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精霊女王と呼ばれた私の異世界譚  作者: 屋津摩崎
八章 絶海のアルカトラズ編
171/499

171.薔薇は舞台裏で華麗に舞う。 その2

 ーー王都・メルブラント邸ーー


「旦那様、紅薔薇様がおこしです」

 執事に連れられ、赤い髪をしたグラマラスな女性が入ってきた。


「エディリー、こんな遅い時間に何の用だ」


 紅薔薇ことエディリー・レスコットは妖艶な笑みを浮かべている。


「義兄様、義父様の居場所は分かりましたか?」


 メルブラント家当主ルブロンは苦々しくエディリーを睨みつける。

「追い出しておいて居所が分からなくなるとか、そんな失態をよく出来ますわよね」

 顔は柔和に笑っているが非常に蔑む視線を向けている。

「そりゃ、貴方では王座に座れませんわ」

 追い討ちをかけるように小声で侮蔑する。


「そんなに虐めないであげてねエディリー」


 寝室から艶かしい寝着を着た女性が出てきた。

「あら義姉様、起こしてしまいました?」

「ユミル、君には関係ない、寝室に戻っていろ」

 ユミル・メルブラントはルブロンの妻でオーレンの実の娘だ、それなのに何故か扱いは雑だ。


「あらあら、そんなに邪険にしなくても良いのに」

 肩をすくめて寝室に戻っていく。

「頑張ってねエディリー。弟にもよろしくね」

 手をヒラヒラさせて去っていく。

「薄気味悪い女だ」

 自分の妻なのに悪態をつくルブロンにエディリーは辟易していた。


「・・・お前よりよっぽど使えるけどな」

 ルブロンに聞こえないように心の中で呟いた。


「オルベア側から催促が来てますわ、何か返事してくださるかしら?」

 一応ここに来た目的は果たさなくてはいけないと、業務的に尋ねる。


「お前が適当にしとけ、私はマチルダのことで忙しいのだ」

 ルブロンは自分の娘マチルダの起こした失態を処理することで頭がいっぱいのようだ。

 リプリス姫にやられたと連絡が入った。けしかけたのはマチルダの方らしいが、それで返り討ちにあうのだから情けない。ルブロンは姪っ子に恥をかかされて苛立っているようだ。


・・・それにしてもリプリス姫が想像以上に才を伸ばしている。


 裏にはおそらく白薔薇ベリーサやウィリアム家がついているのだろう。それにグランドルとベルリアルが後援につくと公言した。


「グランドルは隙がないから厄介なんだよなぁ」

 部屋を出たらついボヤキが出てしまった。


 グランドル家は元々エルヴィン王子の教育役だった、それを一部の馬鹿どもが暴走し排除した事から計画が大幅にズレてしまった。

「やはり馬鹿どもに足を引っ張られるか。真っ向から戦ってグランドル家に勝てると思っているといるのか?」

 グランドル家は剣聖ハズリム卿だけと思っている馬鹿が多い。1番の脅威はグランドルのカリスマ性と求心力だ、南部貴族の連帯力を甘く見過ぎだ。


 深いため息をついて帰路につく。義父オーレンの持つ賢者の石を探るべくメルブラント家に近づく、そして婚家にまでなったが、最近はその程度の低さに選択ミスだったと感じている。


「ふぅ、私が動くしかないか」


 エディリーは大きくため息を吐いて、そのまま夜の闇に消えていった。




 ーーシシリィーー


「奥様、ダイスからです。おそらくグランドル様からと思われます」


 サティに簡潔に書かれた紙の切れ端を渡された。

「・・・やっぱりシェルが狙われていたのね」

 大きくため息をついた。

「表立って協力態勢はあらぬ疑いを受けるとの事ですが」

 おそらくラヴィリス様が一枚噛んでいるのだろう、簡潔にまとめられたメモの中身は非常に濃いものだ。


「ありがとうサティ、貴女が味方で本当に幸運だわ。もし出かける際には必ず気をつけてね」

 お礼を言うとサティは一礼して部屋を出て行った。


 孫娘のミリアリアはおそらくアリアス王子一派だ、これは夫のゴメスとの共通認識だ。


 青薔薇クローディアから教えを受けたのが不味かったのか?しかし祖父母が孫の教育に口を出す訳にはいかないだろう・・・

 息子は学者肌で勉強は出来るが狡賢さがない。こういう事を言ってはいけないと思うが、まだ為政者としては足りないところが多い。娘のミリアリアを厳しく罰せられない事からもよく分かる。

「ラヴィリス様は生徒会について疑いを持っているようね、なら私がすべきはクローディア・ミストの周辺ね」

 本当なら私もアルカトラズに行き、オーレン様に一言文句を言ってやりたかったが仕方ない。


「シシリィ、まだ起きていたか」


 寝室に夫のゴメスが入ってきた。

「お疲れ様。どうでした?」

 表情は難しそうだ、ミリアリアから情報を引き出すことが出来なかったのだろう。

「なかなか手強い」

 大きく息を吐く、強く尋問できない弊害が出ているようだ、やはり身内は難しい。


「ラヴィリス様からよ」

 私は先程のメモの切れ端をゴメスに渡す。真剣にメモを見ている、

「やはりシェルリースが狙われているか、しかしグランドルに喧嘩を売る意味を分かっているのか?」

 私も同感だ。南部貴族のグランドルへの忠義は絶対的だ、下手をしたら国が南北に割れてしまう。


「私は北東のミスト公爵を調べてみるわ」

 あくまで噂だがアリアス王子側についたと聞いている。青薔薇クローディアが憂国の志士に加わったら大きな脅威となる。

「青薔薇か、一度洗ってみても良いかもしれないな。それでは私はアリアス王子と面会してみよう、陛下ともちゃんと話さなくてはならない」

 夫は宰相の仕事もこなさなくてはならないから大変だ、あまり無理をして欲しくない。

「身体には気をつけて下さいね、無理は禁物です」

 心配して言葉をかけると嬉しそうな笑顔が返ってくる。この人は昔から変わらないなぁ。


「ところでオーレンの件はどうなった?」


 そう言えばこの人はまだ知らなかったんだ。

「聞くところによると絶海のアルカトラズにいる可能性が高いみたい。ラヴィリス様は向かうようです」


・・・何か考え込んでいる。


「どうされました?」

 私が尋ねると言い辛そうにしている。

「いや、陛下から大公に協力するように打診されててな」

 確かに難しい判断だ、大公からの協力内容は間違いなくオーレン様に関する事だろう。


「ふう、一度ラヴィリス様に会いにいかなくてはならないな」





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