169.問題児の更生計画
ーーベルベレッサーー
「いつ以来だろうな、リプリスのあんな笑顔は」
つい思っていた事を口にしてしまった。そんな私をシェルリースが変な目で見ている。
「ふう・・・最近はずっとあんな感じですよ。少しは自重して欲しいくらいです」
呆れたようにため息をつかれた。
「サンクリスでの出来事がリプリス様を大きく成長させたのでしょうね、王女なのに凄まじい死線をくぐり抜けてますからね。温室育ちの王族とは一味違うと思いますよ」
シシリィはこういう時ありがたい、ちゃんとした答えを教えてくれる。
「イデア様と重ねてはいけないのは分かっているが、いけないな、本当にそっくりじゃないか」
ゴメスが鼻息荒くしていた理由が分かった気がする。
「・・・行かせてやりたいな」
また口に出してしまった。皆が私を変な目で見ている。
「ベルベレッサ様なら可能じゃないですか?」
シシリィが呆れている。自分でもグジグジ悩んでいるのが柄じゃないのは分かっている。
「お前さんも来ればよかろう、それなら陛下も納得するだろうて」
ハズリムまでも小憎らしいことを言う、
「確かにそうだな、孫の我儘くらい叶えてやらなくてはな」
何となく踏ん切りがついた気がする、リプリスの為にも人肌脱ぐか。
「ところで、また妖精が増えてたな?ウチの国はいつから妖精に占領されたんだ?」
アリエッタと言ったか?しかも今度は風の女神の御使だと?上位妖精のスプライトが2体もいるなんて、いくらなんでもおかしいだろ!?
ハズリム達は苦笑しながら顔を見合う。
「おそらくラヴィリス様とアイネ・リントワース嬢のせいでしょうね。あの2人が周囲をどんどん巻き込んでいくのですよ」
シェルリースが苦笑いしながら答えてくれた、その答えに全員が納得した顔をしている。
「・・・そうか」
何だろう、私もなぜか笑みが溢れてしまった。
ーーラヴィリスーー
楽しい空のランデブーを終え再びグランドル邸の中庭に着地する、想像以上に楽しかった。
「それでは魔法を解除します」
アリエッタが4人に告げると、みるみる元の大きさに戻っていった。
興奮冷めやらぬ様子の4人は嬉しそうに騒いでいる、
「ラヴィリス様、どうですか?行けそうですかな?」
ハズリムさんが近づいてきて私に尋ねてきた、
「ええ、私は行けると思います。それでも万全を期してマリーメア島から飛び立った方が良いでしょう」
私の答えに嬉しそうに頷く、
「ところでアリエッタ殿、縮小魔法は定員何名くらいですかな?」
4人が行けたのだから大丈夫じゃないのか?
「先ほどの4人にあと大人数人ぐらいですがどうかな?」
この4人に大人数人?まさか・・・
「ええ、範囲魔法なので全然大丈夫ですよ。それに空の上なら私はほぼ無限に魔力が得られますから」
・・・はぁ、爺婆は本当に甘いなぁ、聡いリプリス姫はすでに感づいているぞ。
「お婆様!?いいのですか!?」
「勿論私も一緒に行く。シェルリース学園長からの依頼で問題児4人の更生を頼まれた」
ベルベレッサさんの言葉に他の3人は固まる。
「わっ、私も問題児なのですか?」
「もっ、問題児はアイネだけかと・・・」
「テルー酷いっ!!」
3人とも青い顔をして狼狽えている、シェルさんは容赦なく断罪する。
「ボヤ騒動をいきなりおこしたのは?」
メアリーさんが目を背ける。
「乱闘騒ぎ」
リプリス姫がビクッとする。
「半月ほど無断で学校サボってみたり?」
アイネちゃんが自分の事だと途中で気づく、
「アイネさん。言っておくけどアナタ出席日数が圧倒的に足りないわよ。このまま行くと皆と卒業できないかもしれないわ」
アイネちゃんが青ざめて顔から血の気が引いていく。
「あっ、あの私は?」
テルーさんがシェルさんに尋ねる、彼女は一般人なので特に狼狽えている。
「テルーさんは真面目で成績優秀で言うことは無いわ。ただ・・・なんとなく。そう、連帯責任ということで」
テルーさんだけ扱いが雑だ、シェルさんが私に助けを求めるような視線を向ける。
「まあ、無理して倒れて、皆から心配された挙げ句に更にまた無理するような子はダメでしょうねえ」
私のダメ出しに、姉貴分のシャンティさんが大いに賛同してくれた。
テルーさんも心当たりがあるのかシュンとしている。
「ゴホン、話し合った結果、貴女達は大きな力を持つ割に精神的に未熟すぎると判断しました」
シェルさんが一回咳払いをして間をとる、
「ここにいるベルベレッサ様が貴女達を一回しごいてくれるそうなので、お願いする事にしました」
「「「・・・」」」
無言なんだけど、これはどういうリアクションなんだろうか?シシリィさんと目が合うとそっと耳打ちして理由を教えてくれた。
「複雑な気分なんでしょう。ベルベレッサ様のしごきは剣聖ハズリム様でも逃げ出すほどで有名ですから」
さすが鬼薔薇の異名を持つ人だ、実際に鬼軍曹のような人のようだ。
騒ぎを聞きつけてゼル君も来ていた、ダイスさんも一緒にいた。どうやらグランドル家にも大分馴染んできたようだ。
「ところでゼルさんは行かないんですか?」
私が尋ねる、すると高速で首を横に振る、よほど嫌らしい。
「うふふ、冗談ですよ」
「ふぅ、キツい冗談ですって」
ダイスさんとも軽く挨拶する、そして私は2人の間に入り内緒話をする態勢に入る。
「少しご相談があるのですが、よろしいですか?」




