒しやがった。

 さらに馬鹿な父親まで一緒になって罵倒し、挙句の果てに全部リプリス姫が悪いと喚き散らかしたらしい。


 こうして久しぶりに近衛隊詰所にまで足を運ばなくてはならなくなった。


「あら、エディリー。珍しいなここに来るなんて」

 白薔薇ことベリーサ・ウィリアムに歓迎される。

「先日は義兄と姪が迷惑をかけてしまった。本当に申し訳ない」

 こうして夫と手分けして周辺各所に頭を下げて謝罪行脚に回っている。


「マチルダ嬢は?」

 ベリーサは心配そうな表情をする、本当にお人好しで困る、

「全部自業自得だ、できれば今回の事がリプリス様の足枷にならなければ良いが」


 本当になんで王家の王女に喧嘩をふっかけるかな?


 自分が次期王妃だと思っているのだろうか?頭が悪すぎて嫌になる。


「本来ならマチルダが謹慎されるべきなのにな、未だに被害者ぶっている。魔法の師匠として叔母として本当に情けない」

 再び頭を下げるとベリーサに必死に止められる、

「エディリーが悪い訳ではない、陛下も大事にするつもりもないようだから、もう頭を下げないでくれ」


「おっ、エディリーではないか」


 ノックもなく小柄な女性が入ってきた、顔は似ているのに体型は全然似ていない。


「お久しぶりです、ベルベレッサ様」


 鬼薔薇と呼ばれる要注意人物だ、剣聖に次ぐ実力の持ち主と言われている。

「この度は姪で愚弟子と馬鹿な義兄が迷惑をかけてしまいました」

 この際だから何度でも頭を下げる、

「お前さんは悪くないからそう頭を下げるな、それに怪我を負わせた方も悪い。リプリスにはキツいお灸をすえるつもりだ」

 自分の孫でこの国の第1王女にお灸か、本当に規格外の人だ。

「もしかしてベルベレッサ様自らが?」

 恐る恐る尋ねると大笑いする、

「おお!性根を叩き直してやるわ!」


 本当ならマチルダの馬鹿も連れて行って欲しいぐらいだ、でもプライドだけは人一倍高いから無理だろうな。


「もしかして、あそこに行くのですか?」

 あのベリーサが青ざめている。どんな恐怖の場所なんだろうか?

「いや、今回は少し嗜好を変えて例の場所に連れて行く」

「・・・例の場所?」

 つい聞いてしまった。目があってしまい気まずい雰囲気になってしまう。

「ああ、とても楽しい場所だ」

 凶悪そうに笑っている・・・でもこれは誤魔化す笑いだ。


 詰め所から出ると使い魔を呼ぶ、

「ベルベレッサ様とベリーサをつけろ、2人とも勘が鋭いから気を付けろよ」

 そう言うと使い魔は姿を消す。

「さてと、何が出てくるかな?」

 目を瞑り耳をすます、使い魔からの聴覚情報が入ってくる。


((リプリスをアルカトラズに連れて行くのですか?))


 アルカトラズ?絶海のアルカトラズか?


((ああ、後、アイネ嬢ら問題児らも連れて行って鍛えてやる。ついでにオーレンも張り倒してくる))

 まさかのビンゴに興奮を抑えれない。


((本当にオーレン様はそこにいるのですか?))


((ああ、陛下からの情報だ、間違いないだろう。何かの後始末のために行っているらしい・・・ん?何かいるのか?))


「ヤバい、戻れ!」

 すぐに使い魔の召喚を解除する。


「ふう、ここまで出張って良かったな。それでも、もう少し裏を固めるか」

 私は意気揚々と歩き出した。



★時は戻り港湾都市ベルダ・レスコット侯爵別邸


 突然、予定にない来客が来た。私は急いで王都からベルダの街に向かった。本当にどいつもこいつも余計な事ばかりする。


 しかし、なぜこのタイミングでオルベアからの使者がやって来るのだ?


 そして出迎えて早々目眩がした、この国でその法衣を着て歩き回るな!私はこれでもこの国での立場があるのだぞ!

 オルベアの人間ではない私をスパイのように便利扱いしやがって。


・・・だけど使者達は私の言葉に耳を貸さない。


 なぜなら来た人間が想像以上に大物だからだ、教皇の懐刀自らやって来るとは余程の事なのだろう。

 明らかに私の事を格下に見ているからか、ここに来た理由などは一切教えてくれないし、上から目線で一方的に用件だけを言ってくる。


 仕方ないから入手したての情報を教えてやった。

 その場所を聞いた時の奴の苦々しい顔が見れて少し気分が良くなった。


「どうやってアルカトラズに行くつもり?私は同行する訳にはいきませんよ。これでも一応この国の侯爵夫人なんですから」

 聖騎士ジャン・レイ・ロッサーノに嫌味っぽく尋ねる、

「そうだな、船では無理だよね。本国から飛空船を呼ぶしかないなよなぁ」

 適当な答えに頭が痛くなる、

「滞在するなら大人しくしていて下さいよ、私にも立場がありますから」


・・・できれば諦めて帰って欲しい。


 ジャン・レイは手をヒラヒラさせて了解のポーズをとる。

・・・本当に分かっているのだろうか?


 しばらく頭痛の種になりそうだ。





 ーーラヴィリスーー



 本当に良かった、到着した時はすっかり暗くなってしまったが何とか宿を見つける事ができた。

 プーちゃんはさすがに疲れたのだろう、縮小魔法で小さくなるとテルーさんの持つバッグの中に入って眠ってしまった。

 まだ幼竜なのにたいしたものだ。


 宿はホテルというよりコテージに近いもので、一軒家のような建物に数部屋の寝室とキッチンと浴室がある。

 キッチンでは早速メアリーさんがその腕を振るっている、肉の焼ける良い匂いがする。


「アリエッタ、プーちゃんは?」

「魔力を使い果たしたようですね、ぐっすり眠ってます。明日1日休めば全快すると思います」

 かなりの距離を飛んだからな、やはりこの島で1日休まなくてはならないか。


「では明日はこの島を散策してもいいのですか?」

 リプリス姫が目を輝かせている、

「そうだな、でも午前の訓練はするぞ、自由になるのは昼からだ」


「「「えぇ〜」」」


 女の子達からブーイングが出るが聞く耳持たない様子だ。


「出来ましたよー」

 メアリーさんがどんどん料理を持って来る。

「・・・作りすぎでは?」

 その量にドン引きしてしまう。

「あっ、別皿にしてラヴィリス様の鏡の中に保管してもらおうと思ってます。そうすれば島に行っても食べる事ができますから」

 なる程、作り置き料理ということか。

「冒険者の基本だとシャンティさんに教えてもらいました」

 ほお、凄いじゃないか。皆が尊敬の眼差しを向けると顔を真っ赤にさせる。


「・・・普通は保存食なんだけどなぁ」

 ボソッと呟く、思っていたのと違ったようだ。




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